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M山木の*怪盗(20)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

歩柴青年が呆然として自然に委ねていると掠れたような声があっと言った。
青年は驚いて周りを見渡すと木立の隙間から女が顔を覗かせていた。
ごめんなさい。あの私。女は顔を赤らめて青年に背を向けた。女の肩には結われた髪が無造作にしたためられていた。いけないところ見ちゃったかしら。女の声は今にも消え入りそうだ。

「待ってください」歩柴青年が呼び止めると女は振り返った。
女の顔は青白く不健康にみえた。ごめんなさい。女はまた謝った。
「謝らないで」青年は起き上がると女の顔から少し目線を逸す。
あの。私。初めてだから。女は確かめるように呟いた。青年は女の身なりから卑しさを感じた。年齢はわからないが自身とあまり変わりないのではないか。青年は考える。さてどうしたもんかしら。
「歩柴と申します」青年は手を差し伸べた。女との距離は十尺ほどある。
ええ。女は自分に言い聞かせるように答えた。取り乱しているようだ。
私に近づいてはなりませんわ。女は忠告する。女は青年を直視できないのか股のあたりをまじまじと眺めている。ゆう。女は謎の単語を残して木立の奥に姿を消した。

歩柴青年は女の後ろ姿を静かにみつめていた。変な女。
青年は草むらに目を落とす。七つ道具を入れている手提がなくなっていた。
乞食にしてやられた。あの女。青年の沸点は瞬時に上がる。
いや待てよ。青年は落ち着きを取り戻した。
七つ道具を目にしたとき女の顔はどうなるだろうか。
見てみたいなあ。青年は嬉々として木立のなかに駆けこんだ。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。