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これは、朝ドラスカーレットを元にした、私の妄想小説です。今回は、敏晴さんのおはなしです。


敏晴は竜也の前に座っていた。
息子とこうやって面と向かって話すのはいつぶりだろう。
反抗期を迎え、それがこじれてしまった竜也に対して父親として面と向かうだけで嫌な空気が流れるようになってしまった。

昔は竜也はどこでも、いつでも自分にくっついていた。
「お父しゃん」
いまでも、かわいい目で自分を見つめ、呼ぶ息子の姿が目に浮かぶ。

そんなかわいい息子の記憶を、上書きしたくなくて避けるようになっていた。いや、自分が言ってしまった失言を無かった事にしたくて避けていたのが正解かもしれない。

会社ではなんでもしっかりと考え、自分が指揮を執り、運営することができているのに、こと息子のことになるとなぜこんなにもろいのか。自分でも不思議ではあり、情けなくもあった。

そして、今竜也はしっかりと自分の考えを述べて『高校に入り直したい』と言った。会社は継がないかもしれない。そうもはっきり言ったが、そんなことよりも、自分でしっかり考えて答えを導き出した竜也にとてつもなく感動し、その場で抱きしめたくなったが、相手は多感な10代の少年なのでそんな訳にもいかず、頭をくしゃくしゃっとだけして、部屋を立ち去ろうとした。

そんな自分に竜也は
「お父さんのことを改めてすごいなって思った。」
と褒めてくれた。
ここで泣いてはいけないと涙をこらえるように、部屋を出て自分の書斎に逃げ込むように入った。
すると、照子が待っていた。

「ごめんな、のぞき見しとった。」
すでに、照子は涙を流していた。
「すごいな、竜也、すごいな。この1年でこんなにしっかりするもんなんやな。うち、びっくりした。うちが甘やかしてしまったからこうなってしまったけど、自分でしっかりと答えを出せるようになったんやな。ホンマすごいわ。」
「照子。甘やかしてしまったからこうなった訳じゃないで。照子のせいやない。それだけはそうやで。」
そこまでしゃべって敏晴はこらえきれずに嗚咽をもらしながら泣き始めてしまった。
「竜也の目がな、ものすごいしっかりしてるんだけど、昔「おとうしゃん」って呼んでくれてた頃のかわいい目でもあってな。ほんま、うれしかった。」

「乾杯しよか。」
照子はウイスキーを棚から出してきた。夫婦二人きりでお酒を飲むなんて何年振りか。でも、今日はそれをしてもいいくらいの日だ。
「そやな。照子、つまみにバナナあるかな?」
「お酒のつまみにバナナ食べる人、敏晴さんしか知らんわ。」
笑いながらバナナを取りに照子は、書斎を出た。

これから高校に入り直してまた壁にぶち当たってしまう事も出てくるだろう。今度は、しっかりと目を見ながら竜也の話を聞こう。
そう心に誓って窓の外を見た。
月夜に照らされたサンシュユが黄色い花を咲かせていた。
信楽に春の訪れを告げていた。


あとがき
敏晴さんが登場した時は、意地悪そうだな。と勝手に思ってましたが、最後の方は、出てくるだけで「トシャール!!」と叫んでしまうくらいの存在感でした。息子を不器用に愛する父親を書いてみたくて書きました。
この様に私の妄想を掻き立ててくれる朝ドラスカーレットにお礼を言いたいです。
なお、これは完全なる私の妄想です。本編とは全く関係がありませんので、あしからずです。

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