ポルシェにおけるGTSモデルの系譜を追う vol.3
GTSの系譜を追う,このシリーズ.
今回は最終回.
(画像は718ケイマンGTS,AUTOCAR JAPANより)
実質最上級モデルである,981型/982型718GTS
ポルシェのラインナップにおいて,いわゆる正統派スポーツカーの様を定するのは,言わずもがな,ミッドシップ・後輪駆動(MR)レイアウトを取るボクスター・ケイマンである.
2014年に追加されたこの2モデル,981型ボクスターGTS/ケイマンGTSは,他モデルのGTS同様に,豊富な標準装備とロー・ダウンされた専用シャーシ,ブラックアウトされたホイールなど,一目でGTSと認識可能な存在感を放つ.3.4L 水平対向6気筒エンジンはそれぞれの『S』モデルから出力が向上され,ボクスターGTSで330ps/6,700rpm,ケイマンGTSで340ps/7,400rpmを発揮.
ボクスター・ケイマンはターボモデルを欠くため,GT4やスパイダーといったスペシャルモデルを除き,このGTSが実質的な最上級モデルとなる.
この981型GTSが水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載した最終モデルであり,次のモデル(982型タイプ718)以降は,例に漏れずターボ加給を受ける4気筒エンジンとなる.
718ボクスターGTS/ケイマンGTS(画像はトップ画を参照)は2.5L 水平対向4気筒直噴ターボエンジンを搭載し,共に最高出力/回転数は365ps/6,500rpmを発揮.
最高出力だけを見ると,6気筒3L直噴ツインターボエンジンを搭載した991後期型カレラ(370ps/6,500rpm)とほぼ同じ.
価格は,991後期型カレラの¥13,091,000に対し,ボクスターGTSで¥10,450,000,ケイマンGTSで¥10,600,000(すべてPDK,車体価格のみ,税込).
最上級モデルがこの価格帯で購入可能であり,またGTSの特徴として,通常オプション設定である多くのパーツが標準装備となるため,お買い得と見る向きも,あながち間違ってはいないと思う.
『718』のネーミングは,1957-1964年頃の間に活躍したポルシェの伝説のレーシングカー『718』に由来すると言われている.
細かい話だが,718は718型ではなく,981型に次ぐ982型タイプ718となる.
呼称の際にはご注意を.
今や,ボクスター/ケイマンをもって"Poor Man's Porsche"と呼ぶ御仁はいないであろう.洗練されたステアリングやシャシーは911を引けを取らず,何よりMRレイアウトは本来のスポーツカーの『正しい』スタイルである.
マカン,パナメーラへのGTSモデルは2018年から
2018年にはマカン,およびパナメーラにGTSモデルが追加される.
マカンGTSは3L V型6気筒エンジンを搭載し,最高出力は360ps/500Nmを発生.一方,マカンターボの3.6L V型6気筒ツインターボエンジンは400ps/600Nmを発生し,ここにもうまく差別化が図られている(マカンターボはむしろ,958型後期カイエンGTSと同程度のエンジンスペックから比較されることが多い).
マカンはSUVにも関わらずPDKを搭載し,初代から一貫してトルク・コンバータを搭載するカイエンと比べて,明らかにスポーツ寄りにシフトしたモデル設定となっている.実際に乗ってみると,運転席,助手席共にやや手狭であり,後部座席にもカイエンほどの余裕はない.しかし一度ステアリングを握ると,カイエンとは全く別の乗り物であることが即座に理解できるであろう.
ポルシェは同じテイストのSUVを2種類も製造,販売するような会社ではない.
『会社員でも買えるポルシェ』などと揶揄するのはメディアの安い仕事であり,ユーザーは何が一番自分に適したモデルであるかを,きちんと自分の目線で評価すれば良い.
一方,970型パナメーラGTSは,2012年,初代970型のマイナーチェンジ後より追加された.V型8気筒自然吸気エンジンは440ps/6,500rpmを発揮し,2t近いスポーツサルーンをわずか4.5秒で100km/hrへと到達させ,8速PDKは速やかに至適なギアへと導く.
