「熱海殺人事件」を初めて観劇したレポ&感想【後編】

こんにちは。雛田みかんと申します。またの名をぽろんです。
役者の端くれですが、先日まで上演していた「熱海殺人事件 バトルロイヤル50's」の観劇を通して初めて「熱海殺人事件」およびつかこうへい作品に触れ、色々と受けた衝撃が大きすぎてレポ&感想を書かせていただきました。

中盤までのストーリー展開と感想、日替わりネタのレポを詰め込んだ前編の記事はこちらです。

なにぶん熱海初心者による記憶を頼りにしており正確ではない乱文にも関わらず、読んでくださった方々がいらっしゃり、本当にありがとうございます。

後編の記事は物語終盤なこともあり日替わりネタのレポはないのですが、よろしければお付き合いいただければ幸いです。

前回にも増して台詞の引用が多くなっております。
引用元はこちら。

そして私のガバガバ記憶です。
逐一書かんでも台詞分かるわ!という方は読み飛ばしてください。
実際に上演された台詞との相違に関してはご了承くださいませ。




終盤のレポ・感想


前回までのあらすじ!
熱海で起きた殺人事件の容疑者・大山金太郎
つまらない事件を面白くしようと、捜査室ではハチャメチャな捜査が繰り広げられる! 
ハチャメチャ部長刑事・木村伝兵衛!ここぞとイチャつく部下兼愛人の婦人警官・水野朋子
鬼滅やらクソミュージカルやらのハチャメチャ捜査についにキレた大山金太郎!開き直りクソムーブからの黙秘を貫こうとするも、貧乏成り上がり刑事・熊田留吉の言葉が大山の心を動かす…!!

…とまあ大体こんな感じです。(謝れ)
というわけで、後半のレポ兼感想(という名の限界オタク語り)に行きます。


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捜査室に一人取り残された大山金太郎は、自供を始める。

「バスから降りて歩きました!」

涙ながらの、血を吐くような悲痛な叫び。

…この自供シーン、他の方が演じた大山を観ていないのでなんとも言えないのですが、台本を読んで受けた印象だと、おそらく落ち着いた感じで話すように演じる方もいらっしゃるんじゃないかなと思うんです。
けどこの大山は、もう最初から悲しみの感情がフルスロットル。
この台詞をここまで悲痛に言えるのか…と思う第一声。

大きな体を丸めて体育座りする姿は小さい子供のよう。大山はアイ子と熱海の海を見た時のことを思い出しながら話すも、ぐっしゃぐしゃに泣いている。

「私たちはあのときあれほど幸せだったのに、とても悲しかったことは、私たちの話す言葉はつらい職場やいやな寮生活の恨みごとでしかないんです。」

「そしてお決まりの、お盆になったら田舎に帰ることを、彼女は楽しく話してくれました。(中略)でも本当は、僕らは田舎に帰ることも職場を変えることも信じてはいないんです。ほかに話すことがないから!

アイ子との会話を再現しようとするも、それ以上言葉を紡げなくなってしまう。言葉が出なくなり、一旦「がんばろ」と自分を奮い立たせてやり直そうとするも、やはり辛くてそれ以上言葉にならない。

独白を手伝おうと、アイ子に扮した水野が戻ってくる。その申し出を受けるも、
大山「おらより前、歩くでねえぞ、女は。」
水野「手も引いてあげなかったの?」
大山「…座ろうか」(気まずげ)
彼も九州男児なんだな…と思うと、なんだかしんどくなったやり取り。

しかしブスなアイ子の顔真似なのか思いっきり顔を歪める水野。
大山「全然乗れない!!」
シリアスだった空気が一転ギャグ調に。
そこから木村が戻ってきて更にすったもんだあり。
捜査は進み、アイ子は体を売っていた、中でも一番最下層の「コケ」と呼ばれる女だったと判明する。

凶器となった腰紐は誰のものだったのか。それは第一発見者の山田太郎のものだった。山田はアイ子が体を売っていた店の客だった。

大山「部長さん…腰紐貸してください」

イモい眼鏡を投げ捨てる。

大山「最終的には…こういうことになるんだ!!

