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サントリー美術館『名品ときたま迷品』

会場:サントリー美術館
所在地:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
アクセス:地下鉄六本木駅より直結、他
訪問日:2024年4月27日


リーフレット

カメラのマークがついている展示品は、撮影可です。



まずはリーフレットになっている、この地球儀のようなものは、何でしょう。

『鞠・鞠挟(まりばさみ)』江戸時代 18〜19世紀

筆者撮影

「鞠挟」は鞠が転がらないように挟んで吊るしておく器具なんですね。
クッションの上に乗せておくだけでも良さそうですが、それでも転がることが懸念されたのでしょうか。
ということは、それだけ大事で高価なものだったのかもしれません。

蹴鞠は、約1,400年前に、中国から日本に伝えられたといわれる球戯の一種です。蹴鞠は勝敗を争うものではなく、いかに蹴りやすい鞠を相手に渡すかという精神のもと行われるものです。

出典:宮内庁公式webサイト

まさにこれ!
材質は鹿の皮で、ゴムを入れたようなしわしわは、縫った合わせ目です。

出典:宮内庁公式webサイト

蹴鞠の様子
7,8人で輪になって遊んでいました。

『御常御殿東御縁座敷』(おつねごてんひがしごえんざしき)
画:岡本亮彦
出典:宮内庁公式webサイト
(展示されていません)


『浮線綾螺鈿蒔絵手箱』国宝 鎌倉時代 13世紀
今回の展示品の中で唯一の国宝です。

筆者撮影


『椿彫木彩漆笈』 室町時代 16世紀

筆者撮影

タンス?
じゃなくて、笈(おい)。
笈ってなんでしょう?
修験者が、布教や旅のために、仏像や経典・仏具・生活用具をいれて背負ったものだそうです。今で言えばバックパックのようなものでしょうか。

正面の扉には椿の木を、脇には籬(まがき)に咲く菊を薄肉彫りにして色漆で彩色する。椿と菊の花弁は朱漆、葉は緑漆で彩り、花の芯と全体に散る露には金箔を押す。下段の菱繋文(ひしつなぎもん)は黒と朱で彩っている。

出典:説明パネル

いわゆる鎌倉彫りですね。

拡大します。

このぶつぶつはなんだろう。

こんなに大きくて角張ったものを背負うのは大変そうです。
後ろがどうなっているのかなと見てみたら。
ベルトとかついていないんです、取れちゃったのかしら。

筆者撮影

そこで文化遺産オンラインを見てみると、

出典:文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/13297
(展示品とは別のものです)

彫刻のあるほうに紐がついていたのですね。


『泰西王侯騎馬図屏風』桃山時代 重要文化財 縦167.9 横237.0

筆者撮影

日本にキリスト教が伝来したのは16世紀半ばでした。
幕府によるキリシタン弾圧までのおよそ半世紀、宣教師の指導を受けながら、洋画が描かれました。
それを「初期洋風画」と呼びます。
その代表作の1つです。

描かれているのは、右側からペルシア王、エチオピア王、フランス王アンリ4世。一番左はイギリス王ほか諸説あります。

こちらは四曲一双になっていますが、もともとは八曲一双だった屏風の片側なのだそうです。
対を成すもう半分は、神戸市立博物館に所蔵されており、左側から神聖ローマ皇帝ルドルフ2世、トルコ皇帝、モスクワ大公、タタール王が描かれています。
すなわち、ヨーロッパの帝王と、アジア王が、対峙する構図。
なんとなく、ヨーロッパ勢のほうが躍動感がある気がするのは、気のせいでしょうか。

出典:文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/376914
(出展されていません)

もともとは会津の鶴ヶ城(若松城)に伝来していたものですが、戊辰戦争で落城した際、離れ離れになったそうです。

陰影法や遠近法が強調されており、一見すると西洋画のようですが、油彩ではなく、墨や岩絵具が使われています。
誰が何のために描いたのかはわかっていません。


『乳白色ツイスト脚付杯』 江戸時代

筆者撮影

おそらくヨーロッパのレースガラスによるツイストステム・ゴブレットを模した杯。ヨーロッパではガラスを白濁させるのに錫を用いたが、日本にこの知識はまだなく、鉛によって発色させていた。鉛ガラスの和ガラスでは、あまり高温にすると素地に馴染み、レース文様が消えてしまう。その手前をかろうじて保持しているかの風情だ。(『Drinking Glass―酒器のある情景』サントリー美術館、2013年)

出典:サントリー美術館公式webサイト
https://www.suntory.co.jp/sma/collection/data/detail?id=1284


見様見真似で作ろうとした、江戸職人の心意気を感じます。
傾いたフォームも、愛しさしかない。


さて。
『この展覧会のタイトルは『名品ときたま迷品』です。
自分なりの『迷品』を見つけてくださいと学芸員さんがおっしゃっていました。

私にとっての『迷品』はこちらです。

『おようのあま絵巻』上巻 室町時代 16世紀

筆者撮影 絵巻の一部

室町時代、頭の上に大きな袋をのせて「御用(およう)やさぶらふ」とアナウンスしながら日用品を売っている女性を「おようの尼」と呼んでいました。
ひとり暮らしをしている老僧を気の毒に思ったおようの尼は、身の回りのお世話をする若い女性を紹介しましょうか、と持ちかけます。
今か今かと老僧が待っているところへ、おようの尼自身がやって来ます。部屋が暗く、おようの尼は顔を隠しているので、老僧はそれと気づかず、上機嫌で一夜を過ごすのでした。

「色欲にまよった僧侶が、醜女をつかまされる失敗譚」だそうですが、失敗譚とも言えないような。
おようの尼は、気が利いて親切で、可愛らしいように思いますし、老僧にとっては意外とハッピーエンドだったのでは?

絵はいびつです。
どこから俯瞰したのか、視点が定まっていません。
でもそんな稚拙さが、ストーリーにも素朴感をあたえているように思いました。



本日の着物はこちら。
絵本の虫さんが、藍の紬がお好きとコメントしてくださったので、琉球紬にしました。


<参考資料>
宮内庁公式webサイト
https://www.kunaicho.go.jp/

神戸立博物館HP
https://www.kobecitymuseum.jp/collection/detail?heritage=365024

『サントリー美術館ニュース』vol.277 2020年
https://www.suntory.co.jp/sma/collection/tobira/21/


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