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サスペンスの神様アルフレッド・ヒッチコック 「間違えられた男」

1956年製作のアメリカ映画。
冒頭、いきなりヒッチコック監督が登場し、この作品は今まで作ってきた映画とは違う、と語る。それはこの映画が実際に起きた事件をもとに作られているからだ。
1953年のニューヨーク。主人公はミュージシャン。クラブでベースを弾いている。とても真面目で優しい人柄。妻と息子二人の家庭は貧しいけれど、愛情に溢れている。その幸福が一瞬にして壊れてしまう。
強盗犯に顔が似ていたばかりに逮捕され、拘留され、裁判にかけられる。目撃者である保険会社の社員二人が、「あの男です。間違いありません。」と証言する。筆跡が似ていたことも不運だった。
アリバイ証言を頼もうにも、事件の日、休暇先で一緒にカードをした三人のうち、二人は死亡しており、一人は名前すら分からない。
結局、真犯人が再び強盗を働き、逮捕されたことで、主人公の無実が証明される。だが、精神を病んだ妻は療養所に入院することになってしまう。自分の歯の治療費300ドルを捻出するため、夫が保険会社へ出かけたことが冤罪の発端であり、彼女は罪悪感を抱いていたのだ。

ヘンリー・フォンダ


留置所から拘置所へ、小法廷から大陪審へ。ヒッチコックのいつものしゃれっ気やユーモアは封印され、ドキュメンタリータッチで、シリアスに描かれる。そこには「泥棒成金」の華やかさ、「北北西に進路を取れ」のアクションに次ぐアクション、「見知らぬ乗客」の手に汗握る緊迫感、「サイコ」や「鳥」のショッカーはない。
だが、妻にヘアブラシで額を殴られた主人公の顔が、鏡のように真っ二つに割れるイメージ、主人公と真犯人の男の顔が完全に重なるショットなど、あっと驚かされる。また、バーナード・ハーマンの音楽は不安を掻き立てるに十分だ。
主演のヘンリー・フォンダはハリウッドの大スターといった雰囲気は微塵もなく、地味な庶民に成りきっており、見事な演技。 恐怖と罪の意識に圧し潰されていく妻を演じたヴェラ・マイルズの演技も素晴らしい。
或る日突然、無実の罪に問われ、人生をズタズタに破壊される恐怖に震え上がった。さすが、ヒッチコック!

アルフレッド・ヒッチコック監督


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