NIHSSの評価法

NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)は脳卒中患者の症状の重症度の評価スケールで、実臨床で広く使用されています。
脳卒中診療に関わる医師, 看護師だけでなく、リハビリに関わる療法士も評価で利用するため、評価法をよく学んでおく必要があると思います。
意外と落とし穴も多く、正しく評価できていない研修医の先生も多く見かけます。今回は正しく評価ができることを目標にnoteを作成してみました。できるだけ正確な内容にするため、NIH・NINDSの公式サイトの記載内容を参考にしています。


NIHSS評価のタイミング

実臨床では、圧倒的に救急外来で初療時に評価するNIHSSが重要です。
救急外来での評価のタイミング例として①来院から画像検査までの間、②画像検査から治療開始までの間、③治療後(治療効果評価)が挙げられます。

特に"来院から画像検査までの間"の評価はrt-PA静注療法や機械的血栓回収療法などの適応判断に影響するため、できる限り迅速かつ正確に評価が行えなくてはなりません。例えば救急車から救急外来までの移動時間や画像検査への移動時間なども利用してNIHSSを評価することが望ましく、その内容についてもある程度は暗記しておく必要があります。

また脳卒中診療はチームを形成して行うことが望ましく、特に初療時の評価は診療方針を決定する脳卒中医など、医師が行うことが基本になります。
一方でその間も他のメンバーは各自の役割をこなします。私が以前勤務していた症例数の非常に多い三次救急病院の診療体制例を示します。

  • 発症24時間以内の脳卒中疑い症例の受け入れが決まると、事前に神経系当直に連絡があります。

  • 搬送前に救急科医師が頭部画像検査や血液検査をオーダーします。

  • 患者が搬送されると神経系当直の医師がNIHSSを評価します。

  • 救急科医師は必要に応じて気管挿管などABC安定化を行います。

  • 救急科研修医ルート確保や患者移送を行います。

  • 看護師は記録などの外回り業務やルート確保、患者移送を行います。

  • 各自が上記の役割を果たし画像検査を終えたら、神経系当直の医師が今後の診療方針を決定します。

NIHSSの概観

NIHSS

NIHSSはある程度暗記しておくことが望ましいと思いますが、実際のところ紙を見ながら評価してもそこまで時間差はつかない気がします。
暗記する場合は、何となく塊に分けるイメージを持っておくと覚えやすいと思います。私は"意識→眼→運動→感覚→言語"というイメージを持ちながら暗記しました。

次項から各項目の評価の際の注意点を述べていこうと思います。

1.意識

1a.意識水準

0:完全覚醒
1:簡単な刺激で覚醒(e.g.声かけ)
2:繰り返し刺激や強い刺激で覚醒(e.g.痛み刺激)
3:完全に無反応

・挿管, 言語的障壁, 口腔外傷などで評価が困難な場合も、被検者の反応からどれか1つを選択します。
・痛み刺激を与えた際に、反射的な姿勢以外に全く運動を呈さない場合のみ3点とします。

1b.意識障害(質問:今月の月名と年齢)

0:両方正解
1:片方正解
2:両方不正解

・最初の答えのみを評価します。
・近似した答えでも不正解とします。
・昏迷や失語症例で答えられない場合は2点とします。
・挿管, 口腔外傷, 重度の構音障害等で答えられない場合は1点とします。

1c.意識障害(従命:開閉眼と離握手)

0:両方可
1:片方可
2:両方不可

・最初の反応のみを評価します。
・1段階命令(例:目を閉じてください→目を開けてください)で評価します。
※2段階命令(例:目を閉じたり開けたりしてください)とはしません。
・離握手の際に検者の手を握らせると、把握反射が出現して正確な評価とならない可能性があるため避けます。
・麻痺などで手が使えない症例, 外傷, 身体的障壁などによって施行が妨げられる場合は他の適切な1段階命令に置き換えます。
・実行しようとする明確な企図は見られるものの、筋力低下のために完遂できない場合は実行できたものと考えます。
・被検者が命令に反応しない場合は検者がパントマイムで示し、その後の被検者の反応を評価します。

2.最良の注視

0:正常(正中を超えて左右に動く)
1:部分的注視麻痺(固定した偏視や完全注視麻痺ではない)
2:眼球頭反射でも克服できない固定した偏視や完全注視麻痺

・水平方向の眼球運動のみで評価します。
・意識障害や視力/視野障害などで自発的な眼球運動を評価できない場合は、眼球頭反射を確認します。
・眼球頭反射:頭部を急速に上下左右に動かすと眼球はその運動と反対方向に動く反射です。これを認めない場合は眼球運動を司る脳幹機能の障害が示唆され、"人形の目現象 陰性"などとも表現されます。
・脳神経Ⅲ, Ⅳ, Ⅵの孤立性末梢神経麻痺がある場合は1点とします。
・共同偏視を認めても、自発的または反射で克服できれば1点とします。
・完全注視麻痺(全方向注視麻痺)や共同偏視が眼球等反射でも克服できなければ、2点とします。

