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「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」レポ【後編】

こんにちは。ぽろんと申します。またの名を雛田みかんです。役者の端くれでオタクです。

前回、「紀伊國屋ホール60周年記念公演 熱海連続殺人事件」における「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」のレポを書きました。

今回は後編になります。
台詞は前回から変わらずこちら↓から引用+私のガバガバ記憶から再現しています。

前回の倍くらいの文字数になるのですが、よろしければお付き合いいただければ幸いです。



前回までのあらすじ!
東京警視庁ではオカマの名物部長刑事・木村伝兵衛が歌ったり男のケツを見たり好き勝手やっていた。
そこへ兄の仇を取りに山形から赴任してきた刑事・速水兼作
心臓に病を抱え、部長に求愛するも振られ続ける婦人警官・水野朋子
熱海の海岸で山口アイ子を殺したという容疑者・大山金太郎
歌ったりふざけたり歌ったりする中で、熱海で起きた事件のみならず、様々な事件との関連性や真相が明かされようとしている。

熱海で山口アイ子が殺された事件。
その前日、竜飛岬で立花五郎が殺された事件。
6年前、モンテカルロで速水雄一郎が死亡した事件。
13年前、日本選手団のモスクワオリンピック行きが断念された事件。
さらに現在、新宿2丁目が放火された事件。

山口アイ子と立花五郎を殺した容疑をかけられる大山金太郎。
元恋人・速水雄一郎を殺したとされている木村伝兵衛。
果たして木村は自らにかけられた容疑の時効が迫る中、これらの事件を解決することができるのか…!?

…とまあ大体こんな感じです。(謝れ)
では、参ります。

ストーリーレポ(後編)

水野は大山を追い詰める。
大山は自分が立花五郎と山口アイ子を殺したと主張するが、大山の証言や挙動と立花五郎の殺害には、矛盾する点が多い。
水野は、立花五郎を殺したのは山口アイ子ではないかと推察する。
犯人の足跡から立花五郎が倒れていた位置まで25メートルはあった。
その距離は砲丸投げの世界記録を抜いている。
山口アイ子が殺した、でも世界記録は出していたと言った方が、金メダルを夢見ていたアイ子の供養になるのではないかと水野は言う。
何故ここまで俺を追い詰める、と問う大山を水野は叩く。

水野「私ね、女の夢を絶つ男の人を絶対に許すことができないんです。」

黙って席を立つ部長を、水野は新宿2丁目に送り出そうとする。

「Mr.サマータイム」(サーカス)が流れる。

速水は指摘する。
新宿2丁目に放火がされた中、水野の机からはライターが出てきた。
「部長がお困りでしたので」と返す水野。
さらに、速水が山形から東京に呼ばれたのは、水野の父である警視総監からの辞令によるもの。
自分を呼び寄せることで部長を追い詰め、死刑台に送り込もうとしているのは水野ではないかと問い詰める。

部長は水野のために歌おうと思った曲だと、「カレン」を歌う。

9曲目:「恋するカレン」(大瀧詠一)

マイクスタンドを取り出し、甘い歌声で歌う部長。
これまた歌うま。普通に聞き入ってしまう。
歌い上げる中、火事の新宿二丁目からオカマバーのママ・デン助(嘉島さんが兼ね役)と部長の弟・タケシ(鳥越さんが兼ね役)が逃げてくる。
(舞台の前方に出てくるが、実際には外から窓越しに部長に訴えている状況?)

ここ、部長の父は部長の早稲田の学費やオリンピックの費用を出すために二丁目で客を取るうちに梅毒になった、お前だけ二丁目から逃げられると思うな、とデン助から言われたり、
そんな入院中の父が死んだ、けれど自分たちは兄さんの邪魔にならないように応援しています、とタケシから言われたりと、
部長のお辛い境遇が語られるシーンなのですが…

嘉島さんの雑なゴツい女装(ちゃんとやれば綺麗になりそうなのに)や
鳥越さんのドピンクのタンクトップにピッチピチのショートパンツ(麦わら帽子のオプション付き)
というなかなかに地獄絵図な絵面により、どういう情緒で見たらいいんだ??となるシーンです。

部長の歌で、水野はクラブにいる時のように踊る。
「君、踊るんだ。」と部長に嫌味を言われ、「一昨日は誕生日でいつも一人で過ごすところを同僚に誘われ踊った」と返す水野。
「そんなに楽しかったか?」と部長は水野を詰る。
水野「私が部長以外の人と食事して楽しいと思いますか。踊れるといったら部長は、誘ってくれますか。」
部長「わからん。」
部長の態度は酷薄に映る。
自分からは好意を返す気はないくせに、水野が他の男と過ごすのは良しとしないわけだから。

そんな中、水野の母から電話がかかってくる。
水野は母に、明日部長と結婚式を挙げると言う。
部長は動揺し否定するが、水野は式場でいつまでも待っている、なんとしても来てもらう、と部長を追い詰める。

水野は、立花を殺したのはおそらく山口アイ子だと伝える。

部長「立花はゲスといっても、仮にも山口アイ子を育てあげたコーチだぞ。それを殺したと言うのか。何故だ!」
水野「女の誇りと尊厳のためにです。

もし結婚式に来なければ、部長のベッドで手首を切って死ぬと水野は脅す。

水野「私に恋をしてもらいます。」

10曲目:「待つわ」(あみん)

水野からのモーションに部長はたじろぎ、たまらず逃げ出す。
ここの木崎さんの歌は得意なキーなのか入りは合っており、「私待つわ いつまでも待つわ」という歌詞が水野の心情とリンクしており、不思議と心に届く。
(サビに入ると速水とのデュエットになり危険な香りがするのですが…(音程的な意味で)

部長が去った中で、なぜ部長はロサンゼルスオリンピックの出場を辞退したのかという話になる。
部長が辞退した代わりに出場した速水雄一郎は、金遣いが荒くいつも男と遊んでいる下衆で、記録も大したことはなかった。そんな男が出場し、なぜ部長は辞退したのか。

