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ボカロPとAIイラスト〜考えてみたシリーズ 2〜

前回の記事はこちらになります。

要約すると、

・棒人間しか描けない自分が(だからこそ)、AIイラストにはまりました
・基本、楽しい。でも、色々複雑な思いがあります、ハイ

といったところです。

今回は、DTMer(とりわけボカロP)とAIイラストについて書きます。

ボカロPの現状と世間様の認識

なりたい職業?

一時期、中学生のなりたい職業ランキングTop10にボカロPがランクインし、話題になりました。

この手のランキングは、調査機関や調査手法によって結構変わるので、上記のランキングが全てといいませんが、それなりに実態を映し出していると思います。

この時のTwitter上の反応は、「ボカロPって職業なのか?」「ボカロPで食ってる人はナノミクロンクラスだぞ」といった、ある意味当然の反応が大半だったように記憶しています(自分も同様の感想を持ちました)。

「ボカロPになりたい、って思ってくれるんだったら、素敵なことやん。それをいい大人が『現実を見ろ』と諌めるのはかっこ悪い(意訳)」といったご意見もちらほらあり、それもまた正しいと思います。

ですが。
やはり現実は厳しいのは間違いない。
そこから、今回の話はスタートさせて頂きます。

ボカロPとは


公的機関が定義を定めているわけじゃありませんが、ボカロ曲(AI合成音声含む、以下同じ)を1曲でもネットにアップして公開したならば、ボカロPと名乗って良いようです。
僕は自分からボカロPと名乗るのに気恥ずかしさを覚える旧世代ですが、再生数はともかく、30曲以上公開してきたので、ボカロPを名乗ってもよいでしょう。

大半のボカロPが華やかなステージとは無縁という現実

「ボカロ曲 再生回数Top100」のようなランキングはすぐに出てくるのですが、自分のような無名ボカロPがざっくりどのくらいの再生数か、というデータはあまりありません(あることにはありますが、データが古かったりします)。

そんな中、ググって見つけた比較的新しいデータがこちら。

いも男爵さんによる解析ツイート。主眼はボカロ曲再生数における、YouTubeとニコ動の差異なのですが、どちらにせよ、楽曲の過半数以上が1,000再生さえ届きません。
ちなみに僕の場合、ニコ動で1,000再生超えたのは一曲のみです。

「底辺ボカロP」という自虐呼称はやめようよ、というご意見は定期、不定期に見かけますが、自虐に走りたくなる気持ちはよく分かります。

さらにMVあって当たり前という風潮

ニコ動にしろYouTubeにしろ、それらは動画サイトなので、動画を準備するのは当たり前です。そりゃ、仕方がない。

問題は、美麗なイラスト、画面に洒落たエフェクトが入ったり、歌詞がダンスしたり…のようなMVがあって当たり前、という風潮です(今に始まったことではありませんが)

「問題」という表現を使いましたが、視聴者にとっては「問題」ではなく、むしろ動画としての質が全体的に上がり、喜ばしいことかもしれません。

しかし楽曲の作り手としては、なかなかにしんどい。
ボカロPのほとんどが、まず曲を作りたい人間であり、イラストや完成度の高い動画を自前で準備できるわけではありません。
仮に上記をどうにか準備できるスキルがあっても、できる限り、曲作りに時間をさきたいのは、みなさん一致するところじゃないでしょうか。

一方、心血注いで作った曲をどうにかたくさんの人に聞いてほしい、と思うのも当然のこと。
でも、ピアプロからお借りした一枚絵に自分で歌詞をつけただけの、「素朴すぎる動画」では、再生数自体がなかなか伸びない(※注1)

※注1:一方。そんな「素朴すぎる動画」でも、ざっっくり50〜100再生してもらえます。無名のボカロP、さらには「素朴すぎる動画」の曲でも、「とりあえず聴いてみるか」と再生してくれる方々が一定数いらっしゃる。本当にありがたいですし、これこそニコ動が築き上げてきたボカロ文化の真骨頂と思います。

さてと。
そんなボカロPが取りうる有力な手段の一つが、スキルマーケット等を利用したイラスト、動画作成の発注です。
ただし…

当たり前ですけど、お金がかかるんですよね

そりゃそうですよ。
上手な人はそれを武器に報酬を得て当然です。
そこに異論はないです。

でも、1曲のMVを絵から動画作成まで有償依頼で行うと、最低でも5万円程度はかかるのではないでしょうか?