狂気じみた目でアイ子に扮する水野の首を締める大山。途中で手を止めるが、部長は自分の女にこんなことまでさせるのかと怒る大山。
(水野はアイ子の体を売る職場に潜入操作していた)

大山「この人はな、あんたに幸せにしてもらおうなんざ思っちゃいねえ。自分が幸せになりたいからあんたと一緒になろうと思ったんだ!」
木村「そうなのかね」
水野「…はい」
大山「少なくとも俺はそうだ。俺は自分が幸せになりたいから…アイ子と一緒になろうと思ったんだ!」
木村「…始めるぞ」

熱海の再現が再開する。

今度は水野はふざけずにアイ子として大山と会話する。大山も標準語ではなく、実際に喋っていた九州弁で話をする。
そこに酔っ払った山田がやってきて、二人に絡む。

最初は熊田が山田の役をするが、アイ子を馬鹿にしながら絡むことに、体を売っていた母のことが重なり自分にはとてもできません、と涙。熊田を殴り飛ばした部長が取って代わる。

山田(木村)「アイ子〜!アイ子じゃねえかよおめぇ服着てたから分かんなかったよ〜!」

山田「コイツこの顔で客つかねえからって皆に金渡して客のフリしてくれって頼み込んでんだよ。それでも一人も客がつかねえんだから大した女だよ!」

居た堪れなくなる二人。地獄か。

山田「で?隣のモグラみてえな兄ちゃんは?」
大山「九州の幼馴染です」
山田「九州?麻布のいいとこの生まれだって言ってただろ見栄張りやがってよ。兄ちゃんすごいファッションだね。そのビラビラしたズボンは何?」
大山「パンタロンです」
山田「見りゃ分かんだよ。今時そんなもんどこで買ったの?」
大山「板橋です。150円で買いました」
山田「その馬の蹄みたいなブーツは?」
大山「ロンドンブーツです。これはちょっと高いんです200円しました」

と、大山のファッションを散々こき下ろす山田。
やめてやれ。

山田「そのファッションで東海道線乗って、恥ずかしくなかった?」

大山「…ナウいと思いました」

震える声

山田「なあアイ子、これデートか?」

やめてあげて!!

大山「…デートです」

震える声。

大山「デートです!!僕たちこれから日劇にウェスタンカーニバル観に行って、マイアミでお茶して、原宿で弁当食べるんです。そして……結婚するんです!

木村「…続けろ」←ここ、かっこいい。

流れ出すBGM・マイペースの「東京」。

哀愁漂うメロディー。この歌詞、これから始まる大山とアイ子のやり取りを思うと「そのまんまやんけ」となる。つかこうへい、イメソン考える天才か?

山田が去り、居た堪れない空気の中「…人違いたい」とフォローをする大山。

二人のすれ違いが始まる。

先程の流れで先に宣言してしまっていた大山はアイ子にプロポーズをする。
「おいが結婚しちゃるけん!」と。 

アイ子「…金ちゃんは、本当にうちでよか?」

大山に視線を向けるアイ子。

しかし。

アイ子「…何しとると?」

大山「さあアイちゃん、海ば来たら小石ば拾わんね、石はタダばい、海に投げて「おおーい!」って叫ぶばい!」

小石を拾う大山の姿。


お前…お前!!!!


