カギの人 ギシさんの話

ギシさんは73歳になりました。93歳のお母さんのお世話をしています。
お母さんは書道の塾をずっとしており、お弟子さんもたくさんいて、ずっと先生、と呼ばれていた人でした。ギシさんは、お母さんを尊敬していましたし、大切でした。
お母さんが80歳代半ばのころ、心臓がわるい、といわれました。そのときに、ギシさんはお母さんの心臓の手術をしてくれる病院をさがしまくり、お母さんを治してください、と熱心におねがいして、大きな手術をしてもらいました。そして、手術は成功して、お母さんはその後も長く元気に過ごしています。
しかし、ここにきて、ギシさんも弱ってきました。ギシさんも病院に通っています。そして、お母さんも弱ってきたため、ギシさんの負担は大きくなっています。
ギシさんは、ギシさんの体のことを考えて、少しデイサービスに通ってほしい、といいました。しかし、お母さんはガン、として断ります。ギシさんは、息子のからだのことは心配しないのか、と怒鳴りましたが、ダメでした。
いつまでも生きていてほしい、その願いは変わりません。しかし、心臓の手術をたのみにいったあのころには、ギシさん自身が年を取って弱っていく、ということは少しも考えていませんでした。むつかしいものです。

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