水野「情熱を失われたとおっしゃっていました」

速水・大山「情熱を失った!?」

大山「笑わせんじゃねえ!あいつの目は今でも鳥になる夢を忘れちゃいねえ!」

大山と速水は語る。
棒高跳びという競技は古代ローマ帝国の奴隷たちに発する。自分たちを取り囲む壁を超えて自由になるため棒を取った、奴隷たち3000年の歴史がかかった競技。
そんな棒高跳びで部長は非公式ながら6メートル88の世界記録をクリアしていた。誰もがロサンゼルスに部長が来て世界記録を超えるのを待っていた。それなのに来なかった。

金遣いの荒い速水雄一郎は高級車を乗り回していた。
実家は貧乏のはずなのに、誰が買ってやったのか。
部長が二丁目で客を取っていた時期は、オリンピックの出場を辞退した時期と重なる。

水野「もう許してください。」
速水「許すわけにゃいかないんです。第一あんたの青春とは一体何だったんです。十年尽くしたあんたがもらった言葉は、「君には感謝している。一つだけわがままきいてやる」言われて言う人じゃないでしょうが、あんたは、まったく!」

水野は独白を始める。
水野もモスクワオリンピックの女子100メートルハードルの選手だった。
代々木の選手村で部長に恋した馴れ初めを話し始める。
選手村近くの赤いレンガに蔦の絡まるかわいらしい喫茶店でよくデートしていた。
久しぶりに店に行くと、オリンピック円盤投げ銅メダリストのマスターは席に案内してくれた。

水野「私たち、いつもこのテーブルで二人黙ってコーヒーを飲んでましたよね」と言うと、マスターは、
「いや、あの日は三人だったよ」

緊迫感のある、犯人を追い詰める時のBGMがかかる。
(カニ男の時と同じものだが今回はフリでなく本チャン)

水野「一人は熱海に、そして二人は竜飛岬に行くと言っていた。…青森に行ったのはあなたじゃないんです。
行ったのは山口アイ子さんと立花コーチです。あなたは熱海で待ってたんです。大山さん、私たちにとって青春だったその代々木の選手村近くの喫茶店の名前はね、『花のサンフランシスコ』というんです。」

自分と部長の馴れ初めを話していたように見せて、大山を追い詰めていた水野。
水野は証言を取り、立花を殺したのは大山ではなくアイ子だと確信を持っていた。

大山「部長はどこに行ったんだ。あの野郎はどこ行ったんだよ!」
水野「あのすかした野郎は自慢のドレスを着て、新宿二丁目に客を探しに行ってます!」

雷鳴の轟音がする中、スモークが焚かれる。
スモークの中登場したのは、赤いドレスを纏った部長

部長「来ましたよ。『花のサンフランシスコ』のマスターが。」

いや、

美………

なんでしょうね、タッパがある(185㎝)のに、

物凄く似合っている。

化粧はそのまま、髪型もそのままなのに「ショートカットの麗人」という言葉が過ぎる。
女性に見えるわけではないのに男性にも見えない。性別を超越した何か。
Aラインのロングドレスは太ももに深いスリットが入り、美脚を惜しげもなく晒している。さらに太ももに赤いフリルのガーターリングというGJすぎる衣装。
ドレスと同じ色の長手袋も肩にかけた毛皮もよく似合っている。白い首から肩や背中のラインも非常に美しい。
(というかこの衣装の気合いの入り具合、明らかにお金かかってるよなと思う)

写真だと100パーセントは伝わらない。生だからこそ、スモークの中、紀伊國屋の照明を浴びる赤いドレスの部長の姿は発光して見える

さて、オタクの性癖がやや垣間見えましたが(ややではない)
部長は喫茶店のマスターに抱かれながら証言を取ってきた。さらに「花のサンフランシスコ」の2階はオリンピックの後行き場を失った女子選手たちの売春宿だった。

部長「哀れなものですな、水野君。スポー ツ選手の末路というものは。つまり私たちの青春だった蔦の絡まるある喫茶店は…水野君、幻だったということですなぁ。」

部長が手を叩いて水野を嘲笑う中、「モンテカルロで乾杯」が流れ出す。

11曲目:「モンテカルロで乾杯」(庄野真代)

歌いながら踊る部長は艶やかで美しい。
いやほんと綺麗。思い出すと涙出てくるくらい。
台本にはない曲なんですが、歌詞が「モンテの木村伝兵衛のためにある歌では?」と思う内容で、つかさんはイメソンを考える天才ですが中屋敷さんも天才だな、と思う。この曲入れてくれてありがとう。

どの曲も見事に歌い上げている多和田氏ですが、個人的にはこの曲がベストパフォーマンスだと思う。歌い方も他の曲よりオンナっぽいというか妖艶さがあり、ダンスも然り。ドレスの形状的に腰周りの動きは見えにくいんですが、しっかり腰を使ったりしている動きが伝わる。ハイヒールで太もも晒してハイキックもする。ここでもいい仕事をされる振り付け。
これが二丁目で客を取る木村伝兵衛か…という説得力。
木村伝兵衛(男娼のすがた)に脳を焼かれるオタク。
(アローラのすがたみたいに言うな)

間奏の間に(これだけ書きましたがまだ曲は続いてます)
部長と大山は詰り合い、部長は記録を伸ばせない補欠選手の大山を「この税金泥棒が!」と罵る。

2番のサビに入り大山もダンスに加わるのだが、「黄金(きん)の時計を過去に回して」の歌詞で大山が時計の針に見立てた腕を回転させる振りが好きだったりする。鳥越さんもダンスキレキレである。

曲が終わり。

大山「俺は日本のために頑張っていたと思っていたのに、お前らの迷惑になっていたんだ。よーし、よーし、よーし!」
部長「何、よしよしよしって、踏ん張っちゃって!」
←ドレスで四股を踏むな。急にオカマになるやんけ。

大山は「税金泥棒で悪いか!」と、補欠選手たちがいかに酷い扱いを受けてきたかを語る。
正選手たちが飛行機のファーストクラスに乗る中、補欠選手は家畜と一緒に荷物室に入れられた。
ホテルも用意されずゴザを渡されて、臭いからとスタジアムにも入れてもらえなかった。
そんな悲痛な叫び(荒唐無稽すぎて笑いどころもある)を部長と水野は若干バカにした茶々を入れながら聞いていたのだが、