お前がそこで石を拾わなければ、アイちゃんを抱き締めていたら、違う未来もあったんじゃないのか。と、2回目以降の観劇で思ったターニングポイント。

アイ子「…帰る」
大山「待ちない!送るよ」
アイ子「いい。面倒でしょ」
大山「…面倒?何が面倒やね!」

大山は何度も何度も必死に引き止めては、九州の五島にいたころの思い出話をする。

耕運機に大根積んで夕陽に向かって二人でドライブした、あぜ道のアバンチュール。

村相撲で大関になった大一番。もう負けると思った時に聞こえた、アイ子の声援。

大山「恋に身を焦がしてるもんにしか、あげなうっちゃりできんとよ!」

村相撲の景品、米俵三俵。

大山「おいは米俵三俵担げる男ばい、米俵三俵ばい!」

何度も何度も、村相撲で大関になった一番のことを必死に話す。

他に誇れることがないから。
彼にとっての一番の思い出だから。
彼の時はそこで止まっているから。

…痛ましくて胸が苦しい。

アイ子は、「忘れたばい!」と突っぱねる。

大山「…おいが職工じゃからか?」

アイ子「何かあるたびに、おいが職工じゃから、おいが職工じゃからって…しみったれる金ちゃんじゃから、じゃから面倒なんよ」

ああ、アカン…この流れはいけない…

加速するすれ違い。

息が臭い。金ちゃんの服が恥ずかしかった。東京の人はコーヒーを値切らない。原宿を弁当と水筒下げて歩かない。海が見たいと言ったのに、熱海なんてこんな所は海じゃない。とアイ子。

大山「東京は怖か所ばい。アイちゃんもようく分かったじゃろ。東京はアイちゃんの髪の色も爪の色も変えてしまったとよ。でも今ならまだ引き返せる。五島に帰っておいと結婚しよう」

アイ子「金ちゃんはうちが東京で何しとったか、知っとったと?」

大山「…知っちょったよ」

大山はアイ子が体を売っていることを知った上で、彼女の勤務上がりを偶然を装って待ち伏せしていた。彼は「この5年、アイちゃんを忘れたことは一日たりともなかとです」と独白で語っている。

東京で騙され、初めて体を売った時のことがフラッシュバックして泣き叫ぶアイ子を、東京でアイちゃんが受けた心の傷を癒そう、一緒に五島に帰ろうと抱きしめる大山。

…このくだり、お互いに東京での生活に傷ついていることがひしひしと伝わってきて胸が痛かった。特に多和田佐々木ペアは悲愴感がすさまじい。

しかし。

アイ子「今更帰れるわけなかとよ!うちは東京の女ばい!百姓とは結婚できん!


あっ…

大山の目の色がスッと変わる。

あかん、今のは言ったらあかんやつだった。

アイ子「金ちゃん百姓ばい!百姓!」

切なく美しいストリングスのBGMが流れる。

(ここの曲、本当に良いのでなんの曲かご存知の有識者の方は教えていただきたい…)

手を伸ばす大山とアイ子。

すれ違う二人。手と手が重なることはついに無い。

幸せそうに熱海の海を見るアイ子。金ちゃんと一緒に海を見れて嬉しいと。

それは大山の見た夢だったのか、アイ子の見た幻だったのか。

大山「おいの息はそぎゃん臭いね。コーヒー高かもん高いっちゅうて何が悪いね。原宿弁当持って散歩しち何が悪いね。熱海の何が不服ね。おいは熱海が精一杯ばい!

この「おいは熱海が精一杯ばい」という台詞、あまりにもしんどすぎて思い出しては泣く、という現象を初見から一週間引きずった。
どうしてこんな悲しい台詞が書けるんだ…?どういう頭してるんだ…?となった。情緒乱されまくりよ。

大山「アイちゃん、本当に忘れてしもうたんやね。あの大関になった大一番。本当に忘れてしもうたんやね。
あのうっちゃり。おいは覚えちょるよ。一つ一つ目に焼き付いちょるよ。あの日の、あの空の色も、陽の光も、風の音も、みんな覚えちょるよ。アイちゃんのかわいいお下げも、りんごのほっぺも、頑張ってえちゅうて手を振ってくれたアイちゃんの声も、みんな覚えちょるよ。
なして忘れたとね。あのうっちゃりは、あれはおいのすべてばい!

