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M山木の*怪盗(5)

(註)本文に登場する地名、人名、団体は実在のものとは一切関係ありません。

現場には先客がいた。
科学捜査研究所の指紋教授。科学鑑定の専門家である。穴掘警部の同期で数年前から研究所へ出向をしていた。巷では穴掘指紋という組合わせで難事件を解決しているとの触れ込みだったが媒体屋の作り話だった。

「よお、穴掘」指紋教授の声はどこかぎこちない。張形警部は嫌な予感がした。
「あらぁ、久しぶりじゃなぁい」艶のある声が背後から聞こえる。声の持ち主はK都府警精神鑑定センターの響子医師。半角混じりの言葉遣いも男に好かれる為の方便で全てが計算にみえて仕方がなかった。
響子医師が大袈裟な身振りで張形警部に抱きつき白衣越しに胸を当ててくる。露骨なまでの露出政策と府警幹部の遠隔操作による戦略的思考で主席精神心理分析官まで上り詰めたと警内では専らの噂だった。

「坊や、どうしちゃったのぉ」お姉様に話して御覧下さいまし。響子医師は相手に合わせて言葉遣いも理知的に変える。「痛いところはないかしらぁ」青年の突起物のあたりを優しくさする響子医師。青年は顔を赤らめた。「やめてください。もうこりごりなんです」

まあ。あの忌々しいア怪に襲われたのね。辛い思いをしたのね。いい子いい子。響子医師は青年に寄りかかり、顔を近づけて額に手を当てた。「熱はないわねぇ」やった後は上せちゃうのよね、男って。それで急に冷めて魔法が溶ける。響子医師は持ち前の体験談をさも一般論のように振りかざし精神鑑定と分析を急ぐ。

「私のsampleにこれ以上触らないでくれ」指紋教授が癇癪を起こした。
「現象が再現しなくなったら」指紋教授の顔が沸騰している。「お前の汚らしい手で化学反応でも起きたらどうしてくれるんだ」
また始まった。張形警部はため息をつく。
「これだから頭だけ堅いimpotenz爺は困るのよね」
穢らわしいア怪の邪気を取り払ってるだけじゃない。なにがいけないのよ。穴掘警部が間に入って二人を宥める。張形警部は部屋の外に出た。

断捨離を推し進めた結果、男の子が寄ってこなくなりました。