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野にある豆で赤飯炊けば、気分はすっかり古代人~じいちゃんの小さな博物記⑭

以前から気になっていたヤブツルアズキがまとまって生えているところを見つけた谷本さん。ここ2、3年のご近所新発見のひとつです。
ヤブツルアズキは、小豆の原種とされている野生のマメ。そこで、孫と一緒に食べるため、赤飯を炊こうと思い立ち……。
『草木とみた夢  牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第14回をお届けします。

谷本雄治(たにもと ゆうじ)
1953年、名古屋市生まれ。プチ生物研究家。著書に『ちいさな虫のおくりもの』(文研出版)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)、『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『とびだせ!にんじゃ虫』(文渓堂)、『カブトエビの寒い夏』(農山漁村文化協会)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)など多数。

 有名な「ツタンカーメンの豆」を育てたことがある。素性は怪しいようだが、ご飯を炊くと赤飯のように染まるという。

「ツタンカーメンの豆」の花。美しい赤紫色の花が咲いた
「ツタンカーメンの豆」のさや。大柄で、熟すと紫色だった

 でも、万年初心者の菜園家が手にした豆は、ほんの数個。その反動なのか、かねて目をつけていた野生豆が無性に食べたくなった。小豆の原種とされるヤブツルアズキだ。
 わが家では、なにかにつけて赤飯を炊く。赤は邪気をはらう色なので、用いるのは当然、小豆だ。小豆の「ア」は赤、「ズキ」は溶けることを表す。煮ればたしかに、皮が破れるほどにやわらかくなる。
 そんな聞きかじりのうんちくを披露してから、孫にたずねた。
「ヤブツルアズキという野生の豆があるんだけど、見たいよな。食べたいだろ?」
「うん!」

ヤブツルアズキの花。葉も花も小豆にそっくりだ

 野歩きの際、道ばたでたまに見る。だから、花や実を見せるのは難しくない。だが、できるなら、古代のロマンあふれる豆を食べてみたい。孫にも食べさせたい。
 たくさんあれば、赤飯やあんこができる。ぜんざい、おはぎだって作れそうだ。夢をかなえる群落がどこぞにないものか……。
 と願っていたらこの夏、自宅からほんの数分のご近所で、まとまって咲く黄色い花を見つけた。この幸運を逃がしてなるものか。

ヤブツルアズキの黄色い花と若いさや。この花色とさやの形が、
ツルマメやヤブマメなどよく似た野生のマメ科植物と見分けるときの大きなポイントだ

 そして秋。収穫時期の到来だ。
「出かけるぞー!」
 ビニール袋を手にして出かけた。細長くて黒い、小豆のミニ版と呼びたいさやがいくつもぶら下がっていた。

ヤブツルアズキのさや。熟すと黒くなる

 さっそく、手を伸ばす。
 と。バチバチ、バチッ!
「すごいよ、じいちゃん!」
 さやに手がふれた瞬間、豆が四方に弾け飛ぶ。これを体験するだけでも、ヤブツルアズキと付き合う価値はある。
「袋で包むようにして、取ればいいね」
 その通り、その作戦でいこう。
 両手いっぱいのさやが収穫できた。豆は見るからに、小豆の子ども風。これなら赤飯でもおはぎでも作れそうだ。

両手いっぱいのさやから取れたのは、片手に軽く1杯の豆。
豆を弾き飛ばしたさやは、見事にねじれている
ヤブツルアズキの豆。小豆に比べると黒く、粒も小さい  

 野生種なので虫食い豆を覚悟していたのだが、多少のごみが混じるくらいできれいなものだ。色は小豆よりも濃く、黒みを帯びる。
 ひとさやにおさまる豆は10個ほど。収穫量は1合カップに約3分の1だった。一晩水につけてから軽く煮て、もち米3合に混ぜて炊いた。
 炊飯器のふたを開けるとご飯はほんのり赤く、小粒の野生豆が存在感を見せつける。黒かった豆も赤く変身し、黙って出せば小豆の赤飯だと思ってもらえそうな炊きあがりだ。

ヤブツルアズキの豆で炊いた赤飯。1合カップに3分の1の豆を、もち米3合に混ぜた

 気になるのは、その味である。
 孫はひとくち食べて、にんまりした。
 ――今度は庭で育てて、おはぎを作ろう。
 「ツタンカーメンの豆」で証明された栽培下手などすっかり忘れ、じいちゃんは残した豆をながめて大量増殖の計画を立てた。