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ミサイルとか世界とか。

Jアラート
人口衛星と市町村の防災無線を利用して緊急情報を伝える「全国瞬時警報システム」の通称。地震や津波、弾道ミサイルの発射など、すぐに対処しなくてはならない事態が発生した際に、国から住民に直接、速やかに情報を知らせることを目的に、総務省消防庁が整備。2007年から適用している。

Jアラート、あの時君は確かに私に危機を知らせてくれたね。

ミサイル発射
ミサイル発射
北朝鮮からミサイルが発射された模様です
頑丈な建物や地下に避難して下さい
対象地域 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 新潟 長野

枕元の携帯から鳴り響くけたたましい音で目が覚める。
「…緊急速報。」
少なからず緊張感はあるものの、ここ数年で何度か耳にしているその音に、それ以上の動揺はなかった。また地震かと、布団を被りながらゆっくり頭を上げ、携帯の画面を確認する。

緊急速報 政府からの発表 
2017/08/29 06:02
「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。」(総務省消防庁)

ー地震じゃない、?
一気に目が冴え、跳び起きてテレビを付ける。
全チャンネルがJアラートの発令画面に移り変わり、アナウンサーが発令文言をひたすら復唱している。

ミサイル発射
ミサイル発射
北朝鮮からミサイルが発射された模様です
頑丈な建物や地下に避難して下さい
対象地域 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 新潟 長野

いや、うち木造だし…。
対象地域の中に実家は入っておらず、家族の安否を瞬時に確認しようとした自分に少し安堵した。
ミサイル発射から到達まで約10分とする。発射2分後にJアラートが発令され、携帯・テレビをつけただけでさらに2分は経過している。あと6分。

あと6分で何ができる?

木造とはいえ一応建物の中。近くに地下通路はあるけど6分では辿り着かないだろう。窓を閉める。ガスの元栓を閉める。ガラスや本棚の側から離れる。布団をかぶる。
思いつくことは、地震対策時と大して変わらない。だってミサイル対策とかしたことないし。


30秒くらいぐるっと考え、覚悟を決めた。

窓と網戸を開け、くぐもった空に顔を向ける。
湿り気のある、生っぽい風が部屋に入り込む。

私は世界の終わりが見たかった。

6分でできるはずだった対策を諦めたわけじゃない。
広島に原爆が投下された日、熱風により一瞬で灰になった人もいれば、建物の影に居たおかげで軽度の火傷で済んだ人がいたのも知ってる。数分で行う対策なんて無意味だって思ったわけじゃないんだ。

ただ、これが自分の最期になるかもしれないなら、私は世界の終わりが見たかった。

小さな悲しみの連鎖は要らない。まるで何事もなかったような大きな絶望一つでいい。
自分の世界が砕け散るその刹那に、自分が何を思うか知りたかった。
世界は綺麗なのだろうか。

恐怖より好奇心が勝るとはこのことか。それともミサイル落下なんてあまりにも現実味がないだけか。
窓辺からぐっと身を乗り出し、空をじっと見た。突如、流しっぱなしにしていたテレビの復唱内容が変わる。

緊急速報 政府からの発表
2017/08/29 06:14
「ミサイル通過。ミサイル通過。先ほど、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。不審な物を発見した場合は、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい。」(総務省消防庁)

発令から12分。
網戸をそっと閉め、欠伸をしながら朝ごはんの準備にとりかかった。


Jアラート、次に君が鳴いた時、私はどうすればいい。


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