大山「 しかしこれだけは忘れるな。いくらオレたちゴミでもコケでも、6メートル88を越えて鳥になりたかったということだけは!」

部長「…すまなかった」

同じアスリートとして、鳥になりたかった者としての叫びを聞いた部長はハッとした表情になり謝罪する。

その時の補欠選手には山口アイ子もいたという。
大山は浜辺(熱海における自白のシーン)に行こうとする。

部長「その前に、俺がモスクワに行けなかった理由を、四年間、血の汗を流し精進した680人の日本選手団の青春が成田で潰えた理由を話してもらおうか!」

熱海の浜辺にて。
アイ子に扮した水野と大山の会話。

アイ子は15年前に長崎国体の砲丸投げで優勝した時の栄光に縋っている。故郷から毎日自分に応援の手紙が届いていると思い込み、自分で手紙を書いてしまうほどに。
しかし、五島ではアイ子のことはもう誰も覚えていない。一緒に五島に帰ろうと大山は語りかけるが、アイ子は聞き入れようとしない。

アイ子「あんたのせいばい。なんでモスクワ行く時あげな事したとね。あんたのせいでうちはモスクワに行けんかったとよ!」

大山の回想、独白。

大山「 モスクワに行く前の日、オイたち補欠選挙は溜まり場の『花のサンフランシスコ』に集まり、成田に向かおうとしとりました。言っても出れる確率なんかなかけど、みんな親に借金したり、職場の仲間に借金したりして、 みんな必死に金を集め、 飛行機のチケットを買ってきたとです。言っても出れやせんとに、オイ達は虚しかったけど、万が一の時は、決して日本の名を汚さぬよう頑張ろうと必死に誓い合っとりました。が、オイ達は本当に虚しかったとです」

オリンピックが終わったら潰しがきかない競技の選手たち。棒高跳びの選手である大山もまたそうだった。
オリンピックが終わったら物干し竿屋でもすればいいのか。けれど自分は物干し竿屋をするために厳しい練習を耐えてきたのではない。
補欠戦士たちが虚しさのあまりおかしくなって次々と奇行に走る中、大山も気付いたら棒を握りしめて環七を歩いていた。
そんな中、ふと美しい星空を見上げると、アパートの2階の物干しに真っ赤なパンティーと可愛いブラジャーが。

大山「おいはその時信じたとです!」

「MOSAKU」(Dschinghis Khan)が流れる。

大山「あっ、オイは物干し竿屋なんかやるためあんな苦 しか練習して来たんじゃなか。もしかしたら、あのパンティーとブラジャーを掴む為にあの激しい特訓に耐えていたんじゃと!そう思った時、オイは棒を握りしめ、赤信号の大原交差点を突き走り、 空高く跳んどったとですよ!」

こうして大山は下着泥棒として捕まり、それが大々的に報道され日本選手団のモスクワオリンピック出場はパーに。

大山「パンティーでパー⭐︎」
部長「クソがぁ!!」

大山は部長、水野、速水にタコ殴りにされる。
うん、それはそう。(部長はタキシードにお着替え済)
この「パンティーでパー」だったりテレビに報道される時の警官やアナウンサーの台詞は他の役が担当することが多いですが、ここまで一連の流れを大山一人でやっており、流れが綺麗だななんて思いました。

大山「つまり青春とは、もろかもんちゅう事やね。アイちゃん、一緒に五島に帰ろう。」
アイ子「だから帰れんて。うちのことなら心配なか。うち、立花コーチと結婚するから。」

大山は立花が女子選手をみんな食い物にしている女ったらしだと訴えかけるが、アイ子は「うちだけは違う」と聞き入れない。
大山は訴えかける。
アイ子は立花に「花のサンフランシスコ」の2階で売春させられていたのだろうと。
立花にいつか結婚してやる、結婚してやると言われて騙され、立花を殺したのだろうと。

アイ子「あんた、スポーツマンをなめたらいかんばい。結婚を断られたぐらいで人殺すんじゃったら、なんであげん苦しか練習を耐えてこれるん。あんたに何が分かるね。小さい頃からあんな重い玉を投げさせられて来たうちの何が分かるね!」

大山「アイちゃんは、狂うちょりました。アイちゃんは狂うちょったです。」

アイ子の独白。
「生生流転」(さだまさし)が流れる。
(もう少し後のタイミングだったかもしれませんが、記憶が定かでなく…)

小学校の時に砲丸投げをやらされ、才能を見出されて嫌で嫌でたまらなかったけれど続けていた。

立花「山口君、キミには砲丸投げの才能がありますねえ。一生砲丸投げやって行きなさい」

随所に差し込まれる立花の台詞はそのままアイ子(水野)がやることが多いが、ここでは立花は部長が演じている。それが水野と部長の関係とリンクする。ここそう演出するの!?という衝撃その3。
「太れ太れ、力をつけろ」と言われ、どんどん食べて太り、アイ子は100㎏もの巨漢になった。

立花「 山口、化粧はよか。お前は鉄の玉さえ投げとりゃええんじゃ。お前が目指すのは牛や馬じゃ。山口、よう考えてみんね。牛や馬は化粧はせん」
アイ子「でもコーチ、うちは人間です」
立花「山口、そげな甘い考えじゃ日の丸挙げられん。まっ、いざとなったらオレが嫁さんに貰うちゃるき」
アイ子「コーチ、本当ですか!」
立花「山口、仮にもオリンピックのコーチは嘘はつかん」

その言葉だけを信じてアイ子は砲丸を投げ続けた。
しかし。

立花「山口、お前はもう砲丸やめい。アトランタには稲垣を連れて行く 」
アイ子「じゃあコーチ、うちと結婚してくれるとですか」

笑う立花。

立花「結婚はせん!」

アイ子「 …じゃあコーチ 、うちに嘘ばついとったとですか 」
立花「山口、よう考えてみい。仮にもオリンピックのコーチが牛や馬と結婚はせん。おお、青函連絡船じゃ!」
アイ子「じゃあコーチ、うちの青春を返して下さい 」

立花「山口よう聞け、スポーツのいい所は、青春を返せんちゅうことじゃ!まあ気にすんな。こげな広か地球の上で、 あげな鉄の玉をたかだか二十メートルくらい投げられたからって一体なんの意味があるんじゃ。おお!真っ青な津軽海峡に真っ白な青函連絡船がゆく!」

