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ヴァージンロード

はじめに
これは、朝ドラスカーレットを元にした、私の妄想小説です。
今回は、本編終了後の真奈ちゃんのその後を書きました。


ブーケが宙を舞う。

今日は真奈の結婚式。
武志が亡くなってから3年の月日が経っていた。
今日、真奈は武志以外の人と結婚する。少し寂しくはあるが、武志も真奈の幸せを祈っていた。だから、これでいいんだな、そんな複雑な感情で結婚式を八郎と喜美子は見つめていた。

武志が亡くなってからの真奈の憔悴ぶりはこちらから見ていてとても辛いものがあった。覚悟していたとはいえ、やはり愛する人の最期を看取ると言うことは、若いこの子には想像を絶する辛い出来事だったんだろう。

真奈はその後も頻繁に川原家に出入りし、武志の作った茶碗で喜美子と食卓を囲んだ。時には八郎も加わることもあった。
未来のある若い娘さんをいつまでもこの家に縛りつけるのは良くないと思いながらも、喜美子にとって真奈と過ごす時間は同じ悲しみを抱える同士と過ごすように心強かった。
しかも、真奈は勤め先の関係で陶芸に詳しかった。そのため、喜美子の知らないような情報も教えてくれたので、話題に事欠かず、いつの間にか新しい友人を手に入れたような、そんな不思議な関係が築かれていた。

そんな真奈がある日、武志の作ったご飯茶碗を八郎と喜美子の夫婦茶碗の隣に並べて欲しいと言い出した。

「喜美子さん、私結婚しようと思うんだ。」
真奈にそう言う人がいる事は報告を受けていたので、喜美子はそれほど驚きはしなかった。

「私ね、武志が病気だって分かっていながら付き合うようになって…そんな中で1日1日、日常を大切にするって事を教わって…だから、病気だって言う前提があってもその日、その時に幸せを感じられて私は幸せだった。本当だよ?だから、その幸せだった日々を、このお茶碗に閉じ込めたいと思ったんだけど、あかんかな?」

喜美子は一抹の寂しさを感じつつも暖かい笑顔を真奈に向けた。
「あかんことあるかいな。ほんま、ありがとな。武志に真奈がおってくれて、ほんま、嬉しいわ。………そんで、おめでとう!
よっしゃ!その相手連れておいで!ウチが、真奈に相応しい男が見極めちゃる!!」

その後、真奈は本当にその相手を連れてきた。
武志よりは劣るが、亮介という男っぷりの良い、優しそうな男性だった。亮介は武志に手を合わせてくれた。武志の事も、武志が亡くなった後も真奈が川原家に出入りを続けている事も理解し、その上で結婚したいんです。と話してくれた。
喜美子は「おめでとう」と2人を祝福した。

その日に合わせて来ていた八郎が、2人にプレゼントだ。と包みを渡した。「これな、僕が形作って、喜美子が絵付けしたんや。こんな共同作業初めてなんだけど、もろてくれるかな。」

夫婦茶碗だった。

亮介は、こんなすごいもの、頂けません。と慌てて下げようとした。
「ええんですか?!うわあー!すてきやわあ〜。これだけでご飯美味しく見えそうやんね。」
真奈は、屈託なく笑って受け取っていた。

そんな2人の様子を見て、八郎と喜美子は微笑ましく笑っていた。
「お似合いやな。」
「そうやな、このくらい凸凹の方がええな。」

真奈の結婚式当日。
当時としては珍しく、教会での結婚式だった。喜美子も八郎ももちろんそう言った場の参列は初めてなので緊張しつつ、遠くから眺めてい
た。

「これが、これからの時代やんなあ…そういう時代かあ…。」そう呟く喜美子に八郎は、「おっさんか。」と笑って突っ込んでいた。
真奈はとても綺麗で輝いていた。その隣にいるのが武志ではないことに正直落ち込む気持ちはあるが、幸せを願う気持ちに嘘はなかった。

披露宴の中座の場面で、真奈は突然話し始めた。
「ここは、両親と同じくらい大切な2人と、歩きたいと思います。八郎さん、喜美子さん。ええですか?」

八郎と喜美子はそんな事を聞いていなかったので驚くしかなかった。

「亮介さんに出会う前、私には大切な人がいました。その人との時間は大変に短いものでしたが、その時間は決して不幸ではなく、幸せでした。その幸せな時間はつい最近まで続きました。その幸せな、ありがたい時間を持てたのは、彼の作ったお茶碗のおかげでした。あのおかげで、ここにいる八郎さん、喜美子さんとも繋がりが途絶えず、家族のように過ごすことが出来、そんな私の全てを受け止めてくれる亮介さんとも出会えることができました。
 先日、お二人から新しい夫婦茶碗をいただきました。この、頂いた夫婦茶碗を使うために、お二人と歩きたいんです。」

スタッフに促されて、真奈を挟んで八郎と喜美子が立つ。

「なんやこれー。こんなん初めてや。」
喜美子はただ、ただ、珍しそうにしている。目には、少し涙が浮かんでいた。

「こういう時代やな。喜美子」
八郎は冗談を言いながら、少し震えていた。

3人は歩き始めた。

「お二人とも、ありがとう。武志とは歩くことができなかったけど、こうやって3人で歩く事で武志を感じられる。私はこれからも武志の分も生きていくよ。一緒に、ずっと。だから、私と武志のお茶碗、しまわんといて飾っといてね。」
今日の真奈は本当に、綺麗だった。

3人で歩くバージンロード。

会場の拍手が鳴り響く中、3人は歩いていく。これから3人は別々の人生を歩むが、あのお茶碗が作業場に飾ってある限り、3人、いや、4人はずっと繋がっていく。


あとがき
真奈ちゃん幸せになってもらいたいな。
そう思って、今回書いてみました。この様にいつまでも妄想を掻き立ててくれる、朝ドラスカーレットにお礼を言いたいです。
なお、この作品は私の完全なる妄想なので、本編とは関係ありませんので、あしからずです。



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