3.視野

0:視野欠損なし
1:部分的半盲
2:完全半盲
3:両側性半盲(皮質盲を含む盲)

・1/4視野ずつ、原則として片眼ずつ確認します。
・一側眼の盲や単眼症例では健側のみを評価します。
・視野評価のタイミングで、"11.消去現象と注意障害"の"2点同時刺激(視野の左右の指を同時に動かしたことを認識できるか)"も同時に評価します。
・原則として検者の眼を見ながら回答するように促しますが、患者が動いている側の指を適切に見ていれば正常と考えてもよいとされます。
※研修医の先生を見ていると、うまく指示が入らず視野の評価にかなりの時間を要していることが多いためこの考え方は特に重要だと思います。
・1/4盲を含む明らかな左右差を認める場合のみ1点とします。
・全盲はいかなる理由であっても3点とします。
・失語や意識障害などで対座法による評価が困難な場合は、visual threat(視覚的脅威)を用いて評価を行います。以下に手順を示します。

-患者を開眼状態にします。
-片眼ずつ右上/右下/左上/左下の4か所から視覚刺激を与えます。
-視覚刺激は例えば"チョップ"のふりで、目の直前で止めます。
-驚いて閉眼すれば、その方向の視野欠損なしと判断します。
※視覚刺激による風の刺激で閉眼してしまうと評価を誤るので注意します。

4.顔面麻痺

0:正常な左右対称の動き
1:軽度の麻痺(鼻唇溝の平坦化, 口角挙上時の左右差)
2:部分的麻痺(顔面下部(鼻唇溝や口角挙上)の完全またはほぼ完全な麻痺)
3:完全麻痺(顔面上部(閉眼や額のしわ寄せ)と下部の完全な麻痺)

・歯を見せて笑ったり、眉を上げたり目を閉じるように命じます。
・失語症例などで指示が入らない場合はパントマイムで示します。
・意識障害で反応が乏しかったり、理解力の乏しい場合は痛み刺激による顔面のゆがみ方で評価を行います。

5.上肢の運動

0:90度※を10秒間保持可能
1:90度を保持できるが10秒以内に下垂
2:重力に抗せるが90度の挙上や保持ができずベッドに下垂
3:重力に抗せない
4:全く動きがみられない
UN:切断・関節癒合
※座位の場合は90度で、仰臥位の場合は45度挙上とします。

・左右別でスコアをつけ、非麻痺側から開始します。
・検者が「1,2,3...」と声に出してカウントすると評価しやすいと思います。
・失語症例などで指示が入らない場合はパントマイムで示しますが、痛み刺激を用いてはいけません。

6.下肢の運動

0:30度を5秒間保持可能
1:30度を保持できるが5秒以内に下垂
2:重力に抗せるが5秒以内にベッドに下垂
3:重力に抗せない
4:全く動きがみられない
UN:切断・関節癒合

・下肢の運動は仰臥位で評価します。
・左右別でスコアをつけ、非麻痺側から開始します。
・検者が「1,2,3...」と声に出してカウントすると評価しやすいと思います。
・失語症例などで指示が入らない場合はパントマイムで示しますが、痛み刺激を用いてはいけません。

7.運動失調

0:なし
1:4肢のうち1肢に失調が存在
2:4肢のうち2肢以上に失調が存在
UN:切断・関節癒合

・指-鼻-指試験および膝-踵試験を両側で行います。
・筋力低下の存在を割り引いても失調を認める場合のみ加点します。
・指示が理解できなかったり麻痺がある場合は、失調なしと考えます。
・失明患者の指-鼻-指試験は、腕を伸ばした状態から被検者の鼻を触らせることで評価します。
※明らかに認める場合のみ加点となる点が、他の項目と異なります。

8.感覚

0:障害なし
1:軽度−中等度(痛み刺激(pinprick)が鈍い, 鋭くなくなったと感じる)
2:重度−完全(触られていることが分からない)

・爪楊枝などを用いた痛み刺激で評価します。
※研修医の先生を見ていると触覚刺激のみで評価をしていることが多い印象があり、それだと1点の評価が困難になってしまいます。
・意識障害や失語症例では、痛み刺激に対する顔面のゆがみ方や逃避反応で評価します。
・脳卒中に起因する感覚喪失のみが評価されるべきであり、正確な評価のため顔面, 体幹, 上肢, 下肢などできるだけ多くの部位を評価します。
・また、上下肢を刺激する際は手/足関節よりも近位を刺激するように意識すると末梢神経障害の影響を受けない評価ができる可能性が高まります。
・明らかに重度-完全な感覚喪失が証明できる場合にのみ2点とするべきであるため、失語症例では0, 1点のいずれかとなることが多いです。
・両側の感覚喪失(脳幹部の脳卒中による), 反応がない四肢麻痺, 昏睡症例ではいずれも2点とします。

