酒に飲まれる
好きな人に振られたのならば、酒を飲むしかないのではないのだろうか。
それも三パーセントなんて可愛いものでないほうがいい。
人工甘味料で味付けされて、私は工場から産まれましたと言わんばかりのストロング系の酒を飲むしかない。
そうに違いないと、私は無機質な酒に口づけ思うのであった。
「酒は優しいよね拒絶しないし」
シークァーサー味の冷たい癖にどこか熱いその塊を喉の奥に流し込む。
これで二本目だ。飲み始めてから30分も経っていない。
つまみも何も食べず、ただひたすら酒を飲む。そこは居酒屋等ではない。
路上。それも真昼間の街中だ。
意外にも周りの通行人はジュースを飲んでいるのだと思っているようで奇異の目では見られていない。風景に溶け込んでいる。
「美奈ちゃんの事を恋人とかそういう風には見れない、友達でいよう」。
つい先ほどの光景がまざまざと目に浮かぶ。
最初は優しくユニークな山本光に人として好意を寄せ友人となった。
そして次第に恋に落ちていった。
だがしかし相手は恋に落ちなかった。
ただそれだけの話だ。
「友達、か」。
重石を胸に乗せられたような鈍い痛みを感じる。
ぽろぽろと瞳からは涙が滴り落ちていた。
友達でいられることは嬉しく思う。だが恋愛対象ではない。
恋愛対象ではない、恋愛対象ではない、恋愛対象ではない。
「飲むしかない」
新たな缶を掴む。それは梅の味がするサワーだった。
酩酊の中眠たい眼で街を見ると、あまりにも人はせかせかと忙しそうに歩いている。
皆何処か行く当てがあり、することがあるのだろう。
社会のしがらみやアルバイト、学校、家。そして山本光。全てから逃げ出したいと切実に思った。
ぐいぐいと梅味のサワーを飲み干す。
「誰もいない何処か遠くに行きたいなあ」。
切実な願い。しかし叶う訳もないしこの世は人で溢れている。
人、人、人、人。
ふらふらとした足取りで歩を進める。
「足取りが軽い、ふふふ魔法みたい!」。
くるくると回転し一歩飛ばしで飛んで着地。
まるでバレリーナになった気分で私は踊った。
私は失恋するたびにまた踊るのだろうか。
かろやかに蝶のように。
創作ダンスの評価は悪かったなぁ。
ダンサーになるのもいいな、と思った。
富士山になるのもいいな、と思った。
私は今から何にだってなれる。
そう強く思った。
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