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ちょっぴり硬派なボーイズラブ入門。

ゲイドルのぽたろうです。
大学生の頃、軽音サークルに入っていたのですが、楽器がまともに弾けないものだから学園祭でゴミのようなフリーペーパーを自作して配ってました。

ボーイズラブというか男性同士の関係に焦点をあてたブックガイド。
当時は「少同年誌」とかいう薄寒いタイトルだったっけ。
修正してお届けします。

1.鹿島田真希『ピカルディーの三度』

「おれは、おれの知らなかった恋愛を先生がくれると思った」音大受験を控えた「おれ」と「先生」のレッスンは排泄の儀式から始まった―論議を呼んだ表題作「ピカルディーの三度」を含む5篇を収録。
三島賞作家が描く「愛と禁忌」の最新小説集。
(Amazonより引用)

音大に受験するおれが、実技のレッスンを先生から受けることになって、初めて先生の家に訪れる場面から物語は始まる。
トイレになり〈お、大きいほう〉と言うおれに、先生(♂)は、洗面器を持ってきて、そこに便を出すように促してくるのだ。
設定だけ見ると、限りなく鬼畜なBLにみえるが、そこは鹿島田さん。確かにホモセクシャルな関係を描いていますが、腐女子のための願望充足小説にはなっていません。純文学の前衛を突き進むある意味正統派な想像力によって描かれたこの作品では、主人公の友人・喜多川も鹿島田世界の住人になっているのです。例えば、おれは喜多川に先生のことを好きな事を告げます。ですが、喜多川は表情ひとつ変えずにアドバイスするのです。
不安を曲に込めて、作曲という排泄行為によって、不安から解放されようとする先生。糞にしか興味を持ってくれないことに悩みながら、先生に好かれたいと思うおれ。〈音楽というウンコ〉に象徴され たフレーズが、私達読者に与える思索の時間はまさに下世話な感覚ではなく、上品なタルトの如き味わいです。〈......のだ〉という語りが連続するので、頭が痛くなったりもしますけど、それも説得性を増すためだけではなく、この不気味な世界の不協和音として響く。音楽を恋愛に、 排泄を音楽に置き換えるメタファーとともに鹿島田さんの倒錯模様に心を掻き立てられました。

2.J・T・リロイ『サラ、神に背いた少年』

舞台はアメリカ南部の田舎町。トラック運転手相手の娼婦や男娼たちが住むこの町に、母の愛情に飢えた12歳の少年がいた。
少年は娼婦である母の真似をして女装をはじめる。その美しさはたちまち噂となり、やがてナンバー1の売春宿で働くことに。母の名“サラ”と名乗った偽りの少女は、早く一人前になりたいと焦るあまり、安息の地を離れ、禁じられた場所へと足を踏み入れてしまう。
聖獣ジャカロープ、きらびやかな衣装、不思議な魔力を持つ娼婦たち…。奇妙で危険なおとぎの国に迷い込んだ“サラ”を待つ運命とは―。自分を忌み嫌う母への愛憎、純粋さと残酷性を持った少年の微妙な心の揺れ動きを繊細に描いた、自伝的青春小説。
(Amazonより引用)

とにかく、すごい。運転手を相手に健気な少年が......という設定も独創的なら、比喩や文体までも独特で読書の悦楽とはこれなりといった感じでした。
途中から、少年が「超少女」という記号をかぶせられ、少年自身もその幻想に陥っていくのですが、物語中盤のバービー人形でプーという少女と遊ぶ場面は、二人が腹の探り合いをしているようで、非常にスリリング。
だが、何よりすごいのは、少年が男だということが股の一物によってばれ、ポン引きのルループがナイフを手にした場面。
途端に気分が悪くなる。リロイの筆力に負けた。
根底にあるのは、純粋なまでの母への愛情。堕ちて いく物語が、かくも美しく、ページをめくりたくなる小説だったのですね。

3.ムージル『寄宿生テルレスの混乱』

お金を盗んだ美少年バジーニが、同級生に罰としていじめられている。傍観していたテルレスは、ある日突然、性的衝動に襲われる…。寄宿学校を舞台に、言葉ではうまく表わしきれない思春期の少年たちの、心理と意識の揺れを描いた、『特性のない男』ムージルの処女作。
(Amazonより引用)

光文社古典新訳文庫には少年文学の名作も揃っているけども、ケストナー『飛ぶ教室』が表の顔だとすると、ムージルの本作は裏の顔。
過敏に現代風な翻訳の調子に戸惑いぱなし。友人の手が「みだら」に見え性的衝動を覚える場面 では〈その手に触れられると思っただけで、むかつくような戦慄がテルレスの肌に走った〉。
むかつくような戦慄って一体どんな戦慄なんだろう。他にも理解不能な箇所がたくさんありました。 三分の一を過ぎたくらいから別のギアが入ってる。
成熟する前の少年の心理をこと細かく表し、結局それがわけのわからないものになっていく過程が愛おしい。最後の百ページ、主人公の前でバジーニが脱ぎはじめる場面あたりからは我を忘れて一気通読ですよ。


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