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シンエヴァでも使われた「あの曲」の話

※この記事は「シン:エヴァンゲリオン劇場版:||」のネタバレを含んでいます。未視聴でネタバレを気にされる方は閲覧をお勧めしません。

シンエヴァ、先日ついにアマプラで配信開始しましたね。まさかこんなにも早く、しかも見放題で配信するとは思いませんでした。
このご時世で映画館に二の足を踏んでいる方にも、ぜひ見て頂きたい。やはりあのスクリーンと音響の迫力があってこそかもしれませんが、配信には「トイレに行きたくなったら一時停止できる」という利点もありますし。

かくいう私は映画館で見ました。
0歳の娘がいる以上、このご時世でなくても、娘を嫁さんに預けて自分は映画を見に行くなんてのはとてもできませんでしたが、ちょうど嫁さんが娘を実家に連れていくタイミングがありましたので、その折に。

…こんだけ前置きを書いておけば、そろそろ本題に入っていいですかね。

以下ネタバレ注意

シーンは、第三村でシンジがトウジ・ケンスケ・ヒカリと再会するくだり。
あそこでトウジが歌っていた、あの曲です。
聴いた瞬間、アニクラで推し曲が掛かったオタクみたいに飛び上がるところでしたが、映画館なので抑えて、早く誰かと語りたい、けどネタバレだし…と悶々としておりました。

吉田拓郎の「人生を語らず」

吉田拓郎。
一応説明しておくと、1971年にデビューして以降、日本のそれまでのフォークソングから政治性を排除して身の回りの事を歌った「四畳半フォーク」、1小節に言葉を詰め込む作曲法(ボブ・ディランの影響なんだろうけど)など、その後のニュー・ミュージックに繋がる流れを確立。
その他、アーティストによるレコード会社設立・社長就任、コンサートツアーなど、日本の音楽シーンに数々の影響を与えた、まさに伝説の人です。

個人的な事を言えば、父が昔から大ファンで、その影響で私も小学生の頃、彼の音楽にすっかり魅了されました。父が当時発売していたコードブックを保管していたので、CDで聴いた曲を即ギターで挑戦できたという環境も、少なからず影響しているでしょう。

…とはいえ、たぶん私(1983年生まれ)の世代なら「Kinki Kidsや篠原ともえと音楽番組やってたおじさん」、もしくは「魁!クロマティ高校」のテレビアニメ化に際し、毎週シュールなオープニング映像と共に流れた楽曲、といった印象じゃないでしょうか。
「LOVELOVEあいしてる」放送前はよく同級生に「タクローってGLAYのTAKUROじゃないんだろ、紛らわしい」みたいなことを言われもしました。

壮絶な半生を送ったトウジが歌う「人生を語らず」

話をシンエヴァに戻します。

そもそも新劇場版においては、恐らく庵野監督自身にも思い入れのあるであろう懐メロが、しばしば登場します。
「破」のラストシーンでは「翼をください」が流れ、「Q」ではマリが「三百六十五歩のマーチ」「ひとりじゃないの」「グランプリの鷹」などを劇中で口ずさみ、そして本作「シン」でも冒頭でマリが「真実一路のマーチ」を口ずさみ…こいつチーター(水前寺清子)好きだなあ。

盛大なネタバレをすれば、マリはセカンドインパクト前に若き日のゲンドウやユイ達と出会っていた事が示唆されており、また本作でのゲンドウの年代設定はおおよそ庵野監督と同世代に設定されているとも思われる(あくまで私の主観です)ので、さほど不思議ではありません。
…もっとも、時代設定をテレビアニメ版に則ると2001年時点でシンジが生まれているわけで、それが大学を出て間もなくと考えると、ゲンドウ世代って恐らく70年代後半頃の生まれな気がするんですが、それはさておき。

そんな中で出てきた「人生を語らず」なので、はー、今度は拓郎で来ましたか庵野さん、くらいの感覚だったんですよ。それでいてアニクラで推し曲が掛かったときのオタクみたいな反応をしそうでしたけど。

ただ、この後の話を知れば知るほど、この選曲に重みが出てきます。

トウジは新劇場版において、テレビアニメ版と異なり、フォースチルドレンとして参号機のパイロットに選ばれる事はありませんでしたが、代わりに「破」ラストで起きたニア・サードインパクト後の想像を絶する世界を、若干14歳の身で仲間たちと生き抜いていくことになります。
本作の中盤において彼は、その壮絶な人生を、口に出せないような事さえも生き抜くためにしてきたという事を、シンジに打ち明けます。そうして作り上げられた「第三村」で医者をやりながら、一方でヒカリと結婚し、娘を授かったばかりというのが、本作登場時点の、「人生を語らず」を歌うトウジなのです。

額面通り、これだけ壮絶な人生を送りながらも、未だ人生を語るまでに至らないという肝の据わりよう。

しかしその通りで、さらに言えば結果としてフォースインパクトが起きなかった世界で、彼をはじめとしたニア・サードインパクトを生き延びた人々はあの世界を生き抜いていくことになるのです。
(もっとも、あのラストの描写を含めて結末をフォースインパクト回避とだけ捉えるか、世界の再構成が行われたと捉えるかにもよるとは思いますが)

ところで、本作におけるトウジの年齢は、「序」「破」時点で14歳だったと考えると28歳。これは、吉田拓郎さんがこの楽曲を含むアルバム「今はまだ人生を語らず」を発売した年齢と、奇しくも一致します。

彼自身、この時点で広島フォーク村での活動を経て、1971年のデビューから3年の間に「旅の宿」「結婚しようよ」などの大ヒットを続出させつつ、プライベートでは四角佳子さんと結婚。一方でエレックからCBSソニーへの移籍、女子大生強姦の疑惑を掛けられ逮捕(のちに虚偽と判明)と、既に怒涛の人生を歩んでいました。

また、アルバム発売の翌年にはフォーライフレコードを設立。ここからの彼の人生はWikipediaとか彼にまつわる著書とかを参考にしていただければ、やはり怒涛の人生が待ち受けていたことが分かります。

歳を重ねるごとに、今はまだ人生を語らず

小学生の頃に聴いた「人生を語らず」は、他の楽曲と異なり終始声を荒げて歌う様子に、当時はシャウトの要素が嫌いだったのもあって、お気に入りというにはちょっと遠い感覚でした。
歌詞についても、人生を10年強しか生きていない人間に、人生をどうこうと言われても、あんまりピンとこないもんで。

あれから30年近く経ち、40歳を目前に控えた今聴いてみると、こういう記事を書こうと思うくらいにはその深さに気付かされます。

さほど大きな波風にさらされず、かといって順風満帆ともいえず。
いくつもの幸運と不運に見舞われ、程々の人生を歩んできた私の今後もなお続いていきます。立ち止まって人生を語る場面はもう少し先の事でしょう。

越えるものはすべて手探りの中で、見知らぬ旅人に夢よ多かれ。

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