見出し画像

ピース3

私は逃げた。走って走って、どこまでも走って逃げた。暗闇の奥底に逃げ込むように。

私は小さい頃から1人だった。それほど生い立ちが悪いわけではないし、金銭的には恵まれていた。ただ、両親ともに私に興味がなかっただけだ。愛情を欲しがった時期もあったが、欲しがっても手に入らないことに時間も自分も割くのは無駄であると気づいた時から、人とはある一定の距離を取るようになっていた。

そうやって距離を取ることに慣れると、自分のペースが出来上がるので、私は安定して暮らすことができていた。たまに私の領域に入り込もうとする人が現れると、相手を傷つけないように遠ざける技術まで身につけていた。

だから、先生との距離感は絶妙だった。

私も先生も欲しいものが合致している。そこに愛情は必要ではなかったから。
先生は作品を、私は達成感を手に入れられていた。

今朝の先生の反応に私はいつもの距離感を保つことができず、ただ逃げた。

なぜ逃げたのか。
考えてみたが、私の体が思考を停止させた。
仕事に没頭しよう。そう切り替えて私は寝る間も惜しむように仕事をした。

3日ほど経って、疲れ切った体を引き摺るように家に帰ると、マンションの入り口に先生がいた。

あまりの突然の登場に私はただ立ち尽くし、今度は、私がただ、ただ、涙を流していた。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?