9.最良の言語

0:失語なし
1:軽度−中等度の失語
2:重度の失語
3:無言・全失語

・軽度-中等度の失語:流暢性や理解力に明らかな低下が見られるものの、表出される考えは大きく制限はされません。例えば提示された資料に関して会話をすると、被検者の応答から検者はどの資料(絵や名札)であるか特定することができます。
・重度の失語:コミュニケーションは断片的な言語で行われ、被検者は大いに推論や(追加の)質問をする必要があります。提示された資料に関して会話をすると、被検者の応答から検者はどの資料(絵や名札)であるか特定することができません。
※この項目ではカードを使用して失語の評価を行うことになっています。入院後やリハビリテーションでは良いと思うのですが、特に救急外来で初療時にとるNIHSSでカードを使用すると時間のロスが大きくなってしまいます。私自身が救急外来で初療時にNIHSSを評価する際は、"これまでの項目の応答"に加えて"物品呼称"と"復唱"を評価し、上記の軽度-中等度, 重度, 無言・全失語のいずれかに当てはめています。カードは使用していません(少なくとも私の周りに救急外来で実際に使用している人を見たことがありません)。
・カードを用いる場合は絵カードの中で起こっていることを説明させ、呼称カードの中の物品名を言わせ、文章カードを読み上げさせます。
・視覚障害のために評価が難しい場合は、手の中に置いた物品の同定, 復唱, 発話から評価します。
・挿管症例では、書字で評価します。
・昏迷や協力の得られない症例でも可能な限り評価を行い、完全に無言か1段階命令に全く応じない場合のみ3点とします。
・昏睡症例は3点とします。

絵カード
呼称カード
文章カード

10.構音障害

0:正常
1:軽度−中等度(構音障害があるが、言っていることは理解できる)
2:重度(言っていることが理解できない)
UN:挿管または身体的障壁

・失語などがなく指示に従えると考えられる場合は、単語カードの音読や復唱により評価を行います。
・被検者にはこの項目で何を評価しているのか伝えてはいけません。
※9.失語と同様に単語カードを用いると時間のロスに繋がり得るため、救急外来で初療時にNIHSSを評価する際は"ぱたか"や単語の復唱などで評価することが多い印象です。
・重度の失語症例では、自発語による構音の明瞭さで評価します。
・無言や昏睡症例(言葉を発せない)は2点とします。

単語カード

11.消去現象と注意障害

0:異常なし
1:視覚, 触覚, 聴覚, 視空間または自己身体に対する不注意、あるいは1つの感覚様式で2点同時刺激に対する消去現象
2:重度の半側不注意あるいは2つ以上の感覚様式に対する消去現象(自分の手を認識できなかったり、空間の一側にしか注意を向けなかったりする)

・これまでの項目の評価の中で無視を評価するのに十分な情報は得られているため、振り返ります(具体例:顔をずっと一側に向け、反対側から声をかけても顔を向けない。失語や構音障害の評価の際、カードの左右いずれか半分の情報しか言わない。片方の手を自分の手と認識できていない。など)。原則として例示したような所見があれば2点とします。
※実臨床では客観的に半側不注意を把握する方法として"線分二等分試験"がしばしば行われます。聴診器や紐の中心をつまませる試験で、半側不注意があれば中心よりも右or左寄りとなります。
・2点同時刺激を行うことが難しい程度の重度の視覚障害がある場合は、体性感覚による2点同時刺激で正常であれば、評価は正常とします。
・失語症例でも両側に注意を向けているように見えれば、評価は正常とします。
・視空間無視や病態失認(例えば重度の片麻痺を認識できないなど、自身の症状を認識できない状態)は無視の根拠としてよいとされます。
・昏睡症例は2点とします。
・2点同時刺激:片側ずつ刺激すると両側とも認識可能であるのに、両側を同時に刺激すると片側が認識できない、すなわち消去現象の有無を評価します。以下に各感覚様式の評価法を示します。

-視覚, 触覚, 聴覚異常が判明している場合は、原則として異常のある感覚様式は評価対象としません。
-視覚:対座法と同様に検者と被検者の中間地点で、視野の右側と左側の指を交互に動かし、最後に両方を同時に動かします。
-触覚:右側→左側と交互に下肢を触り、最後に両方を同時に触ります。
-聴覚:右側→左側と交互に耳元で音を鳴らし、最後に両方を同時に鳴らします。
-いずれも両側の刺激の際に片側の刺激だと答えたら"消去現象あり"です。

参考文献

National Institute of Neurological Disorders and Stroke (nih.gov)

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