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セクシーってなんだ〜クリスチャンルブタンと自己愛について

教室受講後のびっくり試着旅、お次はセクシー編。世にセクシーなファッションアイテムは多々あれど、まずはとっつきやすそうなから。あきやさんがサラサラとマーカー引くのを見て恐れ慄いていたブランドに突撃してきたよ!

これまた備忘と考察のために、試着した靴は画像を貼らせていただきました。全て公式サイトからお借りしています。


ジミーチュウ

よく行く百貨店、ラグジュアリーフロアのエスカレーターを上った目の前に、ジミーチュウとクリスチャンルブタンが双璧を成すように並んでいるのは知っていた。でもまさか、自分が入る日が来るなんて。今日こそはどちらかに入ろうと意を決して行き、ほんの少しだけ親しみやすそうな印象を持ったジミーチュウに突撃。

ちょっとかしこまった場に履いていけるパンプスを探しています、素材の制約はありません、せっかくなので高いヒールで、と告げて最初に試着したのはこちら。

Romy

おお…キラキラであるよ…。人生初の10cmヒールであるよ…。

とりあえず、足は入った。つま先がギュンギュンに大渋滞を起こしている。立ち上がると、ふくらはぎの今まで一度も使ったことのない部位がぴーーーん! と張る。おお、これがヒール筋か(知らんけど)。恐る恐る脚を前に出してみる、と、…あれ? 意外と歩けるね? そりゃ綺麗に歩くには慣れが必要そうだし、つま先はギャンギャンに痛いけど。

そろりそろりと鏡の前にたどり着く。

…おや。普通に、似合ってるんでないかい?

服がオールブラックだからか普通にコーディネートとしても成立している。靴がいつもと違うだけで、随分よそ行き仕様。店員さんにも「お似合いです」と言われて気を良くし、もうちょっと冒険してみたくなった。

Bing

一目見た瞬間、綺麗だなぁ、とため息が出たミュール。Romyよりトゥがキリッと鋭角に尖っていて、パテントレザーの硬質さと相まってハードな印象。そのガラスみたいな艶めきを増幅させるクリスタルストラップの輝きときたら! 強くてエレガントで、夜会にきっと相応しい靴(知らんけど)。

えいっ、とさっきより躊躇なく足を入れると、意外や意外、痛くない。こんなつよつよデザインなのに。踵がホールドされてないから? 木型の問題? よくわからないけど、嬉しい誤算。

ツカツカと歩いて鏡の前に立つと、うん、これはいい! 意思を感じる靴。好き。Romyよりも制服に馴染んでいる。どちらもキラキラのパーティーシューズだけど、Romyは明るい華やかさなのに対し、Bingは夜の煌めきを思わせる。

どちらも横から見た立ち姿が半端なく美しい。高いヒールに支えられて盛り上がった甲と、ストンと落ちる攻撃的なまでの細さのピンヒール。こういう靴にしか出せないエレガンスってあるんだなぁ、と妙に納得してしまった。

何より、びっくりしていない自分にびっくりした。10cmヒールを履けたという事実には確かに驚いたけど、初めて履いたこれだけフェティッシュな靴に対して、思ったほどの動揺も感動もない。え、なんで?

マノロブラニク

私の中で、マノロと言えばSATC。その煌びやかでセクシーな靴は、美しい御御足のおしゃれ上級者のものであって、どっしり下半身かつ幅広甲高な私にはとんと縁がないブランドだと長年思い込んでいた。

でも、いざ店の前に立った瞬間、内装が目に入るだけで心躍る自分がいた。店内に一歩足を踏み入れると、わぁ…とときめいて胸が高鳴った。なんて、なんて、なんて綺麗な靴なんだろう。店員さんを前にして、長い間ずっと憧れていたんです、と口をついて出てきたのには自分で驚いた。なんだ、マノロ履いてみたかったのか私。

やっぱりここは、あれを履かせていただこう。

HANGISI

飾っておきたいくらい美しいカッティングに、そこらじゅうの溝に挟まるであろうピンヒール、そしてアイコニックなキラキラビジュー。あの靴に、私の足が、入った。それだけでちょっと胸が熱くなった。え、私けっこうミーハーだな?!

