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M山木の*怪盗(12)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

ア怪の頭は記憶を踏み止めようとしていた。
あの少年は一体全体どうして夢精館三階の厠なんかに来たのかしら。
歩次朗学園には中等部はあれど校舎は少し離れているし少年は制服ではなかった。少年は何事もなかったように勢いよく厠を出て行った。

少年の下半身の中心にある象さんが会釈をしているのを鏡越しに細目を凝らして覗いた。角度があって正確な物は捉えきれなかった。象さんと目があったような気がした。ア怪は心臓の高まりを抑えるのに必死だった。

少年の残香を摂取しようとア怪は便器の前を丹念に調べる。頭の中に映像が再現されて至福な感情がア怪を支配しようとする。
うっすらと縮麺のような毛が数本落ちていた。視力の低下が著しいはずの視界が解像度を増して毛の細胞の微かな揺らぎまでがくっきりと像を結ぶ。

これはあの少年の陰毛に違いないわ。否。
まだ少年ともいうべき年齢なのだし象さんの周りには毛なんて一本も見えなかった。では別の人の陰毛とでもいうのかしら。検品しなくては。

ア怪は踵を返し校舎を後にする。
風が強く吹いて清掃帽がひらひらと靡いた。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。