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M山木の*怪盗(26)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

●前回までのあらすじ●
M山木に*怪盗あり——
年齢不詳、容姿端麗、神出鬼没。
先祖代々大怪盗を生業にしてきた*怪盗ことア怪が盗むのは、無垢な男子学生の初めての経験。ア怪と明痴の正面対決が勃発。
ア怪とK都府警、聖年探偵団に明痴探偵を交えた性の交錯はどこを目指して進むのか。

●主要登場人物●
https://note.com/potaro/n/nd1841ffbe7df

「文明の利器とは乙だねえ。粉を溶かして茶を沸かし緑に覆われた高級旅館で一人で寛ぐ至福の時間てのは何物にも代え難い」
非番の張形警部は障子と襖のある和室で寛いでいました。
「調度品の南部鉄器も素晴らしいなあ。一流旅館の看板に偽りなし」
急須の側面を眺めようと手を当てた途端に余りの熱さに張形警部は黄緑色の液体を畳に零してしまいました。
「今日はどこの可愛子ちゃん呼ぼうかな」
張形警部は何事もなかったように部屋の済の棚から電話帳を取り出したときでした。

「失礼致します」
声がして間もなく着物姿の年配の女性が部屋に入ってきました。
「当旅館の女将でございます。おもてなしをと思い参上いたしました」
ご用件をお伺いいたします。
女将は柔らかな表情を作って張形警部を見つめました。
「籠の鳥でございますね。多数取り揃えておりますよ。お好みに応じて御用意させていただきます。幹ちゃん好ちゃん乱ちゃん。如何いたしますか」
女将は張形警部の足元の液体に気づいて口だけ二言三言動かしますと「承知いたしました。特殊嗜好にも対応可能な特上をお連れします」といって浴室の方で向かったのです。

「出口が違いますよ」張形警部は平然を取り繕って指摘しました。
「風呂場が隣の部屋の厠と繋がっているのでございます。当旅館は性財界の御用達としてお忍びで参られる方が多いものですから」
浴室から少し響くような女将の声が聞こえたかと思うと「しばしお待ちを」と言ったきり浴室からは物音ひとつしなくなりました。
至福の時間を得るためには身なりをと思ったのか張形警部は用意してた一張羅に手をかけ上着を脱ぎました。
骨ばった身体からは職業を特定することは困難のようです。

「失礼致します」
またしても女性の声が聞こえ張形警部は余りにも準備が早いものだと驚いて一張羅をGOWNのように羽織りました。
部屋に入ってきたのは出迎えのときの若女将でした。
「特上とはまさか」張形警部の言葉を無視して若女将は部屋の入り口の方に向き直りました。若女将の後から毛量の多い男が一人入ってきました。張形警部は旧知の人物が部屋に現れたことに更に驚きました。折角の非番も心臓には負担を与え続ける出来事ばかりのようでした。
「明痴先生どうして此のような処に。もしや先生もお忍びですか」
明痴先生と呼ばれた男は一瞬沈黙し「ご想像にお任せします」と放った。
「張形警部一人ですか。誰か出入りしていませんか」
「いえ決して断じてございません」明痴の質問に張形警部は即答した。
「七三分けの醜男は来ませんでしたか」
「私は醜男と致すような趣味は」張形警部は後ろめたさを感じたのか不要な発言をしてしまったのでした。
「なるほどですね。お寛ぎのところ邪魔して失礼」
明痴は張形警部に会釈をすると若女将の案内のもとア怪の捜索を続けました。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。