情景が浮かんでくるような切なく美しい台詞。
(あまりにもしんどい台詞だったのでつい全文引用してしまった)
真っ直ぐな悲しみと愛情が伝わりすぎるくらい伝わってきて観ている方の情緒がメチャクチャになる。
情景が浮かびすぎて「かわいいお下げ」「りんごのほっぺ」「あぜ道のアバンチュール」といったワードは思い出すと泣く単語になった。

多和田氏の大山は「アイ子を愛している」という大前提が強くあって、それが一番伝わってくるくだりだと思った。

アイ子の首を絞める大山。音楽の盛り上がりもピークに。

大山「油にまみれち自動車修理ばしよったっちゃね、刑事さん。車なんて欲しいと思ったこつはなかとです。
(中略)アイちゃんとおると、そぎゃん見栄ば張らんでよかような気のしたとです。アイちゃんだけそこんとこ、分かってくれてると思うちょったとです。たかがバスが見えんごつなるまで、涙ためてつっ立っとるおいが、そぎゃん面倒なもんですかね、刑事さん。…刑事さん。刑事さん!」

縋る大山を、「汚い手で触るんじゃねえ!」と蹴りつけ、菊の花束で打ち据える木村伝兵衛。

哀愁漂う「パピヨンのテーマ」が大音量で流れる。

バシンバシンバシン!と凄い勢いで大山の背中に叩きつけ舞台中に散る花びらと客席まで届く花の匂い。

花束は一本に留まらず二本目に突入。

ついには舞台から転がり落ちる大山。

舞台中央で大股を開き煙草をふかす木村伝兵衛。

自分の袖を椅子で拭き、木村の足元に跪き必死に靴を袖で磨く大山。


…!?!?!?


あまりの絵面に初見だとただただ圧倒された。
ただ、これがこの舞台の見せ場、醍醐味であることは伝わる。舞台芸術の美しさに、その"圧"にひれ伏す他ない。

私は三回目の観劇時、大山の独白(なんならその前の熊田の台詞)からジワっと涙が湧いてきてポロリとしてはいた。それでも目の前で起きていることを全て拾わなければ、目に焼き付けなければ、と目をカッ開いていた。

それが、

花束で打ち据えられ、台詞をかき消す音量のBGMの中(声は出してるけどほぼ聞こえない状態)、「どうやって殺したんだ!」「こうやって!殺しました!」と木村に媚びるように首を絞める真似や村相撲の一番の再現をする大山。

その姿に、

やめろ。それ以上自分の傷口を抉るな。

そう思った瞬間、涙腺が決壊した。

まさに肩を震わせ泣いたんだ状態。舞台の美しさに当てられながら、涙が止まらない。なんだろう、舞台に殴られてる感覚。

突如としてその光景は切り上げられ、客席を指差した木村が物凄い勢いでまくし立てる。

木村「あのドアを出ると、新聞記者たちが手ぐすね引いて待ち構えている。(中略)お前の目に一筋の涙。いっせいにフラッシュが焚かれる。顔を伏せる。そこでカーステレオからこの曲!」

チャイコフスキー、ピアノコンチェルト1番。

木村「不服かね、チャイコフスキーじゃああ!!」

爆音で鳴るチャイコフスキー。

観客の目を潰す勢いの照明。
(後方席だとリアルに「目が!目がああああ!」となった)

指揮をする木村、狂喜する大山。

これまた舞台の圧で殴られる。

しかしその場を断ち切る熊田。

熊田「もう犯人も自白しているんです、これ以上捜査官が差し出がましく指図する権利はないと思います。いくら犯人だからって、人権はあるんです

木村「ないね。俺にあるんだ。下衆に人権があるか。
きさまたちは俺を立てる権利しかねえのよ。俺より目立つな。俺を立てろ。立てられる限りは、俺も無茶しねえよ

木村は大山に助言する。
裁判で何か最後に言い残すことがあれば言ってみなさい、と言われたら、一呼吸おいて軽く、「海が見たい。」ぶちかましてやれ、と。

更に餞別として、幻のスニーカーと言われたアディダスの四本線をプレゼントする。(大山が履いていたのは三本線)

木村「とってみろ。」(綾とりの構え)
不安げな大山。「嫌いだもん…」
←ここ、これまでも幼い印象だった大山が特に幼く見えた。

木村は、大山が刑務所の中で人間性を保っていけるように、と綾とりを教える。
(要はやばい連中の中で過ごすためのコミュニケーションの手段なのかなと思った。違ってたらごめんなさい)

