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第4回 床屋にて。

散髪に出掛け、えらくさっぱりと整えられた髪型のテツオは、帰宅早々床屋で起きたその出来事を話し始めた。

「床屋の姉ちゃんがな、『はい髭剃りまーす』って言って髭剃ってくれたんやけどな、慣れてないんか剃刀の刃を垂直に立てて、ぎぎぎぎぃぃってやるで、もう血吹き出してんてな!
普通は刃を寝かしてやるんやけど、もう垂直にやるもんやで…」

テツオは驚きと困惑を足して2で割ったような表情で、一部始終を私たち家族に勢いよく伝えた。

「実際に垂直なのが見えた訳じゃないんやけど、感覚でわかるんやって!」

垂直に…血…!?
想像しただけで痛い…
私はテツオを不憫に思った…
が…しかし…その映像を想像するとどうしてもコメディタッチになってしまう…

そして「どれ、血が出たのはどの辺?」と剃った箇所を見せてもらったが、確かに至る所が赤くなってしまっていた。

「確かに荒れてる!」と私が言うと、

「そやって!もう荒れ地やってえ!」
と嘆くテツオ。

…「荒れ地」
その予想外のワードに私は面食らい、やられてしまった…。
顎が荒れ地…。
くくくっと笑いを口に含ませた。

「まったく〜」とテツオ。

テツオの顎は荒らされてしまったかもしれないが、その嘆きは今日も我が家に平穏をもたらした。

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