ボチボチ屋 ズカさんの話

ズカさんは88歳です。
2年前に、肺炎になり、入院しました。それは、ズカさんにとっては、はじめての入院でした。健康が自慢で、特にどこも痛いところもないズカさんにとっては、自分が年を取っている、という自覚がほとんどなかったのです。
もちろん、自分は若い頃とはさほど変わっていない、と感じていますので車の運転もしてきました。
しかし、肺炎になったときに、お医者さんから、車の運転はやめてください、といわれたのです。それで、ズカさんは車にのるのをいったんやめました。お医者さんは、ズカさん全体の衰えをかんじて、免許を返納してください、という意味で言ったのですが、ズカさんの理解は、肺炎が良くなって、体の調子が戻ったら、また運転できる、というものでした。
ズカさんの自慢は、免許をとってから、無事故、無違反できている、ということでした。 いつも、私は、無事故、無違反ですから、といいます。しかし、それは過去のことであり、これから自分は弱っていく、という将来は見ていません。 奥さんにしても、ズカさんが運転してくれたほうが便利です。 買い物に行って、重い荷物を持って帰るのは大変ですから。
しかし、奥さんも、このごろズカさんは、何かが突然におこると、それに対処できなくなっていることに、つまり、ぱっと反応できなくなっていることに気が付いています。でも、そのことをいうとズカさんはすごく怒るのです。
ズカさんにとっては車の運転をとりあげられる、ということは社会から追放される、くらいのことなのです。自分がいらない人間になる、自由がうばわれる。さて、どうすればいいのでしょうか。事故がおこってからではおそい。そして、ズカさんは自分の人生の最後に加害者となってしまうかもしれない。

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