失敗しながら、なんとかできる大山。

木村「できるじゃねえか。やろうと思えば何だってできるんだよ。踏ん張ろうと思えば、踏ん張ろうと思えば殺さんでもよかったんだよ。きさまが殺した女の家族は今どんな気持ちでいると思ってるんだ。

大山は土下座して頭を下げる。

大山「お願いがあります。アイちゃんの家には嫁入り前の妹が3人います。アイちゃんが東京で何をしてたか知れたら、アイちゃんの家族は五島にいられなくなります。ですから…」
木村「だから、弁護士も裁判もいらない、死刑台に送ってくれって言ったのか
大山「…はい」

大山がアイ子の身辺を捜査されたくなかったのは、アイ子の家族のためだった。
…何より、アイ子の名誉を守るためだったのだろう。
木村は検事や裁判長に手を回し、大山の望みを叶えることを約束する。

木村は言動こそ貧乏人を馬鹿にしているように聞こえるが、彼の根底にあるのは人間愛だな、と思った。
菊の花束を打ち据えたのは、(みそぎ)であり(はなむけ)だったのではないかと思う。
大山が罪と向き合い「立派な犯人」たり得る男になったから、この儀式ができたのではないか。
花束が二つあったのは、亡くなったアイ子の分とこれから死刑台へ向かう大山の分なのではないかと。

木村「…さあ肝心なところだから、湿っぽくなっちゃいかん。元気出してやってみる。何か最後に言い残すことがあったら、言ってみなさい。」

大山「…海が見たい。

これまでの中で一番純粋な響きの声。

大山金太郎の目に映った海は、熱海ではなく五島の海だったんだろうな。

そう思わせる晴れやかさと切なさだった。

大山を万歳で送り出す木村、水野、熊田。

大山「水野さん、お幸せに。熊田、俺は(ユキエを捨てないと)信じてるからな。…大山金太郎、行きます!」

大山が去った後。

木村「…出ませんか?私の名前は!」←笑いどころ。

水野もまた、式を挙げに静岡へと行く。
名残惜しげに水野を見送る木村。

水野「水野朋子、煙草買ってきます!」

………ゑ?

木村「あれやらないとね、煙草買いに行ってくれないんですよ」

……………?????

ここ、どういうこと??これまでの全部茶番だったの??となったんですが、リンクに貼った台本だとそんなことは書かれておらず。
なので、細かいことは考えずに「水野が結婚するのは事実で、悲しみを和らげる冗談だったのかな?」と思うことにします()

そんなわけで去る水野。

木村「まだ少し残ってました。吸いますか?」

煙草を勧められるが、断る熊田。

木村「私ね、部下に煙草を勧めるのは初めてなんですよ」

熊田は尚も断り自分の煙草をふかす。
それならそれで…と木村は火を移してもらうのを待つも、気付かれずスルーされて熊田の独白が始まる。

自分には東京の捜査は難しすぎる、富山に帰ってユキエと一からやり直します。あいつといると楽なんです、と。

…これまで、熊田は立浪警視総監の娘さんと結婚し、出世のために玉の輿に乗る、そのために長く付き合い散々貢がせた女を捨てる、という話だったんですが、

木村「立浪警視総監に娘はいません。いるのは中学生のボンクラ息子だけです」
熊田「…あなたという人は!」

……………ゑ?????

そんなことある?????

え、これまでデートする、プロポーズするって話も上がってたけど。一度も会ったことも話したことすらもないなんてこと有り得る??

…この話、誰がどこまで嘘吐いてるんだ。

最後の最後に爆弾を落とされたところで。

木村「火を点けてくれたまえ」
熊田「いえ、自分のは100円ライターです。部長の口には合わないかと」
木村「熊田君。もう少し人間というものを買い被ってみてはどうかね。火を点けてくれたまえ」

もう少し人間というものを買い被ってみては、とは冒頭で熊田が言った台詞。
恐縮しながら火を灯す熊田。

木村「タールが濃い!」
熊田「ですから自分のは100円ライターだと…!」
木村「心だよ!君の優しい心がガスを変えるんだ。」

再び火を灯す熊田。

木村「うん、いい火加減だ!