アイ子「…それが15年間育ててくれたコーチの言う言葉ね」

アイ子は確かに初めのころは嫌で嫌で仕方がなかった。
しかしスポーツに、砲丸投げという競技にやり甲斐を感じるようになり、金メダルを取ろうと精進していた。
それなのに立花の言葉は、スポーツマンを愚弄するものだった。

アイ子「 それを聞いた時、うちはもう何がなんだかわからんなくなってしもうて、側にあったヤシの実拾うて、「チキショウ!それがスポーツマンの言うことね!」 立花めがけて投げたとよ。」

こうしてアイ子は立花を殺害した。
アイ子の悲壮感、立花のクズさがすさまじく(部長とは全くの別人に見える)、個人的には他のどの熱海における殺人よりも「そりゃ殺しちゃうよね」となる動機。

アイ子「でもでもでもでも、その位置からうちのいた場
所までは二十五メートルはあったばい。金ちゃん!そん距離がどういう距離かわかるね。うちらの夢、アルゼンチンの巨人、ブリスベン・F ・ワイズの記録に勝った距離ばい!うちがアトランタに行けたら金メダル取れる距離ばい!」
大山「アイちゃん…!」
アイ子「これでうち、やっと砲丸投げ辞められるばい。あの鉄の玉から解放されるばい。…うちはもう疲れたばい。ああ、 五島に帰りたか。 長崎国体さえなきゃ...五島に帰りたか。小さかった頃の五島に帰りたか」

12曲目:「あの日にかえりたい」(荒井由美)

「泣きながらちぎった写真を♪」とアイ子が涙声で歌い出す。やがて大山とのデュエットになる。

ここ歌入れるの!?となったポイントなのだが、
「青春の後ろ姿を人はみな忘れてしまう あの頃のわたしに戻って あなたに会いたい」
という歌詞が二人の郷愁、もう戻れないという心情にリンクして、千秋楽でボロ泣きしてしまった。
歌唱力とかどうでもいい。とにかく胸に響く一曲だった。

アイ子「…あっ!五島だ!」

アイ子は海の向こうに五島の幻を見ながら、大山の制止を何度も振り払い海に入ろうとする。
お父さんがいる、お母さんがいる、ひまわりいっぱいの花壇が見える、先生がいる、仲の良かった友達がいる…という情景が浮かぶような郷愁に溢れた台詞は、地方から出てきた人間にはガン刺さりしてボロボロ泣いてしまう。

アイ子「吉岡先生、山口アイ子です。まゆみちゃん、うち、もう砲丸投げやらんでようなったとよ。仲間にいれてえ。うち、やっと五島に帰って来れるようになったとよ!」

大山「…見えるねぇアイちゃん!ひまわりいっぱいの花壇が!見えるねぇアイちゃん!あん五島の美しい海が!
…もう疲れたやろ。死んだ方がよかね。
するとアイちゃんはコクリと頷きました。だからオイはアイちゃんを五島に帰してやろうと思ったとです!」

大山はアイ子の首に手をかける。
音楽が流れ、部長が捜査机に登る。

13曲名:「愛の誓い Till」(塚田三喜夫)

部長「ああ〜♪昼も夜も〜♪あなただけに〜♪生きていたの〜に〜♪」

!?!?!?

ここのシーン、本来の台本であれば熱海の代名詞とも言える、「パピヨンのテーマ」が流れる中、部長が大山を菊の花束で打ち据える、という五感に与えるインパクト絶大な見せ場となるシーン。
それを丸ごと、全く違う曲の歌唱シーンに置き換えている。ここそう演出するの!?という衝撃その4。一番びっくりした。

部長は歌いながら、アイ子(水野)の首を絞める大山を止めに行こうとする速水を制止し、ワンフレーズ歌い終わると速水を行かせる、ということを繰り返す。
それを繰り返すこと4度。
大山は部長の捜査机に上りアイ子を手にかけ、ついにアイ子は息絶える。アイ子の亡骸を抱きしめる大山。
二人の上に金粉・銀粉が舞い落ちる。
あまりに美しい画に涙が出てくる。
部長の歌はどこか慈しみを感じさせる、壮大で優しい歌声。神々しささえ感じさせる。
大山が部長の靴を磨く中、最後のロングトーン。
最高潮の盛り上がり。
部長は大山を蹴り飛ばす。

部長「あのドアを出ると、新聞記者たちが手ぐすね引いて待ち構えている!でも見透かしてやろうって腹だか
ら、そりゃあ凄え形相だ。いいか、身体をぐうっと締めろ。フラッシュたて続けに焚かれるだろう。 表に検察庁の迎えの車が来ている。速水が新聞記者たちをかき分け、ドアを開ける。乗り込む。お前の目に一筋の涙。いっせいにフラッシュが焚かれる。顔を伏せる!」

物凄いスピードでの、木村伝兵衛といえばな長台詞。

部長「 そこでカーステレオから、速水がモンテカルロで美しい夕日を背にし、俺を愛しいと、かけがえのない男だと、お前の為に世界を相手に戦うのだと、その力強い腕で抱いてくれたこの曲!」

チャイコフスキー・ピアノ協奏曲第1番。

観客の目を(物理的に)潰すライトが音楽に合わせて色とりどりに照射され、ライトを背に狂喜する部長。

速水が音楽を切る。

部長「きさま!」
速水「あなたじゃない。兄を殺したのはあなたじゃない!」

涙ながらに訴える速水。
部長は大山に靴を放り投げる。

部長「持ってけ。ロサンゼルスのとき、NIKEがオレの為にただ一足作ってくれた102フェニックスだ。それ履いてしっかり十三階段登ってけ!
殺さなくても済んだんじゃねえのか。 踏ん張れば、殺さずに済んだんじゃねえのか!五島に連れて帰り、時間をかけてその心をゆっくり癒してやればそれで済んだんじゃねえのか!」

部長は大山を蹴りつける。

部長「速水、お前さっき偉そうなこと言ってたな。ブタもオカマもも人間のクズじゃねえんだ!人間のクズっていうのは、人が人を殺すってことだ。それは何故か。残された家族が死ぬより辛い悲しみを背負うからだ。だから殺しちゃいけないんだ!」

大山「いや、いや!オレはお前のことはクズだと思う。なぜ来なかったロサンゼルスに。15年たった今でも、あの記録は破られていないんだ。世界中の人たちはお前だったらあの6メートル88を越えてくれるんじゃないかと楽しみにしていたんだ。 お前に6メートル88の壁を、越えて鳥になってほしかったんだ。木村、また棒を持ってくれ!」
部長「…無理だ!!