ヒールは9cm。意外や意外、恐れていたつま先の痛みもそこまでではない。普通に立てるし、歩ける。あまつさえ「お客様、足の形がいいですね。日本だと踵がまっすぐな方が多いのですが、お客様は踵にくびれがあってきちんと履けていらっしゃいます」と言われ、びっくり仰天。そんなこと生まれて初めて言われたわ。

ものは試し、と10.5cmヒールも履かせてもらうと、たった1.5cmの差で全く別物なことに気づく。9cmなら歩けたのに、10.5cmだと普通には歩けない。その代わりシルエットが段違いに美しくて、一度10.5cmの甲の立ち上がり方を見てしまうともう9cmでは満足できない。なるほど、あくまでハンギシの完成形は10.5cmなんだろうな。

素材もまた、憧れのサテンと現実的なカーフの2種類。見た目の美しさや特別感はサテンが勝るが、履き心地やメンテナンスのしやすさではカーフに軍配が上がる。サテンは足に馴染まないし雨や汚れにめっぽう弱く、アッパー交換も不可。まるで箱入りの高飛車なお姫様だ。

もし買うとしたらカーフかな。ジミーチュウも素敵だったけど、世界観としてはマノロブラニクの方が好みかも。帰路、そんなことを考えている自分に驚いた。ついこないだまで、私なんかが高級パンプスを履けるわけがないと思っていたのに。この歳になっても知らないことってまだまだたくさんある。楽しい。

クリスチャンルブタン

ジミーチュウ、マノロブラニクと立て続けに殿堂入りブランドの靴を履けたために、私は完全に油断していた。そのままのノリと勢いで入店したクリスチャンルブタンでは、そうは問屋が下ろさなかった。

まずは、美しいグラデーションカラーに惹かれてこちらを履いてみることに。

Kate


……?!


足…入らない、かも……(ぐ、ぐぐぐっ)あ、はい。…ふぅ。

って、えっ…立てない……?! うわ、うわぁぁぁ。


これ本当に人間が履く前提で作ってます? ってくらい、靴の幅もヒールもとにかく異次元の細さ。どうにかギリギリ詰め込んだ足は立つ前から悲鳴を上げている。いざ立とうと足に力を入れると、つま先に凄まじい圧がかかってよろけてしまう。当然、歩くこともままならない。ほんの数メートル先にある鏡が遠い。もう這っていきたいくらいだけれど、足を引きずるように動かしてどうにか移動する。しかし、ほうほうの体でたどり着いた鏡を覗き込んだ瞬間、息を呑んだ。

物心ついた時からずっとコンプレックスだったこの私の足が、美しい。

膝下がやけにすらりと長くて、よく育ったししゃもみたいなはずのふくらはぎが全く気にならない。履くときにあれだけ異物感の強かったはずの靴は、鏡の中では完全に足と一体化して見える。不自然なまでに持ち上げられたはずの甲は、生まれた時からこの形ですよ、みたいな顔をして優美な曲線を描いている。

こんなことって、ある?

痛みと驚きで混乱に陥りながら、もう一足トライさせていただくことに。ちなみにKateはヒール10cm、こちらはさらに上をゆく脅威の12cmだ。

New Very Privé

言わずもがな、更なる苦痛が足を襲う。けれど、鏡の中の足の美しさは痛みに比例してもはや異次元にまで上り詰めていた(あくまで当社比)。だって、横から見たシルエット、これだよ?

何これ。普通に殺傷能力あるでしょ、このヒール。こんなのエスカレーターに挟まったら最後、自力で抜けないでしょ。…でも。もうね、このピンヒールが踵からストーーーンと落ちる様が、信じられないくらいセクシー。本当に我が目を疑った。これ、ほんとに私の足なんだろうか。

ヒールの細さとの対比でぽってりとカーブを描く踵がたまらなく艶っぽくて、ものすごく女を感じる。サイドのカッティングの妙なのか、足がまるで芸術品みたいに大事に包み込まれて恭しく持ち上げられている。オープントゥからちょっとだけ覗くつま先には、なんだか秘密をこっそり打ち明けるような艶かしさすらある。

嘘でしょ、こんなに痛いのに。いや、痛いから、か。

世の女性がルブタンを履こうとする理由が初めてわかった気がした。こんなの、歩くための靴じゃない。これは見せるため、見られるための靴だ。自分にとって最上級の社交場で、ありえないくらいセクシーで美しい自分を見てもらうための靴。

しかしそれにしても、どんなパーティー会場だってさすがに一歩も歩かないわけにはいかないじゃない? こんなに綺麗なのに、歩く姿がカッコ悪かったら台無しじゃないの? だとすると、これを履いて綺麗に歩くには一体どんな鍛錬が必要なんだろう…と、最後はそこに思いを馳せつつ店を後にした。

セルジオロッシ

ルブタンに続けて立ち寄ったのはセルジオロッシ。癒しだった! これまでの3ブランドから、高級パンプスの真価はヒール10cmから、という定式を勝手に打ち立てていたのだけど、セルジオロッシであっさりと覆された。

