マガジンのカバー画像

碧の夢 -序章-

22
かなり長いファンタジー小説です。 構想が長過ぎるから、書き始めないと終わらない。 不定期に更新していきます。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

魔法とは

誰かが願い、誰かを求め、誰かの夢を見る。
魔法とは叶えるための手段であり、叶うに至るまでの過程として使われる。
だから私が願うより、奴が永い間願い続けていた想いの方が力強く、故に世界は変わってしまったのだろう。
間も無く、また夜が明ける。
奴が目を覚ますなら、私はーーー

碧色の太陽

あれから数日ほどしか時間は経っていなかったが、実に数十年もの月日を越えたかの如く、大地は碧色に埋め尽くされていた。
燃え落ちた城壁も、折り重なった夥しい数の遺体も、あの神々しく聳え立っていた大聖堂も鋼鉄に固められていた大帝国でさえ。その上辺を不思議な輝きを纏う碧色の草が覆い茂り、大地はエメラルドの布に包み込まれたかのようにも見えた。

風がそよぎ、草たちはサラサラと軽やかな音色で揺れる。

あの殺

もっとみる

破滅の碧色 → 時代の終焉

大聖堂での爆発、轟音に気付いたのは、警備の兵たちだけでは無かった。
世界樹の森より先、不可侵エリアの向こうからネルミラを監視し続けていたガーランド帝国。彼らもまた昨今の騒動には危険を感じていたし、世界樹が枯れ落ちたことにも真っ先に気が付いていた。
「これはまさか、ネルミラで暴動か……?」
監視兵から連絡を受けたガーランド帝国騎士団長は、すぐさま国王に進撃を進言しに行った。内乱、暴動、テロ。国が騒つ

もっとみる

夢の終わりに

事切れた友の亡骸と、瓦礫の山。
夥しい死を前に、彼の思考は不思議と澄み渡っていた。

「終わりだな、これで……」

呟きながら、瓦礫を踏み歩いた。
何の反応も無く、友の亡骸はただ風に吹かれていた。

何が、間違っていたのだろうか。

考える程に思考は絡まり合い、答えは永遠に見えない。だが後悔は無かったし、己が間違っているとも思えなかった。

「……ロー」

亡骸に触れ、涙を流す。零れ落ちた滴は彼の

もっとみる

碧翠の矢 ⇔ 紅橙の剣

緑が生い茂る穏やかな小道は、そよぐ風にサワサワと優しい音を立てていた。
ついほんの10分ほど前に、数人の無関係な者たちを殺め、建物を破壊し、父親だと尊敬していたはずの人物さえ殺してしまった。
空を見上げながら、不思議とジルの気持ちは落ち着いていた。
「これは現実なのか?本当に、ボクが彼らを、父を殺したのか……?」
信じがたい事態に、現実感を失った彼の脳内はふわふわと浮ついていた。部屋に戻り、一晩過

もっとみる

碧翠の弓矢

張り裂けそうな胸の内を碧色の光に変えて、彼の身体は空を疾り抜けていく。
誰も彼も、おそらく吹き抜けた風ですら彼の姿には気付けない。音速を越える脅威的なスピードで、彼は一点を目指して飛び去っていく。
グラベル大聖堂、その堅固な門の僅かな隙間を煌めく光の矢が擦り抜けていった。門番は後を追う風に少し首を傾げたが、何も気付けるはずなど無かった。
碧翠に輝く矢は大聖堂の中を雷の如く疾り抜け、館長室の扉を激し

もっとみる

魔法都市ネルミラ

すべては、魔法。
清々しく晴れ渡る青空に、少年の頃に夢見た冒険心を呼び起こすような不思議な形をした雲が浮かぶ。その雲の群れに届かんとするくらいに高くそびえ建つサン・ド・グラベル大聖堂を中心に、魔法都市ネルミラは緑豊かに広がっていた。
都市の人口はおよそ250万人。都市と名は付いているが、最早国と呼んでも過言無い場所だ。ネルミラでは農畜や金物細工なども盛んではあったが、やはりメインとなるのは魔法産業