部長の叫び。後述される彼のアスリートとしての矜持や無念を思うと、すごく泣けてしまった。
大山は部長を殴り、水野と対峙する。

水野は大山の起こした事件のせいでモスクワオリンピックに行けず、次のロサンゼルスでは年齢的に女子ハードルの盛りは過ぎていた。もしモスクワに出られていたら、この恋も成就したかもしれない。
さぞ俺を恨んでいるだろうに恨み言ひとつ言わないのかと大山に言われると、
水野「親に、そう躾けられましたから。」
部長が逮捕されたら明日の結婚式はどうするのかと言われると、

水野「北海道の帯広に友達がいますから、そこでしばらくかくまってもらおうと思います。…親ですから。我慢してもらいます」

大山「水野!」

大山は敬礼する。
「Perfect Illusion」(レディー・ガガ)が流れる。

大山「木村!より強く!より速く!より高く!」

大山は部長から受け取った靴を胸に、捜査室を去る。

部長「間に合いましたかな。」
速水は躊躇いながらも、部長に手錠をかける。

速水「あなたじゃない…残された家族が死ぬより辛い悲しみを背負うからだ、そんなことを言うあなたが殺したはずがない!あのゲス野郎は…!」
部長「速水雄一郎は、日本を代表する棒高跳びの選手です。決してゲス野郎ではありません
速水「……」
部長「お時間をいただけますか?水野君を送り出してやりたいんです」

速水がはけ、部長と水野の二人になる。
「招待状のないショー」(井上陽水)が流れる。

部長「水野君、ご苦労でした。もう自由になってください。こんな男ではなく、もっと男らしく優しい男 を見つけて幸せになって下さい。あなたなら出来ます。 あなたと過ごしたこの捜査室の十年間、私は自分の影に怯える事なく生きてこれました。みんな、あなたの心の広さと優しさのお蔭です。ありがとう。」

部長は水野との思い出話をする。(その中には水野が部長をいじめた子供たちを5〜6人半殺しにしたという強火エピソードもあったりする。「部長がお困りだから」で二丁目に放火するくらいだしな…)

水野「私、 部長の帰りを待ってちゃいけませんか。」
部長「水野君。私はこんな男ですから、その種の人間ではないんです。出来ることならあなたを強くかき抱きたいのですが、私には出来ないんです。私に出来るのはこれだけです。」

部長は手錠をされた手を握手として差し出すが、水野はその手を取ると腕の中をくぐり、後ろから抱き締められる。
握手する演出しか見てこなかったので、ここそう演出するの!?天才か!?という衝撃その5。
散々水野に抱きつかれては拒否してきた部長が、嫌がることなく水野を抱き締め、涙する。

部長「もしこの世に神様という方がおられ、このような不自由な男をお作りになったことで少しでも悔いておられ、その願いを最後に一つだけ聞きとどけて下さるというなら、私は死刑台に連れていかれ、首に縄をかけられ、息が止まるその瞬間に、 あなたの人生に幸多かれと祈ります。申しわけないことをしました。あなたの大切な十年を犠牲にしてしまいました。なんとお詫びを申しあげればよいのか。」

水野「いえ。私は十分幸せでした。…幸せでしたよ。

部長「水野君。約束だ。 一つだけ願いを聞こう。」
水野「じゃあ、もう一度『デザイヤー』が見たいです。」

涙ながらに「ゲランゲラン♪」をしながら連行される部長。
水野は心臓の病に倒れる。


時は流れて。

大山「木村!より強く!より速く!より高く!」

部長に貰った靴を胸に、大山の絞首刑が執行される。
檻の中でその報せを聞く部長。
彼もまた、死刑執行のため十三階段を登る。
警視となった、タキシード姿の速水が出てくる。

部長「ご立派におなりになられましたな。」
速水「部長…。」
部長「部長はよして下さい。」
速水「私が生涯部長と呼べるのはあなたお一人です。部長、何故、控訴されなかったんですか。」

木村は水野は元気かと聞くが、水野は帯広中央病院で重体だという。

速水「あの人は言ったんです。部長が死んだら私も死ぬと。今、必死に生きていらっしゃいます。…部長、本当のことを教えて頂けませんか。兄を殺したのはあなたじゃない。」

部長は笑い飛ばそうとするが、速水は訴えかける。

オリンピック棒高跳びの選手たちが金メダルを床に叩きつけ、引退し、死地に向かったのはあんたが来なかったからだと。何より、部長とせめて死の時を同じくしようと必死で生きている水野が不憫でならない。本当のことを話してほしいと。

部長「…私は、速水を愛していました。」

部長は語り始める。

速水にはロサンゼルスオリンピックで金メダルを取ってほしかった。速水と住んでいたのは下高井戸の汚い四畳半のアパートだった。部長は速水の合宿費用や練習費用を出すため、朝は土方の現場で働き、夜は二丁目のウリセンゲイバーで1日に4人も5人も客を取っていた。
しかし部長の献身をよそに、速水は練習しなかった。毎日男を連れ込んで酒をかっくらい、遊び回っていた。
ロサンゼルス決勝の前夜。「キーちゃん、俺、メダルが欲しい。ブブカの棒に傷を入れてくれ。折れるようにしてきてくれ」と速水は泣いた。
そんな事をして金メダルを取って嬉しいのかと部長が訴えると、速水は「お前、俺を愛してるんだろ。ブブカの棒に傷つけたら抱いてやるからよ。抱かれたいんだろ」
と部長を気を失うほど殴り、裸にして街に蹴り出した。

部長「抱かれたかったです。死ぬ程抱かれたかったです。愛していましたから。」

しかし部長は金メダルに挑んだアスリートだからこそ他の選手たちの努力を知っており、そんな卑劣な真似ができるはずはなかった。
誰よりも鳥になりたかった男が、愛のためにその夢を諦め身を売って尽くしながらも、アスリートとしての高潔な魂までは売ることができなかった。

部長「…あいつは筋肉強化剤を打ってました。それを私が喋ると思ったんですなぁ。…モンテカルロで車のブレーキに細工したのはあいつです。私を殺そうとしたんです!…愛する男のことを、私が喋ると思いますか。思いますか!

