見出し画像

「彼方への道程」

第一章
都市の夜景がゆっくりと電車の窓越しに流れていく。煌々と輝くビルの窓一つ一つは都市の鼓動のようで、それぞれが異なる物語を告げていた。その中に混じる一つの物語が、竹内一郎のものである。彼は一流企業の部長としての地位を築き上げ、自身の情熱と知恵を活かしていた。だがその光彩の背後には、自らが創り出す情熱と日々の生活との間に生まれた虚無感が広がっていた。

朝、まだ薄暗いホームで列車を待つ。太陽が昇り、一日が始まるとともに彼の会議も始まる。そして夜、オフィスの窓から煌めく都市の光が消えていく時間まで仕事に没頭していた。彼の熱意は仕事に全て注がれていた。家族と過ごす週末の時間もあったが、それは短く、仕事が大半を占めていた。

しかし、そんな日常はある日突然に変わった。彼は健康診断の結果を受け取るために、白い壁と清潔な匂いが漂う病院に向かった。

末期がんの宣告は竹内一郎に無情に降りかかった。そこには恐怖や絶望だけではなく、不思議な開放感と、生への執着と肉体的な欲求への謎の渇望も同時に湧き上がった。

彼の心は混乱の中で迷走し、結果として一つの結論へと向かった。それはかつて仕事で訪れ、取引先をもてなした六本木への道だった。かつてはただの業務でしかなかったその場所が、今、彼を無機質に引き寄せる何かとなっていた。

数日間、彼の心はそのイメージに取り憑かれた。夜の街、光と音楽が交錯するクラブ、そしてそこで踊る若い女性たち。彼は彼女たちを見つめ、何の感情も湧かせず、ただ脳内には性欲の衝動が響いていた。

そしてある晩、彼は自身の内なる渇望に従い、六本木のクラブへと足を踏み入れた。扉を開けると、派手な光と迫力ある音楽が彼を包み込んだ。彼はダンスフロアを見渡し、若い女性たちがリズムに身を委ねて踊る姿を目にした。

彼は彼女たちを冷静に観察し、感情の起伏を抑えたまま、ただ純粋な肉体的な欲求だけが内なる領域で蠢くことを感じた。それは生への情熱ではなく、一種の快楽と衝動の追求であった。

これこそが彼の新たな旅の始まりだった。それは予期しない方向への飛躍、そして末期がんという絶望的な宣告を前にした彼の内なる渇望への開放だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?