音楽。レット・イット・ビー・ミー。


幕。


…8…

8888888888…!!

お…

終わった〜〜〜〜〜!!!!

なんだ!?なんか分からんけどすごくいい感じの終わり方だぞ!?何が起きた!?

何を見せられたんだ!?

物凄いものを見たぞ!?!?

…というのが初見の感想でした。

いやほんとに何が起きたのかよく分かんなかったけど感動した。これまでに見たことのない「何か」だった。

これが…熱海…!?

つかこうへいの頭の中、どうなってんだ??

という感想でした。

ごめんなさい、もう少し続きます。


各出演者様について


大変烏滸がましくも各出演者様(私が観た回の方たち)について思ったことを述べさせていただきます。

木村伝兵衛役・荒井敦史さん
今回、Wキャストの池田純矢さんの降板に伴いシングルキャストとなった荒井さん。(池田さんは体調不良だそうです。ご無事とご回復をお祈り申し上げます)
声量も滑舌も台詞量も人一倍すごかった。
これをシングルでやるって正気の沙汰じゃない。(やむにやまれぬ事情によるものだけれど)
全公演駆け抜けた荒井さん、本当に素晴らしいと思います。どんな声帯と体力してんだ。
荒井さんの舞台を拝見するのは初めてだったのですが、存在感。聞きやすい台詞。抜群の安定感。エネルギー。
テンポ感とコメディセンス。
(「一人で見るのが怖いから、一緒に見ようって泣いたんだ。ちょいなちょいな」「もう辛抱堪らんと水野君をベッドに押し倒し、チュッチュチュッチュとキスの嵐」「汗で輝く私のおでこにペッタンコ」このへんの擬音の使い方が上手く、テンポ感抜群。落語に近い?)
締める所は締めるカッコよさ。(パピヨンの場面は画になりすぎた)
役者として素晴らしい方だと思いました。また舞台があればぜひ拝見したいです。

水野朋子役・新内眞衣さん
新内さんはスタンダード公演のキャストなのですが、なんと一回しか観れておりません…(むしろスタンダードの新内さんを一度観てみたいと思い追加した8/12昼回)
いやまずめっっっさ美人。小顔。
後述する佐々木さんと比較して、サバけてる大人の女性と感じさせる水野でした。アイ子は水野と演じ分けている上で「東京の女としての強がり」でもそれはあくまで強がりで、心の中では傷ついていると感じられた。
あと日替わりの爆弾魔のくだりで
爆「鳥羽周作が出したレストラン、なんて名前だと思う!」と振られ
水「…砂糖?」爆「SIOだよ!!
という高度な返しをしており、頭の回転が速い方だな〜と思った。

水野朋子役・佐々木ありささん
佐々木さんの水野に慣れている所で新内さんの水野を挟み、また佐々木さんを拝見した感想。
佐々木さんの水野は、どこかおぼこい感じが残っており、年上の上司にガチ恋して燃え上がっている若い娘さんという印象を受けた。若々しさと瑞々しいエネルギーに溢れてる感じ。それでいて健気さも感じさせる。
それゆえに、終盤のアイ子がこれでもかというほどハマった。純朴さと悲愴感が多和田氏の大山と組み合わさった時にとんでもない相乗効果を生み出し、とてつもなく痛ましかった
戻りたいけど戻れない、そんな悲哀。誰よりも東京での生活に傷ついてそうな二人だった。
爆弾犯のくだり、佐々木さんの天然ぶりも面白かった。

