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|放課後の少女 #妄想 #懐かし #超短編小説 #青春

僕は高校の放課後が大好きだ.
独り教室の机に伏せていれば部活中の音が聞こえてくる.
みんなどうしてそんなに頑張れるのか…
何を目指して頑張っているのか…
是非ともインタビューしてみたいけれど、僕にそんな勇気はなかった.
ただ、いつも横の教室から聞こえてくる上手くも下手でもない音楽.
それにいつも聞き入っていた.
バスケ部やバドミントン部体育館の音、野球部のバットの音や掛け声といった僕からは遠い音達.
それをバックミュージックにメインを奏でてくれているような音色.
内気な僕からは遠い運動部を近づけてくれているような音楽にどこか親近感を覚えていたのかもしれない.
どちらにしても、いつも横の教室から聞こえてくる音楽と放課後独特の雰囲気が僕は大好きだった.

ある時、その音楽を奏でる誰かを見に行こうと思った.
君たちもすでに分かっていると思うが、僕にはそんな勇気はなかった.
やっぱり今日も独りの放課後を過ごしている.

夏休み間近の放課後、雨が降っていた.
激しくもなく弱くもない.
日中はあんなに暑く快晴であったのに…
傘を平然と持ってきているみんなは未来予知者なのか.
通り雨だと信じていつも通り放課後を独り過ごしている.
少し肌寒く、雨の匂いが充満した教室でいつもの音楽を待っていた.
そろそろ音が聞こえてきてもいい時間であるのだが…
人の気配は感じられなかった.
だが傘を持ってきていなため動く気にはなれなかった.
雨のBGMを左耳に感じながら、日常を送っている.
すると、廊下からこちらへ向かってくる音が聞こえてきた.
いつも横の教室で演奏している誰かがやっと現れたのかと期待していたが、どうやら僕の教室と扉が開けられた.
同じクラスの地味な少女.
気まずくなりたくないから眠いふりをしながら、伏せた腕の隙間から除いていた.
少し濡れた髪に服、傘を忘れたのだろうか.
忘れ物を取りに急いで戻ったから濡れているのだろうか.
少し気まずい空気を感じながら、地味な少女の様子をうかがっていた.
するとその少女は机を見た後、私の目の前の座席の椅子を引き座ったのである…
何を考えているんだろう…
少女とふたり. 
慣れない状況に困惑している自分を抑え、寝たふりをするしかなかった.
「何してるの?」
いきなり少女から話しかけてきた.
あくびをしながら体を起こし
「君こそ何してるの?」と返した.
「忘れ物を取りに行ってたの」
少女と目があった.
「そーなんだ. 取りに行ってたの?取りに来たんじゃなくて?」
「どーいうこと?」
「座席見てたから忘れ物取りに来たと思って…」
「見てたんだ.」
地味な少女が自然に笑いながら言ってきた.
(「可愛い」)心の声である。
いつもひとりで勝手に地味判定をしていたからちゃんと顔を見たことがなかったが、小顔で目つきはちょっと悪いが可愛かった.
「うん. 君ってそんなに笑うんだね.」
どこか顔が熱くなってきたきたから話を流し、強がった.
「笑わない人なんてないよ. 君も今笑ってるじゃん.」
少女が顔を覗き込んでくる.
「そーかな〜」
流しながら顔を逸らした.
すると少女が座る右下に少し大きなケースが見えた.
「その大きなものが忘れ物だったの?」と尋ねた.
「そーだよ. 家が学校の近くだから走ってきたの」
「だから髪濡れてるんだ.」
「うん.」
「何が入ってるの?」
「バイオリンだよ.」
少女はどこか自慢げにそれを持ち上げながら言った.
(「可愛い」)
「バイオリン弾けるんだ. すごいね!!今から部活とか?」
「部活はやってないよ. で、君は何してたの?」
また覗き込んできた.
「傘忘れてたから少し寝てただけ」
放課後が好きなんて恥ずかしくて言えないから雨のせいにした.
「へー、じゃあいつも雨宿りしてるんだね.」
「え!?」
一瞬でバレたことに動揺しながら変な声で返してしまった.
君も見てたんだ. なんて返せたらかっこいいのだが頭でその言葉は詰まった.
「ごめん、ごめん. クールな君がそんな反応するなんて思わなくて」
可愛くどこか大人気のある落ち着いた少女がそう言った.
「女性とそんなに話さないから…」
僕の負けである.
「知ってる. いつも本読んでるか寝てるかだよね. それ楽しい?」
「高校って勉強しにくるところだから、友達なんていてもいなくてもいいじゃん.」
苦しい返しだ. 
だが、事実でもあった. 
地元の中学を離れ、電車で通うような少し離れた高校へ進学したため友達をつらなかったのも事実であった.
