「ソメイヨシノ」ひとりごと

 ソメイヨシノが怖いのは、多分、綺麗であることに違和感を覚えない景色、空気感への忌避。

 花の大群が空を隠し、大地を丸呑みする。
 
 近づけば、唸る幹に人は巻き込まれてしまうのではないか。巻き込まれた人が、潰された下半身の苦痛から逃れようと腕を伸ばし、助けを乞う。

 吉野の桜が色づいて道を浮かべるのには表情があった。ぼんやりとした表情があった。
 ソメイヨシノ。どうか人のために咲いてくれるな。

 ソメイヨシノ。ソメイヨシノ。
 きみがうっかり秋に咲いてくれたら、私はきみを好きになれたのに。


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