推しがセンターになってヲタ卒する話③

初めての握手の後は、しばらく放心状態だった。
自分の芋臭さを痛感した私は、とりあえずなんとかせねばと思い受験勉強と並行でおしゃれを始めた。
黒縁の太い眼鏡をやめて、シルバーフレームの比較的存在感の薄いものに変えた。日常的に前髪を巻くようにもなった。

そのあたりから、グループは少しずつ人気が出始めた。メンバーの1人が雑誌のレギュラーモデルになって、表紙を飾り出した。ドラマやバラエティーにも出演し始めた。ファンの間では贔屓だのなんだの言われていたけど、あい子とボブ子が推しの私から見ても可愛い子だったので特に異論なかった。
受験勉強の合間も、私はSNSを辞めなかった。
ボブ子やあい子の通知をオンにして、時たま彼女らがするネット配信も心待ちにしていた。ボブ子がある日何気なく「〇〇さんまた来てくれたの!」と言ってくれた時は本当に嬉しかった。他のメンバーの配信やSNSもチェックして、グループが徐々に大きくなっていくのを肌で感じていた。グループの成長が当時の私の生活のモチベーションだった。

受験が終わり、私は無事第一志望の大学に進学が決まった。たまたま、合格発表のあった週末に地元でイベントがあり、奮発して3枚のチケットを握りしめて会場へ向かった。母に買ってもらったワンピースはおしゃれな友達からもお墨付きだった。

今回のイベントは小規模で、メンバーのうちの5人がやって来て、全員と握手ができるというものだった。あい子はいなかったけど、ボブ子とリーダー、メディア露出の多い子もいて、私としては大満足だった。

「〇〇!配信いつも観てくれてるよね、アバターにリボンついてるでしょ?」
私の名札を見てすぐ、リーダーの子が瞳を輝かせた。認知なんてされたことがなかったのでうんうんそうだよと頷くだけで精一杯で、胸がいっぱいになった。

その次が、メディア露出の多い子だった。全員が可愛いグループだが、やっぱり別格に可愛い。顔が小さくて全てが華奢で、私が腕を掴んでしまったら折れるんじゃないかと思うくらい細かった。
握手は一列になって順繰りにするのだが、炎上していたこともあってか、前の人がその子と握手をしなかった。
心臓がひやりとしたような気持ちになって、さっと手を出した。
「ありがとうっ」
わあっと嬉しそうに笑ってくれる顔を見て、きゅっと切ない気持ちになったことを覚えている。4つ下の、多分当時中3だった彼女はどれだけ辛い思いをしてたんだろう。
「そういえば、この前私受験受かったんだ!!」
「そうなの〜!偉いね!!」
ぽんぽんと頭を撫でてくれたその手が小さくてびっくりした。ファンサも厚いなんてすごいなあと感心した。

ボブ子はまた最後だった。
「〇〇さん?ありがとうー!」
覚えているのか覚えていないのかよく分からない反応だったけど、それで全く構わなかった。
前で笑ってくれて、合格おめでとうと言ってくれただけで嬉しかった。
でも、2回目で
「あれっ!思い出した!〇〇じゃんー!私とあい子のこと応援してくれてるよね!?名札にアイコンも載せてよ!!」
と笑ってくれた。大学生になったらまたいっぱい会いに来るねと伝えて、放心状態、夢見心地で家に帰った。

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