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M山木の*怪盗(27)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

●前回までのあらすじ●
M山木に*怪盗あり——
年齢不詳、容姿端麗、神出鬼没。
先祖代々大怪盗を生業にしてきた*怪盗ことア怪が盗むのは、無垢な男子学生の初めての経験。ア怪と明痴の正面対決が勃発。
ア怪とK都府警、聖年探偵団に明痴探偵を交えた性の交錯はどこを目指して進むのか。

●主要登場人物●
https://note.com/potaro/n/nd1841ffbe7df

明痴が立ち去って間もなく張形警部の前に浴室から来客がありました。
「お初と申します」
透き通るような肌の女は張形警部の股に視線を落としました。
「では始めようか」
張形警部は口に出して始めて先刻まで明痴がいたことを思い出しました。
「痴性学の大先生だろうが何だろうが痴態を見られることほど空虚なことはない」張形警部は明痴が戻ってくるのではないかと危惧したのです。
「さあ早く来たまえ」張形警部は自ら一張羅を取り除きました。女も張形警部の挙動に応じるように艷やかな着物を少し緩めました。
なんだかあたりが騒がしくなったような気がします。
「余りにも女が美して気が動転しているのか。俺の心臓の鼓動が高鳴っているのか」張形警部は心を落ち着かせようと女に語りかけました。
「お初さんは始めてなんかいな」
女は可笑しさを抑えられないといった表情で笑いました。
「ふふふ当ててみせて。心置きなく奥まで当ててみせて」
女の肝の据わりように張形警部は驚きを隠せませんでした。
「悪くない」と発して女の肌に触れようとしたときでした。

入り口の襖がすとんと音をたてて開き張形警部は持ち前の反射神経で女との距離を空けました。
「失礼致しますくらい言わんか」
入り口に向けて張形警部が声を張り上げると其処には穴掘警部を始めとしたK都府警の面々が二人を取り囲むように隊列してるではありませんか。
「穴掘お前非番の俺を尾行盗撮とは趣味が悪いぞ」
「ア怪だよ」穴掘警部は落ち着かない様子を見せています。
「怪盗がどうしたというんだ」
張形警部は逢瀬を邪魔されたことに我慢ならないといった面持ちです。
「帝都旅館に現れたのさ」穴掘警部は女に手をかけると「お嬢さんはさっさと帰った」と声をかけました。
女は張形警部が財布に手をかけようとしているのを見逃しませんでした。
「お金など頂けません。張形警部とは自由恋愛の身ですから」
女は張形警部の耳に口づけをするとしおらしく入り口から出ていきました。
「張形も隅に置けない奴だったか」
穴掘警部は巨体を揺らしながら張形警部の腹を叩きました。
「丁度良い」いつの間にか穴掘警部の脇から明痴が顔を覗かせました。
「先程の女性は」
明痴は張形警部に詰め寄り観念した張形警部は痴話を披露するのでした。
「そうですか」
明痴が髪を掻きむしると帝都旅館の係員が部屋に現れました。
「先程の女性が落としていきました」と手拭を明痴に差し出したのです。
「嗚呼俺のために」
張形警部は明痴から手拭を奪い去ると手拭を顔に近づけました。張形警部の鼻息とともに手拭の隙間から紙切れが一枚畳の上に落ちました。
「嗚呼恋文に違いない」
女は恋文を一瞬の間に書き上げたというのでしょうか。

親愛なる明痴へ
貴方を頂戴し損ねてがっかりだわ
今度は最後まで突き合ってね約束よ
K都府警は相変わらず下手くそ揃いね
*拝

手紙を読んだ張形警部は畳に膝をつきしとしとと涙を流すのでした。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。