人は動けば人に出逢う、五感と心に触れた京都。
ある程度決まったリズムで刻まれているように感じる毎日。時間をかけて築かれた日常と呼ばれるそれはきっと愛しいものであるはずなのに、何故だか真っ直ぐに愛せない。そこに在る日々に感謝するどころか、足りない足りないこれではないと大きく嘆いては空を仰ぐ。これが倦怠期なのだろうか。
原因はおおよそ分かっていたのです。お仕事で受けたダメージを払拭できないまま、自分の心の中に棲むギャルの叫び(やりたいことをやろう)を蔑ろにしてしまっている日々。
自分が最も信じている直感のままに動けばいいものを、立ち止まっては直感を脳で咀嚼してしまう。するとその直感はどんどんうやむやになっていき、持っていた輪郭はぼやけていく。
何かを変えたい、変わりたい。何らかの刺激は欲しいけど、それがスパイスではなくダメージとなるならこのままでもいいのかもしれない。この1ヶ月ほど、そんな堂々巡りからの抜け出し方がわからなくなっていました。
少し前から約束をしていた友人とのお出かけ予定も、何も定まらないまま前日を迎えました。友人も忙しくしていて、ただ此処ではない何処かへ行きたいという気持ちだけ一緒だったわたしたちはひとまず集合時間を決め、京都へ向かうことにしました。
そうして始まった完全フリープランの京都旅。結果だけ先に言いますと、おかげさまで、倦怠期を無事に突破いたしました。
さて、前置きが長くなりましたが、 人生はおもろい という感覚を取り戻させてくれた京都での出来事を振り返ってみます。
ノープランでやってきた京都。
着いた頃にはお腹が空き始めていたので、まずは四条河原町でランチを。下調べはもちろんなしでしたが、Google map上で偶然見つけたお店でいただいた穴子天麩羅の美味しさたるや。
最初の一口で感動の美味しさ、二口目も三口目もやはり美味しくて、何回食べても美味しい〜最後まで美味しい〜と声に出してしまうほど、大満足のランチでした。尚、写真を撮ることなく食べ進めたので写真はありません。
もう何度目ましてでしょうか?というくらい訪れている八阪神社へ参拝し、多くの観光客に圧倒されながら大通りを歩き、友人が食べたいと言ったかき氷を食します。湿度でむわーんと蒸されていた身体の熱がすうーっと冷えていくのを感じました。
そこからバスに揺られ辿り着いたのは妙徳山華厳寺、通称:鈴虫寺。鈴虫の音色に包まれる空間。わたしはちょうど1年前にひとりでこちらへ訪れていたので、御守りを返納するちょうど良い機会ともなりました。
鈴虫寺といえば、愉快な説法を聞けることで有名です。1年前にも素敵なお話を聞かせていただきましたが、心に残った言葉たちはその日のうちにメモしたことを覚えています。今回のお話では、とても素敵だなと思う仏教の言葉がありました。
「明珠在掌」(みょうじゅ たなごころにあり)
大切なものは、外の世界ではなく、あなたの手のひらの中に既にあるという意味の言葉だそうです。
この言葉を聞いて、肩に力が入り閉じられた手のひらを思い浮かべました。閉じてしまったそこに確かに在ることを忘れ、必死で周りを見て探す。散々探して見つからなかったと肩を落とすとき、やっと開いた手のひらに、探していたものをずっと持っていたことに気付くのかもしれません。
京都市内で夜ご飯を食べて帰ろうかということになったわたしたちは、通りかかったところで興味をそそられたパスタを食べました。その後まだ何となく帰りたくなかったこともあり、以前から気になっていたカフェまで向かうことにしました。
道中、錦市場を通ることに。もうこの時間ではお店も閉まっているのだろうと歩いていると、なにやら賑わいをみせているスポットが。そして見つけてしまった、はも天の文字。はも、ハモ、鱧!はも天、大好物です。
大好物を素通りなんて勿論できるわけもなく、お昼に穴子天を食べたことも忘れてはも天をオーダー。屋台の賑わいがわたしたちの飲むお水をアルコールに変えてしまったようで、気分はすっかりほろ酔いです。食べ過ぎです。
見渡せば海外から観光に訪れたような人ばかりで、飛び交うのは日本語以外の言語。その空気を楽しみながらはも天を食していると、隣のテーブルに来たご夫婦と見られる2人組みが写真を撮り始めました。その背後に映ったわたしたちに気づいた2人は、入って入って!とジェスチャー。お水でほろ酔いなわたしたちはしっかりちゃっかりピースサイン。
そちらがウェルカムなら遠慮なく、といった具合で英会話に飢えていたわたしはそれをきっかけにおふたりと会話を始めました。フロリダ州から家族旅行で来たというおふたり。
ホテルで休んでいるという息子さんに突如電話をかけてわたしたちと会話をさせるパパ。出逢って2分で自分の生い立ちを次から次へと話してくれるママ。電話を切ったと思えばその後すぐにホテルから駆けつけてきた息子さん。なんだこのユカイファミリー。
5人で記念撮影をして、ご自宅の写真や先に訪れた東京での写真や動画を我先にと次々見せてくれる御三方。閉店の時間になるまで夢中でお話していました。いつかこのアメリカンサイズのお家に遊びにおいでよと言ってくれて連絡先を交換し、手を振り合いました。楽しかったわと伝えてくれるファミリーの笑顔が嬉しかったなあ。久しぶりなこの感じ、愉快なはじめまして。本当にこういうの大好きだ。
この頃にはもう、コーヒーが飲みたいという気持ちではなく帰りたくないという気持ちがわたしたちをカフェへと向かわせていました。こんなにおもろ愉快な夜、まだ終わらせたくありません。
ようやくたどり着けたカフェは抜群の雰囲気で、来てみて良かったと思える空間。アルコールは一滴たりとも摂取していないけれど、先程までのほろ酔い気分が少しおさまってきました。
えー、帰るのかあ。
えー、これから帰るの面倒だなあ。
帰るのやめようかな。
泊まる?泊まって明日帰る?