熊田留吉役・高橋龍輝さん
高橋さんは、実はテニミュに出演していた時に拝見したことがあり。当時から芝居巧者だな〜なんては思っていたのですが。(特に全国立海で五感を奪われイップスに陥る所とか。観たことない方はぜひDVDで観ていただきたい)
高橋龍輝さんって、あのリョーマやってた人?同姓同名じゃなくって??
………いやいやまさか〜〜〜。
と思わせる変貌っぷりでした。坊主頭のムキムキマッチョ。越前リョーマisどこ…??
と思ったけど10年以上経ってるんだもんな。人って変わるんだな…時の流れ…怖…
と、あまりの変貌っぷりに驚いたのですが、パワフルな方向にメガシンカしていました。
見た目に違わぬ声量とエネルギー。とにかく熱く、それでいて人間臭い男、熊田留吉。
実際近くにいたら声デカ…怖…となりそうだけどどこか好感の持てる憎めない人物でした。あとギャグセン高すぎ。

熊田留吉役・三浦海里さん
私の初見熱海は三浦さんだったのですが、一回しか見れていないため記憶が鮮明ではないことご容赦ください。衣装は肘や膝にツギハギ(アップリケ)をしていることで貧乏臭さを醸し出している。
若く青く、正義感に溢れた新米刑事という印象。
年齢設定も確か、高橋さん30歳、三浦さん23歳だったような…??とにかくそのくらい若いことに説得力がある。
目黒蓮ネタを事あるごとに「レンです。」「レンです。」と擦りまくるの面白かったな。
大山との関係性も、歳が近いからこそより対等に見えた。もう何度か観たかったな!!

大山金太郎役・多和田任益さん
白状しますと多和田さんの舞台が観てみたくて熱海へと足を運んだのですが(多分とっくにバレバレ)、これまで映像作品や2.5、ダンス公演を観たことはあってもストレートの舞台を拝見するのは初めてでして。
………ストレートの舞台、もっともっとやってほしい。そう思う仕上がりでした。そしてあわよくば映像に残してくれ。
そもそも関心を持ったのも某日曜朝放送の映像作品(何年も前)を時を超えて今年に入ってから視聴した際の、「芸達者な人だな」と思ったパフォーマンスの質の高さからでした。ビジュアルもだけど。(正直)
今回で熱海全役制覇(モンテの木村、シャッフル公演の水野含む)とのことで、他の役を観ていないのに言える立場ではないのですが
大山金太郎、あまりにもハマりすぎでは…??
と思いました。他の役の時よりメンタルの消耗が激しかったと仰っていたけど、そらそーーーだ。稽古場から本番まで毎回毎回あんなにぐっちゃぐちゃに泣いてたら。
あれだけ泣いても翌日顔がむくまず目も腫れないのはイケメンの特異体質なんでしょうか?特殊技能?どういうこと??
これから述べますが、大山金太郎に情緒乱されすぎてぐっちゃぐちゃです。どうしてくれるんだ。

残念ながらスケジュールが合わなかったのですが、フレッシャーズ公演の小日向ゆかさん、北野秀気さんも拝見したかったです…!!


大山金太郎について


大山金太郎くん。
昭和30年3月31日生まれの19歳。
九州の五島出身。
給食費すら払えないほどの貧しい生まれ。
村相撲で優勝すれば米俵三俵貰える、給食費が払えなくても三年は食っていけると笑っていた。
食うしか能なかと父親に追い出されたのが5年前、14歳かそこらの時。辛うじて中卒か。(当時の時代背景をよく知らないが、中学に行けてたのかすら危うい)

彼の心の成長は14歳で止まっており、五島に置き去りのまま。
14歳のまま体ばかりが大きくなった、大人になれない19歳の少年。

幼さと純粋さ、どこか捨てきれない善性を感じさせる。熊田にユキエのことを幸せにしてやってほしいと願っていたのは、自分とアイ子を重ねてのことだろう。

故郷を愛しながらも、田舎者であること、貧しさへのコンプレックスを人一倍抱えている。

そしてアイ子への感情は、演じ手によっては身勝手なものや偏執的なものにも感じられそうだが、
多和田氏の大山に関しては、紛れもなく「初恋」「純粋な愛情」に感じられた。真っ直ぐすぎるがゆえに、それでいて見栄も張ってしまうから痛ましい。

