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にゃあ日記17

〈あのストーカーの目的はなんなのだろう〉
ストーカーなら後ろめたさから姿は簡単に見せないが、いや見せたとて卑屈さが目に余るはず。
あやつは私の帰宅をいち早く察知しては、間髪入れず顔ごと身体をすり寄せにやってくる。
実際には、衣類に多少のニャン毛がつくことも稀にはあるので用いる慣用句としてはおかしい気もするが。
抜け毛が少ないのもロシアンブルーの特徴らしい。

密度の濃い毛量から覗かせるにゃあの顔は、男の子特有の天真爛漫そのもの。
ストーカー気質は、あるものの努めて溌剌とした印象。

毎日、毎日
シュタシュタ、シュタシュタ…
一体普段どこに身を隠してこっちをみてることやら。

餌を求めるでもなく、ただただ私に会いにきてくれる猫。
マスターは、
「やはり目的がわからない。」
と異な事を口にする。

後日、私は名曲に準えて
「それを世界は、愛というんだぜ。」
とからかったこともある。

マスターは日毎、にゃあのことを思う時間が増えた。
頭のスペースがにゃあで占めていき、コロナにまつわる不安が頭の隅に追いやられ自然と笑える日が増えた口にする。
気持ちに比例する様にタタミ半畳程の人目につかない玄関前の死角で逢瀬の時間は増えていく。

 相変わらず威厳と愛嬌を兼ねた見た目だが、やはり今日の今まで首輪はしていない。
そして徐々に薄汚れていくスキニーな身体が新たな悩みになりつつあった。

「にゃあたん、あんた普段どこで寝てるの?お家あるでしょ」
にゃあは、意に介さずゴロゴロと幸せのノドナリを響かせる。
蝶の鍵束のジャラジャラのお返しの様に。

常に警戒は怠らない。決して中には入らない。まるで北緯38度線

18へつづく

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