また、中学卒業間近友人から勧められた本をきっかけに読書にハマってしまったこともこれに追い討ちをかけたのだろう.
「へー、そんなもんかな.」
少女はどこか気に入らない表情をしていた.
「君もいつもひとりだよね?」
「見てたんだ.」
一瞬で機嫌が戻った.
「見てました. いつも何してるの?」
「何もしてないよ.」
「え, 何もしてないの?そんなことある?」
「うん…」
雨の音をBGMに少し沈黙が続いた.
いきなり目を逸らし外を見ている少女(「横顔も可愛い」)
「考えごと?」
良い質問が思いつかず思ったことを尋ねた.
「うん…」
少女は気まぐれな生き物なのかもしれない.
肌寒い教室で可愛い少女とふたり. 話がないのは気まずいが、どこか楽しく日常から切り離された居心地の良い時間である.
「今日は音聞こえないね. いつも演奏が横の教室から聞こえてくるけど、今日は部活ないのかな…君は何か知らない?」
バイオリンを持っていたから何か聞き出せないかと思い尋ねてみた.
決して話足りないからではない.
「それね. 私だよ?」
「え、ほんと?」
「ほんとだよ. 現にバイオリン持ってるじゃん?」
確かに、思い出してみればバイオリンの音であった. 
日常に溶け込みすぎていたため、BGMとなっていたため楽器までは考えたことがなかった.
「それにこの学校にバイオリン弾ける人他に聞いたことがないし.」
追って少女が言った.
音楽に詳しければ気づいていたであろう.
「なんでいつも横の教室で弾いてるの?」
率直な疑問を少女に投げかけた.
「だって君がいるから…」
一瞬ドキっとしてしまった.
「いつもこの教室で誰かいるから、横の空いてる教室で演奏して帰ってるの.」
日本語は難しい.
俯瞰してみれば、あなたのために演奏してますよ、なんて捉えないであろう.
だがこの状況、この空間が期待させてきたのかもしれない.
「そーだよね. ごめん.」
一応謝っておいた.
「なんで君が謝るの?私の演奏下手だよね…」
寂しげな表情で俯いていた.
上手を求めているようにも思えなかったため、率直に感想を言った.
「音楽のことはわからないけど、たまに詰まって何度も繰り返しているメロディーがあるから練習頑張ってるな.って思ってた.  だけど、その音がいつからか放課後の楽しみになってて…」
少女は少し涙を含ませた表情だった.
「ごめん. 素人が変なこと言って…」
「ありがとう.」
少女は一言だけ返し、間を空け話し出した.
「実は、親が有名なバイオリニストで小さい頃から練習させられてて、演奏会でも有名な演奏者の子供だからって、実力も見合わない大きな場所で演奏させられ、周りはお世辞ばかり言ってたのが分かってたの. 帰れば猛特訓だし、親に音楽で誉めれたことなんてなかったから…」
「うん…」
僕は何も言えなかった.
そんな世界に生きてこなかったから彼女に触れられなかった.
続けて少女が話す.
「お客さんや学校のみんなからはすごいね.ってよく誉めれるけど…それって意味あるのかなって…だって、分かる人に認められないって上手いとは言えないよね…」
「僕がこんなこと言っていいかわかんないけど、君が毎日当たり前に練習してて努力できること自体すごいと思うし、君の言う上手が無くても実際に僕は毎日聴きに来てた. 上手とか下手だけではないと思うよ.」
「そうかな…」
彼女は納得していなさそうであったが、少し表情は明るくなった.
「私がなんで独りでいるか知りたい?」
「うん.」
「実は曲を作ってるの」
「やっぱりすごいじゃん!」
「ありがと. だけど、すごくはない. 逃げるためなの.」
「何から?」
「音楽から」
「どういうこと?」
哲学か…僕には訳がわからず聞き返した.
「自分で作った音楽に答えはないから…私が演奏するよりも同じ曲を上手に演奏できる人がいるから比べられてると思うの. 正解の音がなければ、それは私が否定され無くて良くならない?」
「確かに. そーかも.」
「ここで、私からひとつ提案があります!」
少女は目を輝かせながら机に身を乗り出しいる.
「なに??」
僕も雨の音が聞こえないくらいにワクワクしていた.
可愛い少女との出会いから何か始まりそうな予感からかもしれない.
「数日で夏休みじゃん?夏休みの放課後も君がこの教室から私の演奏を聞いててくれない?」
「もちろん!いいよ!!」
「じゃあ、次は夏休みの放課後だね!楽しみにしておくよ!」
一言言って少女は去っていった.
少女と話していた時間の余韻を感じながら、次第に雨の音が耳に入ってきた辺りで学校を後にした.
こうして、ふたりの放課後が始まった.

