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ピース4

彼女のことは、仕事のできる編集者として認識していた。指摘することはちゃんと、俺自身が納得しきれない箇所をついてくる。

ある日、佳境に向かう所で何か足りないものがあるなと感じてから記憶がない時があり、気がつくと作品が出来上がっていることがあった。作品が出来上がる時、いつもであれば疲労感で立ち上がれないくらいになっているのに、ここ最近の作品は出来上がる時、心地よい疲労感で終わることが多かった。不思議には思っていたが、追求はしなかった。

自分はどこか欠けた人間であると、割と若い頃から自覚していた。犬や猫を見ても可愛いとは思うが、大事にしようとは思えなかった。人に対してもそんな程度にしか考えることが出来なかった。要するに、自分の事しか考えられない、1人の荷物しか抱えることができない人間なのだ。

いつしか自分は欠陥品であると思うようになった。

今朝目が覚めて、彼女を招き入れるところからしっかり覚えている自分に出会い、ああ、これだったのか、最近の心地よい疲労感は彼女のおかげだったのかと自覚した。

途端に、体の中から熱いものが込み上げてくるのがわかった。コーヒーを淹れているのに、視界が霞む。おかしいなと思ったら、涙を流していた。

そんな自分に驚いた。驚きながらも、ああ、自分はいつの間にこんなに明るいところにいたんだろう。今までの見えていた世界は、薄くブルーがかっていて平坦だった。この明るい世界をもたらしてくれたのは、彼女なんだ。
彼女が自分に足りないピースだったんだ。

そう確信して、顔を上げると、彼女はいなかった。





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