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M山木の*怪盗(19)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

勇敢なる歩柴青年は小林青年と別れると股引のなかから金属音を鳴らし徽章を取り出した。
聖年探偵団の徽章は糶で高値が付くと言われている。七つ道具は男女の快楽を満たすもので聖年探偵団員は常に肌身離さず携帯していた。

小林くんはア怪に会ったことがあるなんて。
羨ましいなあと歩柴青年は素直な心持ちで一人頷く。
可愛らしい小林くんならきっとア怪を虜にすることも出来るかもしれない。
それに比べて僕ときたら。あるのは家柄だけぢゃないか。

歩柴青年は都会育ちの小林青年にどこかで引け目を感じていた。
素朴といえば聞こえがいい。礼節という名の近所付き合い。
執事や召使いの目が厳しく自由に溺れることも許されなかった。
聖年探偵団というままごとだって両親が明痴探偵と懇意にしてなかったら入れなかったに違いない。歩柴青年は徽章を握りしめ草むらに向けて角度をつけて投げ出した。

審美眼。幼少の頃からとやかく言われ鑑賞を強いられてきた。
親からの干渉に耐えかねて反抗したこともある。
執事が都度緩衝剤になって機嫌を伺ってきた。
私に残された期限とは何なのか。歩柴青年は感傷的な気分に陥っていた。
勘当されてもいい。むしろ勧奨してくれ。姦商の小林聖年に完勝したい。

いや小林青年のことが頭から離れない。
環礁のように気持ちの波が押し寄せてくる。

股引のなかに残っている徽章を両手で回して歩柴青年は草むらのなかで風の香りを嗅いだ。
つんとした匂いが周囲に充満するのを感じて地面に尻餅をついた。



断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。