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M山木の*怪盗(10)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

ア怪は用務員の奈良さんとして顔パスで歩次朗学園の門を潜り抜けた。
法経学部のある夢精館の厠に入っていく。ア怪の足取りに迷いはない。

厠の衝立越しに談笑する男子学生の群れを横切り己の百科事典に情報を仕入れていく。空を切る聖水を器用に振り回す姿は空虚で滑稽にもうつる。
大きさは良。太さは可。先端の加減は及第点。試験監督の要領で男子学生の群れを高速で採点する。厠の奥で用を足している男子学生には見覚えがあった。過去の痴識と照合する。
彼は半年ほど前に一番を頂いた人。無邪気に笑ってる彼は私の存在に気づくまい。ア怪は得意気になって思わず笑みをこぼす。

顔は少し大人びたけどあそこは成長してないわね。専ら自家発電でばかり行っているのかしら。茎は陰毛との境がわからないくらい全体が黒ずんでみえた。用具箱から清掃用具を取り出し鏡を拭く。背後の人間観察に全神経を研ぎ澄ませる。休み時間にいかに男子学生を捌ける仕分けかが生産性を左右する。薄い色の作業着が汗ばんで水分を吸収した。水もしたたるいい怪盗、と自己陶酔しそうになったその時だった。

厠の扉が勢いよく開いて男の子が厠に飛び込んできた。英国風の文字が印刷された黒い洋服が間から伸びる白い素肌とは対照的で目立ってみえた。紺色の丈の短い洋袴を下ろすと真っ白な猿又がア怪の視線を釘付けにする。男子学生の群れが洗面台を占拠する直前までア怪は微動だにせず男の子の一挙手一投足を見逃すまいと仁王立ちの姿勢を崩さなかった。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。