もっとみる

黒い髪の少年

黒い髪の少年が見つかったのは、数年前の話。
都市から少し離れた、森を抜けた先にある巨大な樹「モノの世界樹」の根が集まる場所。たまたま森林地帯の植物採取に来ていた生物調査隊が、根元に絡まるように倒れていた少年を見つけた。
最初は根の影と土に汚れていたからだと思われていたのだが、救出された瞬間にそれはわかった。
少年の髪には一片の輝きも無く、まるで闇をそこに宿したかのように黒一色だった。それはつまり、

もっとみる

ジル ← 神を信じぬ者

朝陽がまだ昇り切っていない時間から、ジルはもう目を覚ましていた。いや、正確に言うと完徹したまま本を読み耽っていた。
朝陽が眩く大聖堂を照らし始めると、その光に反応して鐘が鳴り始める。その音を耳にしてし、ようやく彼は自分がまた睡眠よりも読書を優先してしまったことを知る。
「しまった、またやってしまった」
大急ぎで本を片付けると、足早に階段を駆け上がる。そのまま渡り廊下を駆け抜け、しかし大聖堂に入って

もっとみる

神を信じる友 ← ロー

数百冊くらいの本を分類し終えて、ジルはようやく一息付くことにした。
「ああ…、知らない間に昼を過ぎていたのか」
昼食を忘れることなんて、ジルには日常茶飯事だった。活字に囲まれて過ごしていると、本当に時間を忘れてしまう。まるで時の扉を閉ざし、無限の檻の中に逃げ込んだような錯覚を覚える。
立ち上がると、少し立ち眩みがした。もともとからあまり身体の強い方ではないジルは、華奢な身体付きはまるで少女のように

もっとみる

親友の恋 《作戦会議》

「へい!おまちっ」
ダンラークの定食屋、夜の人気定食はデデン肉の丸焼き定食だ。ボリュームはかなりあるが、値段は500グラスとかなり安い。実際、質の良い肉を他で食べようとすれば、1,000〜1,200グラスはする。
「うん、まあ、腹は満たされるかな」
「だろ?ちょっと話すくらいなら、ココがやっぱり一番だぜ」
肉を頬張りながら、ローが言った。確かに夕食としては少し豪快過ぎて、まるで肉体労働後の昼食のよ

もっとみる

親友の恋 《神を越えろ》

ラプラックス学術棟には、様々な学問を研究する為の設備や部屋が整っている。物理学、宗教学、哲学、化学、生物学。実に幅広く、多種多様な学問が研究されていた。
その中で、彼女は歴史学、特に神話の研究に没頭していた。
「名前はメイン・キティ。歳は俺たちより少し上で十七歳、身長は153cmのちょっと小さめ。性格はちょっとキツい所もあったりするが、基本的には優しい。姉が二人いるらしいが、別の地域に住んでいるか

もっとみる

空の魔法石

「……というワケで、私は火神ブレアと水神ミュアは反属性ながらに親密な関係だったと推測出来ると思うの。どう?!」
キティはかなり興奮した様子で、楽しそうに問い掛けた。
「うん!思うよ、俺も同意見!」
おそらく考え無しに、ローが彼女の意見に賛同した。マズいなと感じたジルが、すかさず反論に出る。
「そうかな。確かに神話の一つに共に荒れ狂う嵐の神を止める物語があるけれど、あくまでそれは利害の一致であって、

もっとみる

それぞれの成長 ⇔ 過去の記憶

空想小説『マグネの魔界探索記』より抜粋ー
「我々は大きな河に出会った。
後ろからは巨大なジネドラゴンが追い掛けてきていたが、私はまったく慌てたりはしなかった。
指輪をかざし、河に向けて魔法を放つ。氷の矢が何百と束ねて放たれ、河を渡る橋を作り上げた。」

魔法記外伝『トーンズ魔術列車』より抜粋ー
「魔術列車は止まらない。
その心臓部に埋め込まれた魔法石により、雷の魔力が尽きるまで走り続けるのだ。」

もっとみる