見出し画像

M山木の*怪盗(17)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

寸止めの要領で身体が勝手に動いた。縄網の端が爪先のすぐそこに落ちる。ア怪は力のない跳躍を重ね兎のように去っていく。
「またねーパコリーナさん」少年の声が空風に響いた。

にゃーん。危ないところだったわん。
危うく猫形態に変化するところだった。

ア怪は咽ぶように息を吐いて自身を落ち着かせている。
油断のならない少年だこと。ますます欲しくなってきたわ。強情な子にはお仕置きしなくては。呼吸を重ねることでア怪は心を清める。目にはうっすらと涙を浮かべている。歳を経ると涙腺が緩んで自然現象のように排泄してしまう。悲しいばかりか楽しんでいるというのに。
少年の姿を思い浮かべてア怪の周囲には白い光が発せられている。

(^L^)M山木の*怪盗(^L^)

「張形警部、邪魔しないでくださいよ〜」
ア怪の姿が見えなくなると小林青年は悪戯っぽい笑みを相手に向けた。張形警部はア怪を追うことなく軒先にもたれかかっている。ア怪捜査は同僚の穴掘警部に任せて本人は指揮を執っているつもりでいるのだ。
「わしはだな善かれと思って」
張形警部の声は萎んでいく。張形警部は苛立っているのか手元の葉巻になかなか火がつかない。苦戦していると大人びた青年が目の前に現れた。

「手をお支えしましょうか」青年は張形警部の顔をみて微笑んだ。
「誰だお前は」まさかア怪ではないだろうな。犯人は現場に戻ってくると言うからな。張形警部は相手に遠慮することなく捲し立てた。
「小林くんの親友、歩柴と申します」「ぽじば?」張形警部は要領を得ない声で聞き返した。
「歩柴くんは医療団体歩柴会の理事長の嫡男だよ」小林青年は歩柴青年の手を取り引き寄せる。
「僕たち聖年探偵団の一員でもあるんだ」小林青年はくすくすと笑った。
「京都新報に垂れ込みしておきましたよ」歩柴青年はア怪に直接会えなかったのは残念だなあとしきりに悔しがった。
「余計な事をするな探偵風情が」張形警部は不快感を露わにする。
「僕に頼ってるくせにー」小林青年は口をつぐんだ。

穴掘警部からア怪を見失ったとの連絡が来たのは一時間後だった。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。