用意されているヒールが最高で9cm、とのことでそこまで期待せずに足入れしてみたところ、びっくりするくらい美しい。そして、歩ける。

GODIVA


セルジオロッシのこだわりの一つはサイドのカッティングだと言う。これはあくまで推測だが、セルジオロッシは他ブランドよりサイドのカーブがほんの少しだけ深めに描かれている(えぐれている)のではないか。そのおかげで他社の9cmに比べ足の見える面積がほんの少しだけ広くなり、印象が変わっているような気がする。

かと言って、あまりに深くサイドをえぐりすぎると今度は上から見たときに足が靴からこぼれ出てしまい、美しくないのだそう。きちんと足をホールドしながら最大限に美しいシルエットを引き出すギリギリのラインを攻める。こういう職人話、聞いていて心底ゾクゾクする。

セルジオロッシのラインナップは、色調もデザインも他ブランドに比べると全体的に控えめ。キラキラ感は少ないし、主役級のインパクトもない。でも、実に上品で堅牢で、何より履きやすい。試しに7.5cmと5cmヒールも履かせてもらったが、どちらもちゃんと美しかった。文字通り、地に足がついている感じ。

他の3ブランドで履いた靴は、どれも日常では履けないだろう。でも、セルジオロッシなら履ける。この靴はセクシーか? と聞かれれば、私の答えはNoだ。でも、もし普段の仕事着にさらりとこのパンプスを合わせている女性がいたら、私はとても色気を感じるだろうなと思った。


***


教室でもらったお題の一つ「色気とセクシーの違い」について、まだ明確に答えることはできないけれど、セクシー靴試着の旅で一つ気づいたことがある。

セクシーは、他者ありきだということ。それはあくまで他者から(性的に)魅力的だと思われ、欲求されることであり、自分一人では完結しない。

たとえばルブタンを家の中で一人で毎日履くという人は(もしかしたらいるかもしれないけど)そんなに多くはないだろう。あの「履き心地は苦痛でしかないが尋常じゃないくらい綺麗に見える靴」を履くとき、その人は間違いなく誰かから「見られること」を意識しているはずだ。

自分を魅力的に見せたい。美しく、大切にされる価値があると思ってもらいたい。それもできれば、魅力的で価値があると自分が感じるような相手に。そんな強い欲求があればこそ、人はルブタンに行くのだと思う。

思えば私がジミーチュウで心の底からびっくりしなかったのは、まだ「見られる」と「歩く」のバランスが取れていたからではないか。マノロブラニクは「見られる」に振り切ったデザインを誇りつつも、「歩く」とのバランスを意識した商品もちゃんと取り揃えている。でもルブタンは、完全に「見られる」に振り切っていた。だから異次元だと思った。

そして私は、セルジオロッシにセクシーではなく色気を感じた。それは、美しいながらもちゃんと歩きやすい靴だったから。その美しさは、見られるためだけにあるのではない。他者目線に自分を合わせに行くのではなく、自分が無理することなくのびのびと楽しむことができる。そういう美しさだ。

ならば色気とは、他者から見られても見られなくてもどちらにしてもあるもの、ということだろうか。

たとえば私が強烈に色気を感じる藤井風は、人を楽しませたいとは心底思っていそうだけど、自分を魅力的に見せたい、とは特段思っていないような気がする(チームで作り上げる作品としてのパフォーマンスはまた別)。彼にあるのは、自分への信頼と深い愛。彼自身をひたひたと満たす愛が溢れてこぼれ出て、それが今や世界中に広がっている様を私は本当に魅力的だと思う。

もしかして。

私が「色気=愛」と思っていたのは、自分への愛、ってことだろうか。

ナルシストという意味では全くない。他者の存在を一旦留保して、まず自分自身に愛のベクトルを向けるということ。自分を知り、満たし、心から慈しむ。その上で他者と関われば、意識せずとも愛が波及する。その状態で勝手に他者が認識する魅力こそが色気、ということにならないだろうか。

かわいい、セクシー、と試着を通して考えてきたけれど、まだまだ奥が深い。

自分がかわいいを避けるようになった理由にはまだ行きつかないけど、セクシーに拒否反応を示す理由は今回なんとなくわかったような気がする。そして、セクシーを追求する人のことを以前はちっとも理解できなかったけれど、今はルブタンを履く人は本当にすごいと心の底から思う(←そこ?)。

試着って面白いなぁ。

イマイチまとまらないけど、今回の考察は一旦これにて、終わり!


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