部長は愛する男の名誉を守るため、自分が罪を被って真相を墓まで持っていくつもりだったのだろう。
速水の言葉がなければ。

速水「部長、 あなたならあの6メー トル88を越えられましたか。」
部長「…速水くん!私は誰よりも鳥になりたかった男です!私なら、越えられました!

ロサンゼルスのオリンピック・ファンファーレ&テーマが流れ出す。

背後のスクリーンにはオリンピックシンボルが映し出される。

ここ、そう演出するの…?天才か…?という衝撃その6。泣いた。
速水はロサンゼルスオリンピックの実況を始める。
千秋楽の前日あたりから速水の実況が涙声になっており、ここでも号泣。
実況と同時に部長はアスリートの目になり、手錠をかけられながらも棒を手に取り、6メートル88の記録に挑み、跳ぶ。

速水「木村の身体が着地した後、七秒間、バーが落ち
る事がなければこの大記録は成立いたします。カウントダウンに入りました!」

ピッ、ピッ、というカウントの音が水野の心音と重なる。

速水「七、六、五!六万の観衆と七十億全世界の国民が祈るような思いで声を合わせております。四、三、二、ー、…成立いたしました!人は今、人類は今、鳥になったのであります!」

部長「やった、…やった!!速水、速水、やったぞ!!」

部長は手錠から解き放たれる。
ピーーー、と水野の心音が止まる。
ゴキリと音がし、部長の首が吊られる。


すかさず流れ出す沢田研二の「危険なふたり」!!
明るい音楽と照明の中、歌い出す大山、水野!!
さ〜あここからは楽しいフィナーレだ!!
どういう情緒で見ればいいねん!!
となりながらも爽やかなフィナーレ。

やがて速水、部長も合流して歌う。
捜査机の上に立って登場する部長にスクリーンで星の集中線が入るのはマジスター。彩りの星…ゲフン
4人で電車ごっこしながら移動するのがかわいい。
明るい曲調ながらも、この曲も物語に当てはまる歌詞だよなぁと思う。

「ああ ああ それでも 愛しているのに」
登場人物それぞれが報われない愛を向けたモンテカルロ・イリュージョンにぴったりな歌詞だろう。
爽やかにも切なく4人が歌い上げ、最後は捜査机に乗ってポーズを取る。

幕。


……88888888888!!!!

カーテンコールはレディー・ガガの「Perfect Illusion」が流れる中、4人でスタイリッシュにモデルウォーキングをして礼。
ダブルカーテンコールまでその演出で、それぞれ超オシャレなポーズを取って〆。
いやほんと超スタイリッシュ。天才のカテコか。

私が初見の時点では3回目の公演だったんですが、その時点で5回以上のカーテンコールが行われスタンディングオベレーション。千秋楽までそうだったし、なんなら初日からずっとスタオベだったらしい。
それだけ多くの観客がこの舞台を待ち望み、感銘を受けたのだろう。私もその一人だ。
最高すぎて初回を観終わった時点でリピチケ追加し、計4回行きました。(もっと増やしたかったけどスケジュール的に入れられる限界数でした)

…さて、
この時点でクソ長いのですが
(コンパクトにまとめられなくてすみません。切れるところが少なくて台詞の引用だらけになってしまった…)

改めて私の感想、個人的なキャスト評に入っていこうと思います。(大変おこがましくはあるのですが!)



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各出演者様への感想

(※個人的な感想です)


嘉島陸さん(速水兼作)

初めてお目にかかる俳優さんだったんですが、めちゃめちゃ声出る。体幹が強い。そして何より熱量がある。
熱海にうってつけの役者さんじゃないかと思いました。
熱量というのも「若さ」を感じさせる、真っ直ぐで純粋なもの。速水の役どころにぴったりだった。

部長に疑惑や恨みを持ちながらも、根底にあるのは「尊敬」。それがよく伝わった。
部長に兄を殺したのはあなたじゃない、と言うくだりから、最後の実況で涙ぐむ様からもその感情がありありと伝わって、こちらも涙した。

水野に対する態度を見ていても、この人は善性の人なんだな、と思う。
そんな彼が僅か2時間しか関わっていない部長から得たものを胸に、真っ当に出世し、最後に部長の魂を救ったように、これからも多くの犯人を救っていくのだろうな…と思えると、この物語への救いを見出せる。

アドリブコーナーでお兄さんたちに扱かれる姿や、千秋楽のフィナーレ〜カテコでグッズグズに泣いちゃってて鳥越さんに突っ込まれる姿もとても愛くるしかったです。

木崎ゆりあさん(水野朋子)

まずかわいい。チョケるところは部長と息ぴったりで、かわいさと面白さの相乗効果。
それでいてかわいいだけじゃなく、声も出る。
このバージョンの水野はアイ子の独白も含め、かなりの長台詞が多かったりする文字通りの体育会系なんですが、ハイスピードでも滑舌よくほとんどクリア。
何より求められる熱量が後半ずっとフルスロットル。
変に捏ねたりしない直球なのが胸に届く。

モンテのアイ子は狂いながらもアスリートとしての矜持ゆえに殺人を起こしているので、自分で自分を可哀想がりすぎてもいけないなと個人的に思うのですが、木崎さんは水野もアイ子も誇り高く強い女性なのがベースにあって非常に良かった。
お歌の破壊力もご愛嬌…と思ったのですが回数を踏むごとに味が出てきて、千秋楽では泣いてしまった。感情が乗っているからなのかな。音痴(言っちゃったよ)なのに心に届くとか何それすごい。

あれだけの台詞量で後半叫びっぱなしで声枯れないの、喉つよパッション民すぎる。
今回のモンテにぴったりな水野・アイ子だと思いました。

鳥越裕貴さん(大山金太郎)

