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勤務698日目 郵便屋はどうやって家を覚えていくのか

この仕事をするまでは、郵便屋がどうやってどれくらいの家を頭に入れてるか知りませんでした。
たいして軒数もなくそれを全部覚えているか、なにか補助的な道具を使って配達場所を知っているのかなぁ、と想像していました。

違うのです。
たいした軒数を、すべて記憶しているんです。

担当する住所は当然、すべて頭に入っています。
田舎の区でもだいたい600軒以上配達場所があるんです。
街の区なら1000軒は超えるのでは(マンションアパートが軒数を伸ばしている)。

ぼくは小さなアパートが5棟しかない田舎の区を二年近くほぼ固定で担当していました。
今思えばとてもきつかったです。走行距離は50キロで軒数は800軒以上ありました(しかもそれを50㏄で)。

もちろん、毎日800軒配るわけではありません。
ほとんど郵便がこない家も多いし、廃屋みたいな空き家もあったり。

話を戻すのですが、そんなめちゃくちゃたくさんの家をどうやって覚えていくのか。
順を追ってご説明します。

まず当然、最初に配るときは記憶0軒の状態でスタートします。
区の地図を持ち、精通者に組んでもらった郵便を積み、出発します。

スタートから一軒一軒、決められた順番通り、地図を確認しながら配っていくのです。

これが本当にたいへんで、すごく疲れるし、すごく時間がかかります。
当然、すべて配ることは不可能。最終的には誰かに来てもらって手伝ってもらうんです。
人の協力なくして覚えることはできません。

これを毎日繰り返します。
覚える方法は、ただこれだけ。

難しそうに感じるかもしれませんが、外に出て配るとなると、家の形や家の位置、道、表札、ポスト、郵便の順番などなど、覚えるための情報がたくさん存在するので、記憶に入っていきます。
当然まず最初のほうの家は最初に記憶されます。配っている順番で数珠つなぎに記憶が形成されていきます。

特徴のある苗字、ポストに住所(番地)が書いてある家なんかは、すぐ記憶できます。
ポストになんも書いていない家は多いので、配達員がこっそり小さく番地を書き込むこともあります。

2週間もやれば、わかりやすい家はだいたい記憶できています。住所を見たらあの家だと判断できる。
細かい家、紛らわしい家はまだ難しい。地図は取れません。

そこまできたら道順組み立ても自分ですべてやります。
そうなれば一気におぼわっていきます。

いちばん覚えるのが難しい家は表札のない似たような住宅が並ぶところです。
だれもが苦しむのではないでしょうか。そこだけのために地図を持ち出したり、あるいは出発前に入念に確認せざるをえなかったり。

やり続けていると、ある日地図を見なくなります。というか見るのがめんどくさくなる。
不確実なところは持ち戻るようになります。絶対に配らなきゃいけないものは渋々地図を出して確認するのですが。

ほぼ覚えたらもう地図は持ちません。もっと早い段階で地図を持たなくなる人もいますが。
覚え方は人それぞれです。

地図が取れたら次は原簿の記憶です。
原簿というのは、居住者の名前が書かれた表みたいなやつ。道順に書かれています。
これを見ながら郵便を順番に並べるんです。

道順組み立てを毎日していたら、これも自然におぼわっていきます。
細かい名前までは記憶しませんが、転居していった人の名前は記憶に残っていきます。

覚えることはたくさんあって頭がよくないと無理、と、勘違いしてしまう人がいるかもしれません。
ぼくが最初に班長と顔を合わせた日、彼は言いました。

「この仕事は誰でもできる。頭のよさは必要ない」

こんなにもたくさんの住所を丸暗記してるなんてみんな天才か……とぼくは思ったのですが、班長の言う通りなのです。
最低限、免許証を取得するだけの知能があれば、やれる仕事です。

学校のテストみたいに家で勉強して暗記しようなんてことも必要ありません。
まあそうやって覚えた配達員もいるかもしれませんが。

ぼくはなんの努力も必要ない仕事だと思っています。
ただ出勤してその日できる業務をこなす。それを積み重ねるだけです。

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