夏休みが始まり、またいつもの教室で日常を送っていた.
結局、週の1日音楽作りを手伝い、それ以外の日はいつもの横の教室で少女は演奏し、それを聴きながら僕は読書を楽しんでいた.
手伝うと言っても、音楽の才能など持ち合わせていない僕は少女の音楽を同じ空間で聴くというだけであった.
また違った空間でいつも通り過ごしているのも、少女の練習の邪魔しないためでもあった.
ただ、夏休み前と違っていることは、僕が演奏者である少女の顔を知っていることだ.
それだけで演奏は生々しくより鮮明に聞こえるようになっていた.

どれだけ時が経ったであろう.
これまでこんなに短かった夏休みは初めてだった.
学校に勉強目的以外に通ったのは初めてだ.
僕はあの雨の日に出会った少女と作った夏の思い出を忘れることはないだろう.
特別話せるほどの出来事は何もない.
だけど、変わらない日常を毎日過ごしてきたそれだけでお互いは満足していた.
結論から言おう、その少女は夏休み最後の日
「君との音楽は完成した!ありがとう!後少し頑張ってみる. バイバイ.」
といつも通りの下校を最後に学校に現れることはなかった.
少女は幽霊でしたとか、そういう話ではない.
毎朝、出席確認で名前を呼ばれ、確かに存在している人である.
いつか帰ってくることを期待し、毎日独りの放課後を過ごしてきた.
そして、とうとう僕が卒業してもその少女は現れなかった.

そして、僕は大学に進学した.
人生の目標もなく逃げるために大学へ進学した.
気づいた時には独りの大学生生活を淡々と送り、少女の事など忘れてしまっていた.
だだ一つ、彼女と出会ってから音楽を聴く習慣が自然と身につき、読書に次ぐ生きがいとなっていたことが救いであった.
ある日、動画サイトでいつも通り音楽を聞いているとどこか懐かしいバイオリンが使われた音楽が耳にまった.
どこか懐かしい音.
フレーズ?とかはわからないが、とにかく懐かしい音.
急いでスマホの画面を見る.
その作者の名前は”Ruka”.
確か彼女の名前は”天音ルカ”.
偶然かもしれないだけど、
その瞬間、忘れていた彼女との空間が一気に呼び起こされた.
自然と涙が溢れてくる.
彼女はきっと、どこか遠いところでバイオリンをいつまでも頑張っていたのだろう.
彼女であるのか確信などない.
だけど、あの夏休みを感じるだけで力が湧き上がってきた.
『いつか彼女に追いつきたい』
いつしか、また出会える気がした.
- あの青春に. 
<end>

| あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます.
つたない文章ではありますが、懐かしさを思い出していただいていれば満足です!
現在、大学生である私も随分と青春を捨ててきたひとりです.
友達は最低限で勉強も普通、運動も青春を捨て小学校からやってきた割には良い成績は収めることなく高校を卒業しました.
それも今思えばかけがえのない日常で、青春であったと思います.
しかし、もしこんな日常があったら、こんな高校生活があったら、どこか寂しいけど儚い高校生活.
それを恥ずかしながらエッセイとして、皆様と一緒に体験させていただきました!
皆様も青春時代を懐かしんで今を生きていただけていることを願っています!!
ー 著者:華乃(音楽活動名:Geno*)より.

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