ぴったりやないか〜〜〜い!!となる役でした。(第一声からそれかい)
鳥越さんの舞台は.5や(思い返せば)ダンス公演で拝見しただけだったのですが、.5界隈では少年役が多いイメージなので、こんなに低い声出んの…?いやこっちが地声…?となりました。
千秋楽では声ガサガサだったんですが、それも役の味となっていましたし、何より最後まで駆け抜けたことがすごい。

モンテの大山はノーマル熱海の大山くんと別物で、そのオラオラ感というか、パワフルながらも他バージョン大山よりもスレてて大人な所(水野の独白中にタバコ吸ったりもするし)が、最年長なこともあってしっくり来ていました。

この大山も下着泥棒やらかしたりはしているんですが、どんなに酷い扱いを受けてもアスリートとしての誇りや情熱を持っていたり、アイちゃんを殺した動機がただの身勝手なものではなく「救済」の意味合いが強かったりすることから、情けなさより強さを感じられる。

(※追記)
この「救済」は、「アイちゃんはコクリと頷きました」と言った時に実際にはアイ子(水野)は頷いておらず、大山の見た幻、願望だったのではないかとも捉えられる。
その後の「Till」ではアイ子は何度も頷くが、これはあくまで殺しの"再現"なわけであるし。真相がどうなのかは受け手の解釈に委ねられるのだろう。

そして部長に対する複雑な感情。憧れあまって憎さ100倍というか、要はクソデカ感情こじらせたツンデレ厄介ファンだと思ってます。アンチはファンから反転することが多いですからね!

大山の最期の瞬間は台本には無い描写なのですが、
最期まで部長に夢を託して逝った様には涙が出た。
超ナイス改変だと思いました。


多和田任益さん(木村伝兵衛)

いや正直に言いましょう。
この人のモンテ伝兵衛が見たかったんだよと。
健気さと乙女心と漢気と、愛しさと切なさと心強さと(?)
そんなこんなを感じさせるモンテの伝兵衛が、私はキャラクターとして好きなんです。そもそも。
そんな魅力的なキャラクターで、残っている過去のゲネ映像からも明らかに似合っていそう。
去年の多和田さんの大山で情緒グチャグチャにされて熱海ファンになった身としても、いつか絶対に見たいなぁ…と思っていた役でした。
それがまさかこんなに早く叶うとは。(4年越しの方からすれば「ようやく!」だと思いますが)

意気揚々と期待して目にしたものは、期待のはるか上を行っていました。
少なくともこの演出、これだけ歌って踊って喋り倒して、このアプローチでの木村伝兵衛はこの人にしかできないと思った。持ち味を全開にした役。
ミュージカル俳優でも喉潰すんじゃないかという役。
千秋楽まで全く声が枯れる気配のない喉つよオバケ、かつ物凄く巻きの台詞なのに耳に優しいお声と滑舌で大体は聞き取れる。うるさくやってもうるさくないんですよね、届いてるのに。不思議。

何より圧倒的な華。パッと目を引く存在感があり、華やかさを前面に押し出したこのモンテにはぴったりなのではないかと。あの宝塚衣装がどうして似合うんだよ。

先月の「白蟻」の時にも思いましたが、ビジュアルが強いってそれだけで一種の説得力になるんですよね…。
特に多和田さんの場合、客席が遠くても伝わる人間離れしたスタイルと華があるので。
(私が多和田さんを初めて生で拝見した時は新国立劇場の2階からだったので米粒大でしたが、スタイルが良すぎて出てきた瞬間に分かりました)
ド紫のブラウスや真っ赤なドレスが似合うあたり、パーソナルカラーブルベ冬だったりするのかしら。まぁ顔がいい人は何べでも関係ないんですが。

ダンスが上手いのは梅棒さんで活動されているのでそりゃそうなんですが、歌のうまさに驚きました。
以前から音程外さない人ではあったけど、伸びやかさや歌唱表現が格段に上がった感じ。何より耳に優しい

そして在り方が常にこのモンテにおける伝兵衛。所作が常に綺麗で、それでいて他の人が台詞を言ってる時もきゃるきゃるした小芝居を後ろでやってたり(もちろん本筋に差し支えない範囲で)、女子力が高い。要はかわいい

「火の粉を浴びないようにご注意くださぁ〜い⭐︎」で火の粉を飛ばしたり、「俺はモチをついたような性格って言われてんの!?」でモチをついたり(つく方じゃなくて捏ねる方)笑わせてくるうるさい動作や煽り方には多和田イズムを感じつつ。
給水タイムをさりげなくじゃなく「見て〜!お水〜っ⭐︎」「2本もあるの♡」「おいし〜っ⭐︎」って感じで(※全てサイレント)パフォーマンスとして見せてるのも好きだった。ハンディファン出してる回もあってクソ笑った。女子大生かよ。
速水「いつもと違うやつ出すなよ!」
部長「いつもと違うって何?あんたと会うの初めてだけど?」

それでいてかわいいだけじゃなく、時折水野に見せる態度や、立花から部長にスッ…と戻った時の冷たい表情のギャップが堪らない。
水野視点だとクソ野郎ではあるのに、それでも好きになってしまうのは分かる。
いや、最後の水野との絡みを見てると本音はこうだったのかな、自由にしてあげたくて敢えて冷たく接してたのかなとも思うけども。(最大限好意的な解釈)

何より、終身名誉クソ野郎こと速水雄一郎という男を死んでもなお愛し続け、愛する男の名誉を守ることに殉じながらも、アスリートとしての矜持は持ち続けた誇り高さ。

はあ〜〜〜〜〜…ほんとなんであんなドブカスクソ野郎に………
という気持ちになりますが、それぞれがクソ男に引っかかって報われないというのがモンテの醍醐味であり美しさでもありますよね。
キーちゃん、あんたにゃもっといい男いるわよ。幸せになんなさいよ。いやそれ以前に水野を幸せにしろ!?!?