0-100km/hrだけでの勝負なら,当時の911前期カレラならカレラSを連れてくる必要がある(0-100km/hrで4.3秒).恐ろしいスペックである.
フルモデルチェンジ後の971型パナメーラGTSは4L V型8気筒ツインターボエンジンへと変更され,460ps/6,000-6,500rpmのスペック・アップにより,0-100km/hrは4.1秒へと短縮された.
GTSラインナップにも到来する避けられないダウン・サイジングの潮流の中,パナメーラGTSは唯一,ターボ化されたもののV8ユニットが継続されている.
971型パナメーラGTSからは,シューティングブレークであるスポーツ・ツーリスモの設定が設けられた.エンジンスペックは同等.トラクスペースの拡充により,車重は30kg増量された.
GTSラインナップへの思いと,避けられないダウンサイジングの潮流が教えること
GTSラインナップは当初,通常の上級モデルでは満足し得ないが,ポルシェではいわゆる最上級に位置するターボモデル,すなわちターボエンジンを搭載することで生じるデメリットを嫌う,ニッチな顧客勢を狙ったモデルであった.
近年において最初にGTSモデルが設定されたのは,カイエンであった.
911には,元来GTモデル(GT2/GT3)が存在した.これは,カップカー造りを生業のひとつとするポルシェ社のラインナップとしては当然である.
しかし,ボクスター・ケイマン共にターボモデルは存在しなかった.このことから,カイエンに白羽の矢が立ったのは自然な流れかと思われる.
しかし,10年に渡るGTSラインナップの継続により,その立ち位置は変わりつつある.
独特のスタイリングと標準装備の多さからは絶妙な価格設定により,GTSモデルはひとつの個性として歩みを始めた.本来の目的である『ドライバーをより早く,よりストレスフリーに目的地へと届け,かつそこにドライビング・スポーツを忘れない』という意味合いを崩さず,ターボモデルに次ぐひとつの突出した個性として,その価値を引き上げようとした.
その試みこそ間違ってはいないし,実際に店頭でよく売れるのはGTSモデルであるのも事実である.
しかし,今やGTSと他のモデルとの境界線が曖昧になりつつあるのも否定し得ない.
その理由のひとつに,ダウンサイジングの潮流のひとつとしての,ターボ加給式エンジンの普及があると考える.
今やすべてのGTSラインナップにおいて,自然吸気エンジンは消滅してしまった.これは決して避けられないことである.こと911やケイマンにおいては,一貫して自然吸気エンジンを搭載するGT3やGT4の存在感をより際立たせるためにも,GTSはいち早くターボ化の煽りを受けたと考えられる.
最高出力や最大トルクといったスペックこそ向上の一途を辿るものの,エンジン・フィールやサウンドといった,ポルシェのDNAのコアにして,走りに最も重要な部分に,避けられない転換点が訪れているのは否定できないであろう.
特にそれは,スポーツサルーンやフルサイズSUVといった,いわゆる『大きいクルマ』において顕著であると感じる.外見こそ特徴的であるものの,ターボやディーゼル(現在はポルシェのラインナップからは消滅)モデルの存在,また,今や大型車を難なく牽引するモーターのスペック・アップにより,大型車を大排気量の自然吸気エンジンでガンガン引っ張る時代は,既に終わりを迎えつつある.
その証拠に,現在最も販売台数の多いマカンは,次期モデルから完全電気自動車への移行が公式発表されている.
個人的な意見だが,単なる販売促進や利益率向上のためにGTSラインナップを残し続けるのには,些か違和感が残る.モデル末期に登場し,標準装備の多さを売りのひとつに販売台数の底上げを意図するのなら,『プラチナ・エディション』となんら変わりはしない.
恐らく次のGTSモデルは,E3カイエンとなるであろう(2019年8月19日現在).
今後のGTSから,目が離せそうにない.
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