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第3回 テツオの洋服観

私の父、テツオは滅多に服を買わない。
そのため、いつも見覚えのある服ばかり着ている。

「ここ、破けたんやってえ」
と言いつつも、本当の意味で着れなくなるまで着る。
それが洋服におけるテツオの流儀らしい。

どの季節も、毎年同じ服を着るため
テツオの洋服の変化で季節の移ろいを味わえさえする。

ある時、尋ねてみた。
「その服、私が小さい時から着てない?」

テツオは当たり前の顔で言った。
「だって10年以上着てるもん」

服も本望だろう。
テツオの元に来れてよかったね。

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今朝はハイネックにチェックのシャツを着て、
ジーパンにイン。ジーパンにはベルト。
大体いつもこんな調子だ。
ビバリーヒルズ高校白書…見たことないけどそんな感じだと思う。

「シャツインはやめた方がいいって」と言うと、
「インせんと寒いが!」と言われ
いかにもテツオらしい理由に心の中ではくすっと笑った。
私はもうそれ以上何か言うのをやめた。
本人がそう言うなら仕方がない。

テツオは見た目よりも、機能性重視らしい。

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とはいえ、色にはこだわりがある。

テツオが好んで身につける色。
それは赤。

56の父が真っ赤なダウン。
真っ赤なスニーカー。

これまた私は
「やめねや」と言ったが
「赤はいいやろ〜気に入ってるんやって」
と満足げな表情を浮かべたテツオを見たら
私はもう何も言えなかった。

56歳らしさなどという概念はテツオにとっては重要ではなかったらしい。
「へへっ」と陽気に赤を身につけるテツオは
とても身軽に見えた。

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テツオの洋服観は今時ではないし
お世辞にもお洒落とは言い難いが、
なによりとても愉快で軽快な「らしさ」が詰まっているのであった。
あぁ、おもしろい。

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