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M山木の*怪盗(1)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

M山木ア怪現るーー
新聞の一面に大きく書かれた見出しに張形警部は苛立ちを覚えていた。
年齢不詳、容姿端麗、神出鬼没。手を替え品を替え巧妙に男子学生を誘惑する期代の大泥棒にK都府警刑事一課の面目丸潰れ。三文新聞の分際で。張形警部は喉元まで出かかった言葉を留める。地元の私立大学卒業後、叩き上げで刑事一課まで上り詰めた。実家は茶道一家だった。
張形警部は連日の取り調べにも覇気がなく威厳も日に日に衰えているようにみえた。貞操を奪われて嬉々とする学生、穴があったら入ってしまいそうなくらい縮こまる学生、目の奥から語りかけてくる迫力のある学生。
「張形、予告状だ」呑気に湯呑に口をべったり付けている巨漢が曇った声を上げた。張形警部の同僚、穴掘警部である。
部屋の中心にある受像機にはでかでかと崩字が映し出されていた。

五月雨の童が燻し腸詰に
栗の遺り香美味な物かな *拝

「判ったぞ」張形警部は椅子から立ち上がり意気揚々と鼻息を排出した。
「童というのは、男子学生」講釈は儂に任せよという圧力が暑苦しい。
「腸詰というのは、sausageのことを指しているんだ」つまりは男子学生の逸物を頂戴しますと。口に出して咀嚼しないと気が済まない張形警部。
「で、五月雨の意味するところは」穴掘警部は茶々を入れる。
「季語だよ季語」そんなことも解らないのか、これだから風情の解らぬ筋肉集団などと罵られるのだ。張形警部は胸の奥底でぼやき節を吐く。
「で、ア怪は何処に現れるのさ」穴掘警部は食い下がら無い。
「M山木に決まってる」「どこの御宅に出没するのかと聞いているのだよ」穴掘警部は呆れ顔で声を少しばかり荒げる。
「んなこと解ってたら苦労しないさ」
現場へ直行しよう。張形警部はいつもの澄ました顔に戻っていた。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。