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「賢将」第二楽章

解説

「魔界地方都市エソテリアに民族音楽があったらどうなるか?」みたいなことを考えながら作ったアレンジですが、毘沙門天ということで仏教的な要素も少し入れています(後述)。

イントロからの激しい変拍子は、バルトークの弦楽四重奏第五番第三楽章 Scherzo (Alla bulgarese):ブルガリア風のスケルツォのオマージュです。

ブルガリアの民族は4+2+3/16拍子のような、細かく変則的な変拍子がとても特徴的で、このアレンジではこうした変拍子を使いつつ、テーマが進むにつれて1/16拍子ずつ短くなっていくという構造になっています。
そして曲の中心部:「宝塔」のテーマ(2+3/16拍子)まで行くと、今度は出てきたテーマを逆順にたどる形で、1/16拍子ずつ長くなっていきます。
(このシンメトリー構造は弦楽四重奏第五番第一楽章に倣っています)

また前述の仏教的要素ですが、「マンダラ」を音楽で表現できないか、というアイディアもあり、副次的に採用しています。
マンダラとは9×9マスに仏などを配した宗教画で、描かれた目的は下記のようなものです。

マンダラにはおおむね以下の三つの使用実例が見られる。
1.真理を、言葉ではなく、視覚により伝達する
2.法の伝授などの儀礼を実践するにあたり、仏菩薩や神々を招く聖なる場を建立する
3.聖なる空間に邪悪な存在が侵入しないように守護する

正木 晃(2020/9/9)「世界で一番美しいマンダラ図鑑」 エクスナレッジ

1.は視覚→聴覚で。9マスを、複合三部形式(ABACDCABA)によって
2.は「猛虎」や「宝塔」のテーマを配することで
3.は調(キー)の変化をつけることで区域ごとの差異を強調する、
というような形で音楽的にマンダラを作るという、少し実験的なアレンジになっています。
またチベット仏教では砂マンダラというのがあり、文字通り砂で描かれたマンダラで儀式のために描かれ、儀式が終わると消されてしまいます。そうした「一回性」も、音楽にすることで似たものになると思いました。

原曲

東方星蓮船から
「魔界地方都市エソテリア」「虎柄の毘沙門天」

曲調

調性:嬰ヘ短調
拍子:4+2+3/16、3+2+3/16、2+2+3/16、2+2+2/16、2+3/16
形式:複合三部形式・ソナタ形式

呈示部

第一主題(0:00)

「大地」のテーマ(長)
4+2+3/16拍子。嬰ヘ短調。「魔界地方都市エソテリア」のメロディが、大地を踏みつけるような激しいアクセントを伴う音響でアレンジしています。ピアノ、ヴァイオリン、チェロが奏法だけ変えながら、執拗なほどに(プリミティブに)繰り返されます。

第二主題(0:39)

「疾風」のテーマ
3+2+3/16拍子。嬰ハ短調。「魔界地方都市エソテリア」の2つ目のメロディで、冒頭と同じような変拍子ですが、垂直ではなく水平方向への動き=風を切っていくような、疾走感のあるメロディになります。
ヴァイオリン、ピアノでそれぞれ繰り返された後、いったん静まりますが、ヴァイオリン・チェロの掛け合いになって、また激しく吹き荒れるように奏されます。

第一主題(1:24)

「大地」のテーマ(短)
2+2+3/16拍子。嬰ヘ短調。最初のテーマに戻りますが、頭の音型が短縮された形になり、アクセントどうしの間隔がより狭まって緊張感の増したメロディになります。
エソテリアの深部へ近づいているような、不安感がある感じですが、その勢いのまま次へ突き進んでいきます。

展開部

トリオ:第一主題(1:53)

「猛虎」のテーマ
2+2+2/16拍子。嬰ト短調。チェロの長音に導かれて、一拍目が重い3拍子になり、ヴァイオリン・チェロがユニゾンで「虎柄の毘沙門天」のメロディを奏でます。
獰猛な虎が鋭い眼光を放ちながら、じりじりとにじみよるような、威圧感のある雰囲気を出しました(魔を払うイメージ)。聖域に足を踏み入れてしまった、という感じですが、スケルツォなので少し遊び心も入れています。

トリオ:第二主題(2:44)

「宝塔」のテーマ
2+3/16拍子。嬰ト短調。静寂の後、ピアノの短い単音で「虎柄の毘沙門天」の2つ目のメロディが出てきます。一瞬、拍や動きが分からなくなる不思議さ・緊張感のあと、チェロ・ヴァイオリンで繰り返され、ピアノは煌くような装飾音を奏でますが、すぐに終わってしまいます。
眩い宝塔は少しの間しか拝めないのです。

トリオ:第一主題(3:32)

「猛虎」のテーマ
2+2+2/16拍子。嬰ト短調。「猛虎」に戻りますが、先ほどよりは少し穏やかで、元いた場所へ帰っていくのを見送るような優しさのある感じです。
(遊びも少し多めに)

再現部

第一主題(4:03)

「大地」のテーマ(短)
2+2+3/16拍子。嬰ヘ短調。再び「エソテリア」へ。戻ってきたことを強調せんばかりに急き立てるように激しく奏されますが、すぐさまヴァイオリン・チェロの掛け合いになり、次へ進みます。

第二主題(4:19)

「疾風」のテーマ
3+2+3/16拍子。嬰ヘ短調。音型や激しさこそ変わらないものの、再現部なので調も変わり、前後のメロディとの曲調の変化も少なくしています。
ちょうど、最初は向かい風だったのが、最後は追い風になるようなイメージです。

第一主題(4:52)

「大地」のテーマ(長)
4+2+3/16拍子。嬰ヘ短調。ピアノの煌びやかな下降音型に導かれて、華々しい雰囲気で冒頭に戻ってきます。ここでも同じ音型が繰り返されますが、最後に一小節休符のフェイントが入ると、激しさを保ったまま劇的に締めくくられます。


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