アイ子もまた、故郷での思い出を「忘れた」と言っていたが文字通り忘れたわけではなく、「今更戻れない」が本音だったのではないかと思う。
金ちゃんと一度でいいから腕を組んで歩いてみたかったと語る、それが本音だろう。でもそうできなかった。
東京に染まってしまって引き返せない自分。金太郎があまりにも田舎者の「百姓」丸出しで一緒にいて恥ずかしいと思ってしまう。それが現実だった。

金太郎はその現実を突き付けられ、もう幸せだったあの頃には戻れない、自分の一番大切な思い出を一番大切な人に否定された、その絶望によって愛する人を手にかける一歩を踏み出してしまったのではないか。

これがこの熱海を通して私が感じた大山金太郎像です。(※あくまで私の主観です)

物語を通して暴かれた熱海殺人事件の動機。
フラれた腹いせに殺した、ついカッとなってやった、と取られかねない動機だと思う。そう捉える人もいるだろう。
けれど熊田が言っていたようにそうじゃないんだよな…と私はこの熱海に対して思いました。
ただただ真っ直ぐで深い悲しみと絶望がそこにはあった。

「おいは熱海が精一杯ばい」
「本当に忘れてしまったとね」
「あのうっちゃりはおいの全てばい」

長い独白の中の、このあたりのフレーズがしんどすぎる。
幼く純粋で痛ましい、そんな大山金太郎でした。
大山金太郎に心乱されすぎて情緒ぐちゃぐちゃだよ。どうしてくれんだ。

大山金太郎くんをマイフェアレディしたい気持ちが湧いている……綺麗なおべべ着せて宝の持ち腐れになってる素材の良さを引き出して教養を身につけさせて美味しいものたんと食わせてやりてえよ……でもそれはもはや大山金太郎と呼べるのか…?と言われるとエゴの押し付けでしかなく……すみませんキモオタの妄言です忘れてください。
髪色プリンなのはナウいと思って派手な色に染めたはいいけど染め直すお金がなくてああなってるのかな。かわいいね。

今になって昭和30年生まれの推しができようとはね……誕生日お祝いしようね……命日が分かれば偲びたいね……いつだったんだろうね……

13階段を登った先に、彼の目の前には五島の海が広がったんだろうか。

殺さずに済んだのかもしれない。アイ子と一緒になる未来もあったのかもしれない。
それでも叶わなかった。
彼があの時、一歩を踏み出してしまったのは変えられない事実なのだから。

何が悪かったのか。貧しさのせいなのか。すれ違いのせいなのか。

………ああ〜〜〜〜〜!!!!!

たらればを話し出したらキリがないけれど、この戯曲のテーマの一つが「貧しさ」であることは違いないかなと思います。
最後に人情を見せた木村は富裕層であり、大山たちの苦しみを根底では分かっていないのではないかと思う。

ただただ、暴き出された大山金太郎の情念に心乱され、舞台の圧力にぶん殴られひれ伏した、そんな作品でした。

熱海殺人事件、おもしれ〜〜〜〜〜!!!!!!(結論)

全体的に見れば喜劇なのかもしれないが、後半との温度差が凄まじい。どうカテゴライズすればいいのか分からない作品。強いて言えば「これがつか作品だよ!」と精通した方々は言うのかもしれない。
再演があったら絶対行く。他の方が演じたものも観てみたいし、他のつか作品にもぜひ触れたい。

端くれも端くれの身ですが役者としても、熱海殺人事件に触れることができて良かったと思います。大変刺激を受けました。
長く愛されている戯曲には、それだけの理由があるのだな。

本当はもっと水野のこととか熊田のこととか掘り下げるべきことがたくさんあるんだろうけど(木村にはほんのちょっと触れたつもり)今回は私のキャパでは大山金太郎くんのことで精一杯でした。ご容赦ください。
色んなバージョンを観たり読み込んでいくことでその辺りを考察する余地も生まれそう。

前編より長くなった限界オタク語りでしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

また記事を書く機会があれば、気が向いたら目にしていただければ幸いです。


それでは!!




8/29追記
すみません、蛇足でしかない追記レポ書きました。
ご興味のある方はお付き合いいただければ幸いです。


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