フォトジェニックなレディ (速筋ボディのランボルギーニ・ガヤルド)

俺は今、ガヤルド・スーパーレジェーラのV10が織りなす鼓動と、カーボンボディのゼニス・エルプリメロの精緻な刻みと 己のリーンボディとを三位一体化させんとしている。
そして今回のショットガンレディもまた、中々の色気だ。

俺のマシンは、ただのランボルギーニ・ガヤルドLP570-4ではない。イタリア語で超軽量を意味するスーパーレジェーラだ。カーボンファイバーバーツを多用し、ベースモデルより約大人一人分(70kg)軽量化されている。目に入るメーターパネルまでもがカーボンだ。

視覚的にもヤル気にさせてきやがる。

8500rpmまでスッと吹け上がる5.2LのV10のエンジンフィールと相まって、車名の文字通りにマシンがとにかく軽く感じる。 
俺はV10のエンジンフィールが、一番好きだ。
5気筒同士が理想的に不協和音を帳消して完璧なサイクルを成すのか、あの鼓動だ。
V12の最高峰の工芸的フィールに畏敬の念を覚えるが、紙一重のバランスゆえに、時に俺の野性的な感覚なのか勘違いなのか、わずかな不調和がドライビングの邪念となる。例えばギターで1弦ごとでは完璧なチューナー調律であっても、和音を弾いた時の僅かなボディのゆがみで生じるズレを肌で感じてしまうようなものだ。 また、V10と比べると、思い込みもあろうが、V8には粗さを感じてしまう。このV10のエンブレの利きも気持ちよい。

そんなスーパーレジェーラのハンドルを握る腕だ。数十グラムの単位であろうが超軽量を時計にも俺は拘る。

ただでさえ軽量なカーボンケースのゼニス・エルプリメロの中でも特別なモデル、“ライトウェイト”を俺は持ち出した。
1865年創立ゼニスのエル・プリメロは、初の量産自動巻きクロノグラフキャリバーとして有名だが、この“ライトウェイト”のチタン製キャリバーは、驚異の15.9gで、恐らく世界一軽量なクロノグラフであろう。

通常キャリバーから25%強の軽量化に、3桁の対価を投じてしまったぜ。
当然、己のボディにも贅肉は許されない。俺は常に体脂肪率一桁のリーンボディを保つ。

彼女との出会いは、ランボルギーニの新型ウラカン・スパイダーの発表会であった。白のタイトなワンピースのセクシーさがひときわ目立つ女がいた。
誰かの連れではあろうが、よくある男のコンパニオン的に連れてこられた女性たちとは異色な雰囲気で展示車を観ていた。
彼女が片手に持ったシャンパングラスの置き場がなさそうだったので、俺が仲間らと居たスタンドテーブルをシェアするようにエスコートした。
聞くと一人で来ており、なんとスーパーカーが好きだというではないか。車談義に花が咲く。

彼女の希望で展示車との記念ショットを撮った。
立ち位置や、ポーズ、表情、全てがうまく、実にフォトジェニックだ。

ボンドガールのよう、いや、俺のショットガン(米スラング:助手席)レディになるべきだ。
元有名ミスコンのファイナリストだったと、後に周りから教えられた。なるほど。

後日、急遽、彼女から富士スピードウェイでのレース観戦を誘われた。WEC・世界耐久選手権だ。チケットも彼女の方で既に手配してあるという。
一人暮らしだと言う白金高輪の高層マンションにスーパーレジェ―ラで、今日も白系で決めた服装の彼女を迎えた。分譲のみのはずだ。互いに素性は知らない。

こんな、レーシングカーみたいな硬い車だが、レース観戦の足に俺を誘ってくる女だ、俺のドライビングにもいける口だろう。

マクラーレンみたいにドアサイド広くないから大丈夫よ。

そんな強気なセリフを言いながら、低いバケットシートに座る彼女。ダースベイダーのマントの中に入り込んだような、全面アルカンターラとカーボンで文字通り黒い室内に、白い服装が映え、ヤル気をそそる。

そして、メーターに始動“OK”と表示され、V10 570馬力のエンジンに火を入れた。

レーシングタクシーだ。

いつも通り、初ドライブであろうが、余計な会話は無用だ。
御殿場のアウトレットを左手に見るころにはメーターは300を超えていた。御殿場出口に向けてフルブレーキを掛けるが、やはりスーパーレジェ―ラの軽さは大したものだ。利く。

高速を降りて一般道で、彼女が俺に言った。

速いね。上手いから安心だわ。

FSWに着くと、指一本であがるほど軽いエンジンフードを上げて、8000rpm付近をずっと回していたV10をクールダウンしてやった。

なんとVIPパドックパスが用意されていた。彼女の口利きは大したものだ。WEC本番まで前座のレースがいくつかある。その間、彼女にフェラーリジャパンの社長を紹介されたが、ランボルギーニで来ているので、コックピット上の部屋への招待は遠慮しておいた。
WEC本番前、ファンサービスでドライバーのサイン会もある。元F1ドライバーなどそうそうたるメンバーだ。その中の一人、日本人元F1ドライバーと彼女の目が合い、あ、とお互いに言い合う。最近、パーティーで一緒だったらしい。顔が広い。謎だ。

レース全部を見ても疲れるし、渋滞前に早めにFSWを後にした。
少しはデート気分にと、御殿場のハム工場直販に立ち寄ってから、帰路に就いた。

早朝出発でもあり、このマシンの運転に少し疲労を覚えていたところ、彼女からマンションに上がって仮眠していったらと誘ってきた。

耐久レースの本当の会場はFSWではなく、どうやら高層階のソファーベッドだったらしい。
ゼニスのエルプリメロがNo1と、立てた人差し指のように時刻を指した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?