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M山木の*怪盗(25)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

●前回までのあらすじ●
M山木に*怪盗あり——
年齢不詳、容姿端麗、神出鬼没。
先祖代々大怪盗を生業にしてきた*怪盗ことア怪が盗むのは、無垢な男子学生の初めての経験。ア怪と明痴の正面対決が勃発。
ア怪とK都府警、聖年探偵団に明痴探偵を交えた性の交錯はどこを目指して進むのか。

●主要登場人物●
https://note.com/potaro/n/nd1841ffbe7df

帝都旅館は老舗風の趣のある旅館でした。趣のあると一言で片付けられるような老舗としかいいようのない旅館でした。
若女将に促されて二人は旅館の奥にある別室「離」へと案内されました。

「この不潔猫が」部屋に入るなり明痴はア怪の顔をみず罵るのでした。
「もっと。もっとよ。逢瀬のためにいくら費やしたと思って」
ア怪の声は心なしか弱々しく聞こえます。
「実に風情のない台詞ですね」まるで此の旅館みたいだ。明痴が頭を掻きむしると白い粉が部屋のなかに舞い落ちました。
「以前は雑食でね痴識と理論だけでは駄目だと思ってお前のような貧苦野郎とも実践してやったわけだが私も歳を重ねるとねお前のような低級老婆と一戦を交えるほど暇でもないしとてもじゃないが満足出来ないのさ」明痴は薄笑いを浮かべた。「身体が疼かないんだよ君では」
ア怪の顔から血の気が引くのが見てとれました。
「あたしだって幾千もの健全なる青少年と床をともにしてきたわ。過去の私とは違うのよ。試してみんしゃいよ。なんだったら身動きひとつしなくていいわ。私に任せて御覧なさいよ」
明痴はア怪の声など届かない様子で「離」の窓から覗く庭を舐め回すように眺めていました。
「明痴。ねえ聞いてる。私たちお似合いだと思うのよ。世間を騒がせた大怪盗に痴性学の専門家。此れ以上の組み合わせが他にあって。そりゃあね。若さを保つ為には一過性の浮気も時には必要なの。自家発電と一緒よ。けれども最後は仲直りして定期的に心の運動が出来るなんて最高の幸せだと思えないかしら」
生真面目な格好がいけないのかしら。思うが儘に美麗な姿を見せないと嫌かしら。ア怪の声はぶつぶつととぎれとぎれになっていきます。

「彼処が見えるかい」明痴は窓の外を示しました。何やら細い光のようなものが時折左右に揺れているのが見て取れます。
「僕の可愛い助手の小林君はね頭脳明晰で僕の居場所は何時何時でも把握しているのさ。僕の姿が少しでも見えなくなったらねどうなることやら」
忠告しておくとね小林君にはK都府警に連絡するよう伝えてあるのですよ。
明痴は吐き捨てるような口調で丁寧に語りかけました。
「はあん私を騙したわね明痴。憎さは可愛さの裏返しというけれど余りにも酷い仕打ちじゃないかしら。私が何をしたというの。未遂よ。何も出来ず据え膳も食えず退散しろというの碌でなし」
「君が好きな御縄で遊ぶとするかい」
明痴の言葉に呆然としたのでしょうか。
ア怪は奇声をあげて取り乱した様子で部屋を出ていきました。
「私がなぜ助手をとっているかわかるかい」
一人「離」に取り残された明痴はぼそっと呟くのでした。
「私は君と本質的には同類なのだよ」 

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。