お月様のはなし カンさんのこと

カンさんは、80歳です。このごろ、まったく自信がなくなりました。若い時はバリバリと仕事をこなしていましたが、75歳で退職してから、本当に弱りました。付き合いは悪いほうではなく、友達もたくさんいました。しかし、一人かけ、二人かけ、みんなどこかに病気をもつようになり、寄ると必ず病気の話になります。このごろでは、カンさんのほうから誘われても出かけなくなりました。
奥さんに、やいやいいわれて、スマホをもつようになりました。しかし、これがどうしても苦手です。まちがったところを押してしまい、それから元に戻らないのです。小学生のこどもたちが片手で簡単に操作するのをみると、ため息がでます。昔は、年寄りが若い者に自分の知識を教えるものでしたが、いまは逆になりました。
この間、ふらついて、転びました。さいわい、骨折はしませんでしたが、地域の体操教室にかようことになりました。さて、体操教室では、やる前に血圧をはかり、正常でないと体操させてもらえません。なれない教室で緊張していたのでしょうか、カンさんの血圧はおどろくほど上がりました。係りの女の人が大きな声で、血圧たかいですねえ、といって、これでは体操はできません。そこに座って休んでください、といいました。カンさんは毎月薬をもらいに近くのお医者さんにかよっていて、そこでは血圧は正常なのです。しかし、血圧がたかい、とこれほどまでに責められるものなのか、とさらに自信をなくしたカンさんでした。

カンさん、空をみてください。お月さまが、あなたに話かけています。

そうですねえ。自信を取り戻すのは、なかなかむつかしいです。
カンさん、なにか、自分で1日ひとつ、幸せさがしをして下さいね。
道端に、きれいな花をみつけた、ということでいいのですよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?