1/29追記:
やや久しぶりにとあるスキルマーケットサイトを覗いてみました。
イラスト+動画で、15,000円〜という案件もあり、「イラスト+動画で、最低でも5万円程度」というほど高くはない模様。

2023年1月段階で、動画の相場は約15,000円〜、イラストは相場を設定できないほど価格設定に大きな開きがある感じです(クオリティと実績で段違い平行棒)

以下はあくまで個人的印象ですが数ヶ月前に案件を依頼した時に比べて、

・歌みた、ボカロ曲向けMV作成案件が数倍増えた印象
・上記案件のダンピングが起きている印象(過当競争)
・イラストはむしろ、平均的に値段が上がっている印象
・AIイラスト以前に比べて、上級スキルの手描きイラストの価値が、上がっているのかもしれない

…と感じました。

以上、追記終わり



仮に5万円だとして、これはなかなかの金額です。
そして、有償依頼で素敵なMVを作っても、それが再生数の担保にはなりません。

自分自身、10万円までは行かないが5万円を遥かに超える金額を支払って、絵&動画の有償依頼をしたことがありますが、ニコ動再生数200程度で止まりました。

まあ、最終的には音の勝負ですし、上記の依頼の際は、とても丁寧な対応をして頂きました。「ああでもない、こうでもない」とクリエイティブなやり取りができたのも、とても楽しかったです。出来上がったMV自体は、とても満足のいくものでした。

多くのボカロPがAIイラスト生成&自主動画作成に流れるのではないか

自分は熱心なボカロウォッチャーではないので、現在のトレンドをしっかり把握していませんが、自分含め、動画のイラストをAIで生成しているボカロPが増えてきたように思います。

AIモデルによっては、差分も楽に生成できるものもあり、それはすなわち、絵が描けなくてもムービーだって作れてしまうわけです(すでにあるようです)

なぜボカロPがAIと手を結ぶのか

① コスト削減
② 有償依頼を行っても、自分のイメージどおりに行かないことがある。一方、イラストに関しては、AIだと自分のイメージを投影しやすい。
③ 有償依頼につきもののトラブルがない(以前、自分も嫌な気分になったことがありました。「お金払ったのに」って、そりゃ思いますよね)
④「カースト制度」打倒

①〜③は、説明加えなくてもわかると思います。

④について。
あえて物々しい表現を使いました。

ボカロPと聞くと、かっこよく、華やかなイメージがあります。
売れっ子Pさんはそのとおりでしょうが、前述の通り、多くのボカロPは仕事やバイトで稼いだお金を音源や機材につぎ込みつつ、ただ「好きだから」の一心で作り続けています。
加えて、より多くの人に聞いてもらうには、動画作成にも力を入れなければいけない。

ボカロ界はボカロPがいてこそ成り立つはずなんですが、実際は、

 動画師≧絵師>>>>ボカロP

という「カースト制度」が出来上がっている、と感じています。

それが、少なくともイラストの部分を自分でコントロールできるようになることで、心理的、金銭的ストレスがかなり軽減するのだから、おそらくAI利用の割合も加速していくのではないでしょうか。

それはすなわち、スキルマーケットにおける絵師さん達の減収につながっていきます。有償依頼を数回行った人間として、後ろめたさはあります。

でも、こんな愚痴も聞いてください。

Twitterでかつて定期的に浮上していた「本当の信頼関係は、有償依頼にこそ生まれる」論。
それはそうかも知れません。
ビジネスだから適当にやっていれば消えていく。

ただ、今でも忘れられない、とあるツイートがありまして。
(どなたのツイートかもわからないし、文章は趣旨は替えずに組み立て直してます)

「基本、有償で依頼を受けるけど、○○PさんのMVだったら、自分から喜んで無償で引き受けるよ」

このつぶやき、「そうだよね」と思う反面、「え〜」と感じたのも事実です。
そっか、ボカロPって選別されるんだね、と思いました。
少し悲しくなりました。

そんな思いがあったからか、先程、「後ろめたさがある」と書いたものの、AI絵の生成に慣れてきたら、わりと躊躇なくAI絵をMVに使いました(動画の技術は全然で、依然、素朴すぎる動画のままですが)

まとめ

というわけで、AIでイラストを生成できるという大変革は、多数のボカロPにとっても一大事件ですし、革命です。

AI画像生成になんらかの規制が入らない限りは、たぶん、ボカロ曲MVもAIイラストで溢れかえる時代は遠くないと思います。

これは、音楽にAIがよりディープに入り込んできた時に、ボカロPが直面する問題でもあるので、もちろん他人事ではありません。

音楽とAIについては、また後日書こうと思います。

とりあえず、ボカロPがAIイラストを使用する理由が、単純にコスト面だけではないことが伝われば、本記事の役割は十二分に果たせたと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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