■第2章 ポートフォリオとは何か

ポートフォリオとは直訳で『書類一式』のことで、もともとは金融商品の組み合わせのことでした。複数の商品を組み合わせることでリスクヘッジするやり方です。
ですが教育の場面では、単純に数値化できない行動記録などをファイリングして評価するやり方として、ポートフォリオという言葉が使われ始めました。
総合や道徳などでよく使われており、OPPA(一枚ポートフォリオ評価)などの派生もあります。
本章ではポートフォリオを『総合的な英語力を一元管理するためのワークシート(またはデジタルスプレッドシート)』を指すこととします。
一年間の授業で行う活動や小テストを最初に一覧として示すことで、生徒にゴールを意識させ、各自のペースで学習に取り組ませることができ、指導と評価の一体化という点でも有用です。なにより一押しなのは「一枚のシートを示すだけで、生徒が勝手に学びだす!」ことです。
漫然と受け身で勉強する一斉授業の座学と、ゴールに向かって自分で工夫して挑む活動と、どちらが伸びるでしょうか。
自分だったらどちらの授業を受けたいでしょうか。
答えは明らかですよね。
今日からでも始めることをオススメします。
生徒の変化を目の当たりにすることでしょう。

授業の流れをもとにしたポートフォリオの例がこちら。

・単語の意味テスト
・単語のスペルテスト
・教科書本文の暗唱テスト
・暗唱をもとに自分でアレンジする英会話テスト
・英会話したことを文字起こしする英作文テスト
の5周が活動として設定されています。

ゴールが設定されているということは「いつかやることになってる」わけで、「だったらとっとと終わらせよう」という発想に生徒もなっていきます。だから1学期末の時点で二学期後半まで単語テストを終える(クラスの平均的生徒の例)わけです。

そして教科書からはなれ、エクセルで総合的な英語力を記録するようにしたデジタルポートフォリオがこちら。

小学5年に教科としての英語がおりていって、中学入学時の学力にも大きな差が出る時代となりました。また、英会話だけで小5小6を過ごした場合、小学校で習得するべき700語をほとんど知らずに中1の701語めを学ぶことになります。中1ギャップは、むしろ広がると覚悟したほうがよいでしょう。
だからこそ、中学入学時にレディネステストを行ったり、小学校から英語力ポートフォリオを持ち上がるくらいでなければいけません。学力差に対応するためにも、失われた700語を取り戻すためにも、ポートフォリオによって個別最適化された授業が求められています。

発展学習のためにもポートフォリオは有用です。新学習指導要領になる前から、英語科は学年を超えて先取り学習や復習をすることが推奨されてきました。今後ますます小学校から英検5級や4級を受検するようになるでしょうから、これからは「学年の教科書を修了した」という履修主義から「語学力をどこまで伸ばしたか」という習得主義への変換が求められてきます。そういう意味でも、英語力そのものを記録するポートフォリオの重要性は増してくることでしょう。
指導に濃淡をつけてよいとする新学習指導要領は、「選択と集中」の推奨とも言えます。素早く全体を俯瞰するときと、徹底的に反復学習するときとの使い分けです。もちろん教科書を使って教えるわけですが、分厚くなった教科書に使われては人間が教壇に立つ意味がありません。うまく授業をコーディネートしていきたいものです。

(江澤)
「履修主義から習得主義へ」は一つのキーワードになると思っていて、これまで「とりあえずなんとなく椅子に座って、なんとなく授業を受けていれば学年が上がれる」状態でした。そのシステム自体は、近い将来変わることはないと感じていますが、ポートフォリオを示すことによって、受け身の学習から「自分ごとの学習」になります。たった1枚のポートフォリオですが、その一枚には大きな力があります。100マス計算でどんどんマスが埋まっていくのが気持ち良いように、自分が英語のタスクを終わらせることでパートフォリオに記入されマスが埋められていく、そんな面白さがあります。この「学習の見える化」は学習者にとっても、教師にとっても、英語学習を進めていく上での大切なプロセスです。

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