老姉妹の或る夏の出来事を描いた「八月の鯨」 淡い水彩画のような・・・・・でも、深い

1987年公開のアメリカ映画。「If もしも・・・」のリンゼイ・アンダーソン監督。原作者のデイヴィツド・ベリーが自作の舞台劇を脚色している。サイレント映画の大スター、リリアン・ギッシュと、ベティ・デイヴィスが奇跡の共演。

メイン州の小さな島。海を見晴らすコテージに住む、セーラ(ギッシュ)とリヴィー(デイヴィス)の老姉妹。この二人は性格がまるで正反対。   セーラは人に優しく、ささやかな生活を楽しんでいる。花たちの世話をしたり、頼まれたら小物を作ってバザーに寄付したり。掃除も料理も一人でやっている。
リヴィーは何もしない。白内障で目が不自由とはいえ、自分の髪と服装にしか興味がない。セーラがやっていることに、いちいち文句を言ったり、皮肉を言ったりする。頑固で自己中心的で、人に厳しい。

亡命ロシア貴族のマラノフ氏(ヴィンセント・プライス)をディナーに招いた夕べ。いそいそとドレスに着替え、彼の釣ってきた魚で精一杯のおごちそうを準備したセーラに水を差し、マラノフ氏に痛烈な言葉を浴びせるリヴィー。  「この家にこのまま居着くんじゃないでしょうね」  紳士である彼は怒りはしなかったが、もう二度と訪問はしない。 翌朝、彼と一緒にクジラを見ようと約束していたセーラは落ち込んでしまう。

素敵な友人を失ってしまった。彼を傷つけたリヴィーをひどいと思う。確かに・・・新婚の夫を戦争(第一次大戦)で失い、リヴィーの屋敷で世話になった。でも、私も長い年月、彼女の世話をしてきたわ。彼女には私と違って娘もいるのに・・・。

ピクチャー・ウインドウ(大きな一枚ガラスの見晴らし窓)を造ろうとした時もそうだった。大工のヨシュア(ハリー・ケリー・ジュニア)に頼もうとしていたら、リヴィーの一言でボツにされた。「いつ死ぬかわからないのに、そんな物作ってどうするの」  何てイジワルなリヴィー。私の家なのに。あのワガママにはもう付き合いきれない。

・・・・・そんなセーラの態度に、リヴィーも反省する。最後の日まで、このまま二人で暮らしたいのだ。彼女はピクチャー・ウインドウを注文し、セーラを喜ばせる。

気位の高いリヴィーは年老いていくことや、目が不自由になった自分が情けないのだろう。だからつい、セーラに当たってしまう。でも、本当はセーラを愛しているのだ。ベット・デイヴィスが見事な演技。

一方、高齢なのに(撮影当時、93,4歳)、何て可愛いリリアン・ギッシュ。まーるい目も、表情もしぐさも、すべてが愛らしい。こんなおばあちゃんになれたらいいな。 セーラはお花に水をあげるとき声をかける。   「さあ、冷たい、おいしい水をあげますよー」と。 私も花たちに声をかけるので、そっくりな点が見つかって嬉しかった。

この映画が教えてくれたことがある。 人生は思い通りにはいかないけれど、何とか頑張って乗り越えていきましょう、ということ。

マラノフ氏と沖のクジラを眺めることが叶わなくなり、いつもは前向きなセーラが消極的になってしまう。  「もうクジラは行ってしまったのよ。もう来ないわ」と言う。 それに対して、いつもは何事にも否定的なリヴィーが、「岬の崖の上まで行ってみましょう」と誘う。

ラストシーン・・・。   崖の上で、腕をしっかりと回して支え合い、クジラを待つ、麦わら帽子の二人の後ろ姿・・・。
余韻があって、とっても良かった。  実に淡々とした映画だけれど、いつまでも心に残る。


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