キンツクロイ番外編2

はじめに
これは朝ドラスカーレットの妄想小説です。今回は、キンツクロイシリーズの最終話です。


八郎と喜美子はお揃いの器でビールを飲みほろ酔いになっていた。

「キンツクロイの器な、松永さんが教えてくれて」

「松永さん……三津???うわーー、久しぶりやなあ、今何してるん。あの子、不器用やったなあ」

そこまで喋ったところで、突然喜美子は黙りだしたが、八郎は気づかずに喋り続ける。

「デザイナーやっててな、これがまた斬新なデザイン描いてはってな、見てるだけでワクワクしたわ。あれ?喜美子?」

「へー。いつから松永さんと会うてたん?もしかしてずっと?ずっと連絡取り合うてたんか!?」

喜美子は口を尖らせて、つまみの野菜の煮物を口に入れた。

八郎は思わず下を向いて笑い出した。それを見てなんで笑うんやと言いたげに喜美子はまた口を尖らす。

「ははは、ごめんごめん。可愛らしいなあ、と思ってな。こんな歳になって、ヤキモチ妬かれるとは思わんかったわ」 

照れる事もなく言う八郎に喜美子は少し狼狽しながらも、言葉は止まらなかった。

「大体な、穴窯やり出した頃、2人でイチャイチャして。銀座の個展だって私が必死に考えてフォローしたのに受け入れたのは三津の意見やった。あと……」

そこまで喋って、涙が込み上げてきた。

「もう!なんで私泣いてんねん!」

慌てて涙を拭き取るが、喜美子の思いとは裏腹に涙は止まらなかった。まるで、今まで溜めていた八郎への思いのように。

「喜美子」

喜美子は返事をしない。

「喜美子お」

しつこく呼ぶ。

「なんや!」

喜美子が顔を上げた。

八郎は手を伸ばし、親指で喜美子の涙を拭った。

「僕が長崎に行く前に、たくさん話しよ。って言うたよな?こう言う事や。こう言う事やねん。喜美子のホントの気持ちを言葉で聞きたかった。僕の本当の気持ち話したかった。別れた頃は、お互いを思い過ぎて飲み込んだ言葉がたくさんあり過ぎた。だから言うで、今から言うで?」

八郎は、喜美子の涙を拭った手をそのまま頬に伝わせた。

「僕は、ずっと喜美子一筋や。変わらん、なんっにも変わらん。びっくりするくらい変わらん。
僕よりずっと先に行ってる陶芸家の喜美子も、おばちゃんになった喜美子も、母親の喜美子もみんな、みんな好きや』

喜美子は大きな瞳を見開いたまま、八郎の言葉を聞いていた。

「ずるい。今日はどないしたん、ずるいわ。なら、うちも言うで、ええか?今から言うで。
うちかて、ずっとハチさんの事ばっかりや。こんな、年取ってみっともなく泣いてしまうくらい、ハチさんのことばっかりやねん。どないしてくれる?」

八郎は頬に伝わせていた手でそのまま喜美子を引き寄せ、軽くキスをした。そして抱き寄せ、背中をポンポン叩いた。

「大告白大会やな。20年越しの」

そう言うと、八郎は今度は両手でしっかりと喜美子を抱きしめた。

「キスも20年越しやな…変わらんな」

「何が?」

喜美子が呟く。

「味」

「なんやそれー!あほやん!」

八郎から喜美子は離れ、笑顔で言った。

「その顔や、その顔がいっちばん好きや」

喜美子の涙は止まっていた。2人は何事もなかったようにまた飲み始めた。

「なあ」

八郎が口火を切る。

「今晩、手え繋いで寝るか」

喜美子は呆れたように笑いながら、八郎の腕をペシリと叩いた。

「調子に乗るな!」

2人の夜は、これからだ。

2人の新たな時間も、これからだ。

キンツクロイのように繕いながら、新たな関係を築いていく。

あとがき
朝ドラスカーレットは毎日正座して見ていたドラマで、15分間の中で私は沢山の考察をしました。ただでさえ考える余白がある中で、喜美子の元を去ってから再び現れる13年間の空白の時間をよく考えました。陶芸家として挫折した八郎さんを再生させたくて、沢山妄想しました。それが、キンツクロイという技術と私が出会い、想像したのが今回の作品です。
八郎さんをきっかけに松下洸平さんを応援しているので、ちょいちょい彼の発言が散りばめられていますが、その辺はご了承ください。
この様に、私の妄想力を掻き立ててくれる朝ドラスカーレットに改めてお礼を言いたいです。
なお、これは私の完全なる妄想です。スカーレット本編とは全く関係がありませんので。あしからずです。



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