え、泊まる?泊まる!
泊まろ!ホテル予約しよ!
ということで、オーダーしたコーヒーが運ばれてくるまでの間に勢いのまま帰ることをやめたわたしたちは、祇園祭でたくさんの人が訪れる四条河原町付近で運良く空いているホテルを見つけました。
思いのままに行動する。心が向く方へと動く。自分の心の中に棲みつくギャルとしっかりと握手を交わした瞬間でした。
コンビニで下着だけを購入して先程予約したホテルへチェックイン。本日は当館で一番広いお部屋をご用意しましたのでお楽しみください!と、意気揚々と説明してくださるフロントスタッフの方。なんということでしょう、ラッキーにも程がある。
シャワーを浴びてお部屋でゆったりしたかったのですが、明日着る服がないわたしは今日着た服を洗濯するべくランドリーコーナーへ。何となくお部屋で待つよりその場で待っていようかなと思い、ロビーのソファに座り置かれている観光雑誌などを読みながら時間を過ごしていました。
お水を買いたいけど自動販売機の場所が分からないなぁとぼんやりしていると、エレベーターから降りてきた女性が颯爽と向こうに歩いて行った先で光が点り、ピッという電子音の後にガコンッという鈍い音がしました。ああ、そこにあったのね自動販売機。
早速わたしもお水を買って再びソファで雑誌を読んだりスマートフォンでラジオを聴いたりしていると、またまたエレベーターから人が降りてきました。明らかに何かを探している様子の男性2人組。きっと彼らも自動販売機を探しているのかもしれない。これはわたしの出番ですね、と立ち上がって声をかけました。
あの、もしかして自動販売機探されてますか?
あ、自動販売機は探してないんですけど、、
あ、、、勘違いしました
フロントを探してます!ご存知ですか?
え?フロントは0時以降閉まるって、、
え?
えっと、チェックインって、
してないです、、、
ということでわたしのお節介は空振りだったのですが、そんなことよりもチェックイン出来ていない彼らがどうなるのかどうすればいいのか居合わたからには解決策を考えようと試みました。わたしたちと同じように帰れる距離なのに帰ることをやめて急遽このホテルを予約したということで、他人とは思えないところもありけり。
解決策を探すはずがあっという間にそれは雑談へと変貌を遂げていたのですが、結局彼らは交渉虚しくそこに泊まることは出来ず退場となっていました。どうか寝床にありつけていますようにと願いつつ、洗濯を終えたわたしはお部屋に戻りました。
勢いで宿泊したものの、翌日だって勿論ノープラン。
本当に何となくでしたが、最初の目的地は下鴨神社に決めました。わたしは何度も参拝したことがありますが、何度訪れてもみどり豊かで素敵な場所。樹々の背が高くて見上げながら歩くのが楽しい。蝉の鳴き声は季節を感じさせます。
下鴨神社から河合神社の方へ向かって糺の森を歩いていると、空にハートを見つけました。
ここ1ヶ月ほど、水に触れたくて仕方なかったわたし。理由は分かりませんが、温泉ではなくて流れや波のある水に身体を委ねたい気分でした。
そのまま鴨川デルタへ向かい、川に足を浸ければすっかりご満悦。足元に感覚を集中させ、水の音に耳を傾け涼を感じました。夏だ。楽しい。
少し歩けば名水を使ったコーヒーが飲めるカフェがあるということで、早速そちらへ向かいました。梨木神社という境内にあるそのカフェは素敵な場所で、ひと口アイスコーヒーを飲めばお水の綺麗さが分かりました。たぶん、分かりました。
そして何より、梨木神社の鳥居から本殿までの見通しの良さにわたしは感動しました。鳥居の手前で一礼して顔を上げた瞬間、虜になってしまったのです。こちらも素敵な出逢いでした。
梨木神社は京都御苑のすぐ近くだったので、その広さに感動しながら敷地内を少し歩き、バス停を目指しました。次第に雨が強まってきた頃、足腰健康という文字が掲げられた神社がありました。これは膝をわるくしている家族のために参拝したい。ということで鳥居をくぐりました。
参拝を済ませた頃には雨がさらに強まってきたので、境内に設けられた休憩所で雨宿りをすることにしました。そこにはひと組のおばあちゃんとお孫さん。
勘の良い方はもうお分かりかもしれませんが、雨が弱まるまでおばあちゃんとの会話を楽しみました。京都で生まれ育ったおばあちゃんは京都のことを色々教えてくれて、最終的には人生観についてお話してくれました。
「今をね、今を楽しむのよ。今が一番大事。」
こんなにチャーミングな時間が過ごせるのなら、雨だってわるくない。そう思えた楽しい雨宿りでした。
心の中のギャルを存分に解放したノープラン京都旅。日帰りの予定だったはずのそれは、人との出逢いのおかげですっかり楽しくなってしまい、1泊2日どっぷり京都旅になりました。
犬も歩けば棒に当たるなら、人は動けば人に出逢う。人に出逢えばおもろいことが起こる。おもろい毎日を望むなら、動けよさらば与えられん。
緑を眺め、夏を聴き、水に触れ、芳しいコーヒーの香りと美味しいご飯。五感で触れた京都、心に触れた一期一会。素晴しくリフレッシュできた2日間となりました。
お邪魔しましたの気持ちと、おもろい出逢いに感謝を込めて。