ともかく美しく可憐でチャーミングな木村伝兵衛でした。
またやってください。平に。


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木村伝兵衛という男


ごめんなさい、限界オタク語りがもう少し続きます。
作中で明言されていない木村伝兵衛の行間について少し考えてみました。(私の幻覚強め解釈です)

誰よりも鳥になりたかった木村伝兵衛は、おそらくモスクワオリンピックよりも後に速水雄一郎に出会い、恋したのだろう。
そして誰よりも夢見た世界記録更新を、オリンピック金メダルを諦め、その席を速水に譲ったのだろう。

しかしながらそれを速水はどう思ったのだろうか?
周囲からは木村の方が期待されているなどと百も承知だろう。そんな男に席を譲られた、と分からないわけがない。
それを受けて、仮にもし彼の中にアスリートとしてのプライドが欠片でも残っていたならば、情けなくならなかっただろうか?そして練習への意欲も落ちたということはないだろうか。

仮にも部長が惚れた美しい走りと跳躍で、記録も補欠の大山と比べたらずっと高いものだし、部長が辞退すれば代表に選出されるほどの実力はあったのだろう。
もし部長の献身が速水を堕落させたのだとしたら、これほど救われない話はない。
…筋肉強化剤をいつから打っていたのか、という話にもよるし、単に「降りてくれたラッキー」って思ってただけのゲス野郎かもしれませんが。(そっちの方がマシまである)

そこがどうだったのかはさて置き、部長は速水に対して少なからず罪悪感を持っていたのだろう。
モンテカルロでの自動車事故では殺されかけた身であるが、「自分がそうさせてしまった」という意識が「自分が殺した」という意識になり、ゲイバー「トン吉」のママにそうこぼしていたのではないだろうか。
速水の名誉を守るためだけではなく、自罰的な意味もあり絞首刑を受け入れたのではないだろうか、とか。

そんな部長が水野を雑に扱うのは負の連鎖ェ…となるのだが、最後の態度を見るに、水野が諦めるように敢えて冷たくしてるという捉え方もできる。それなら10年も束縛すんなやとは思うのだが。付き合いの長い男女、というかこの二人の関係は色々と複雑なのだろう。

過去のしがらみに囚われた木村伝兵衛も、最後は鳥になり自由になることができた。そう思えばハッピーエンドなのではないだろうか。
最期の瞬間に水野を思うと言っておきながらも最期まで「速水」だったわけだが。
絞首刑から時が流れて冒頭の死後の世界に繋がるのだが、数千億年という時を経て目醒めた彼が独りだったらあまりにも不憫だ。
「あなた、あなた」と呼ぶ声が聞こえたように、そこにはせめて水野が共にいてほしい。



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総括


「紀伊國屋ホール60周年記念公演 熱海連続殺人事件」における「モンテカルロ・イリュージョン」。

standard公演も一度観たのですが、そちらとの違いとして挙げられるのがまず華やかさ。
standardには荒井さんを始めとする役者さん方の技量や熱量によるスタンダード熱海としてのパワフルさや良さが存分に感じられ、モンテに一見して感じられるのは歌謡ショーを始めとしたエンタメ性…?と思われそうだが、それだけではない。脚本や演出、役者が違うと「熱海殺人事件」と名のついたものでもこうも違う。
モンテにはモンテの華やかさと熱量があり、これはそれぞれのチームにしか出せない固有の色だったと思う。

スケジュールの組みずらさは観客によってあったと思うが、それぞれの良さを感じられる同時上演という趣旨はとても良かったように感じる。
(惜しむらくはstandardの公演期間が思ったよりも短く感じ、スケジュールの都合でモンテが始まってからチケットを増やせなかったこと…)

このモンテは歌謡ショーに振り切っていて度肝を抜かされた演出だったが、ただのエンタメではなく、おふざけになりがちな歌唱シーンを客席も一体となって楽しめるパフォーマンスとして成立させた上で、歌詞に意味を持たせている。
台本にある曲はイメソンの天才こと、つか先生の選曲だが、それらは勿論のこと、中屋敷さんが新たに付け加えた曲にも全て意味がある。物語の状況やキャラクターの心情に歌詞がリンクしている。

他にも台本を読んでいる身からすると革新的な演出が色々とあり(「ここそう演出する!?」シリーズ)、
非常に見応えがあり満足度の高い1時間45分でした。え、2時間ないの??あれだけ曲詰め込んで??マジで??となる。(その分台詞は巻き巻き)(主に部長)

ぶっちゃけ初見後は部長の歌とドレス姿に脳を破壊され
oO(笑った所や良かった所いっぱいあったはずなのに覚えてない…)「とりあえず部長の歌謡ショーまた浴びた〜い」とIQ3になりました。
そのくらいの衝撃をパーン!と浴びて楽しくなる舞台。
後半のシリアスパートの温度差はえっげつないんですが。あれだけゲラゲラ笑ったのに登場人物の4分の3死んでますからね。とんでもねえや。

タイトルである「モンテカルロ・イリュージョン」における「イリュージョン」は、様々な幻が意味付けられていると思う。
部長が速水に、水野が部長に、アイ子が立花に、大山がアイ子や部長に抱いた願望としての幻。
思い出の花のサンフランシスコという幻。
アイ子が熱海の海で見た五島の幻。
大山や部長が今際の際に見た幻。
そしてカーテンコールで「Perfect Illusion」が流れるように、観客に見せられた完璧な幻。
その幻に魅せられ、何度も足を運びたくなる、そんな舞台でした。

願わくば今回のキャストにできるだけ近い形で、また上演されますように。
今回のキャストはもちろん、2020年・2021年に演じられていた方々で観てみたい、という気持ちもあります。

あ"ーーーーー!!!!楽しかった!!!!(語彙力喪失)
いつにも増してクソクソ長文になってすみません。おそらく本来なら前・中・後に分けるべき。だけど無理やり押し込んでしまった。

"大復讐"と言われているように、コロナ禍を経て絶対にリベンジしたい、また上演してほしい、という多くの方々の念願が叶って無事千秋楽を迎えた公演。
想いの強さもひとしお感じられて、本当に素晴らしかった。この公演を観劇できて良かったです。


…めちゃめちゃ私事なのですが、私は現在「★☆北区AKT STAGE」(北区つかこうへい劇団の意思を継いだ劇団)の第10期準劇団員として入団しておりまして。
熱海がきっかけでつかさんの芝居をやりたいと思い、日々壁にぶち当たりながらも数ヶ月後の卒業公演となる「熱海殺人事件 売春捜査官」の上演のため稽古に臨んでおります。

今回の観劇は、熱海への「好き」を胸に励んで参りたいと、より熱意の強まる日々でございました。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
ではでは!

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