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“復帰っ子”のガレッジセール・ゴリさんが作家デビュー。沖縄への愛と、ユーモアあふれる児童文学作品『海ヤカラ』(照屋年之/作・とろっち/絵)

今からちょうど50年前の1972年5月15日。
アメリカ統治下にあった沖縄が、日本に返還されました。
 
戦争が終わってから実に27年間も、沖縄は日本から分離されていたのです。
このことを知っている子どもたちは、どれくらいいるかな? 子どもたちに伝える本はあるのかな?
2年ほど前、児童書編集部で働く私は、ふと思いました。調べてみると、自社にはほとんどないことがわかりました。これは、作ったほうがよいのでは……? 企画が動きだしました。
 
沖縄は私にとって、たびたび足を運んでいる大好きな場所です。きれいな海に美味しいごはん、のんびりと流れる時間、あたたかい人たち……何度も命の洗濯をさせてもらいました。一方で、大戦末期には凄惨な地上戦の舞台となり、戦後もさまざまな「矛盾」を抱えて苦しんでいる……そのことを思うと、複雑な気持ちになる場所でもありました。
 
そんなすべてをひっくるめて、「沖縄」がどんな土地なのか、若い人たちに知ってほしい。できれば、楽しく、親近感を持てる形で伝わるといいな。著者は誰がいいだろう? などとつらつら考えていて、思い浮かんだのがゴリさんです。
誰もが知っている、沖縄出身のお笑いコンビ、ガレッジセールのゴリさん。
 
「いやいや、それはあまりに安易でしょう」と、最初は自分にツッコミました。でも一応、ネット検索をしてみたら、ゴリさんは沖縄返還の1週間後、1972年5月22日のお生まれでした。え?
 
そして、沖縄を舞台にした映画を何本も撮られている。それも、ご自身で脚本を書き、監督もしていらっしゃる。しかも、2019年公開の『洗骨』は、第60回日本映画監督協会新人賞を受賞されている(これは現役のお笑い芸人としては北野武さん以来らしい)。
 
また、2014年から「おきなわ新喜劇」の座長として、脚本の監修や舞台演出をされていることもわかりました。テーマは「笑って学べる沖縄」という言葉も見つけました。
 
こ、これは……。
 
ゴリさんしかいない。
 
単純な私が、そう思い込むには十分でした。
 
かくして、「沖縄の本土復帰、そしてゴリさんの人生50年の節目に、子どもたちに向けた沖縄の物語を書いていただけませんか?」とご依頼し、有り難いことに、お引き受けいただくことができたのです。

これまでコントのネタや、映画の脚本はたくさん手掛けてこられたゴリさんですが、小説は今回が初めて。お互い不安もあったと思います。でもゴリさんは、「何でも言ってください。何回でも書き直します」と言ってくださいました(涙)。
 
2か月後。いただいたお原稿は、最初からとびきり面白かった! ちょこちょこ笑えて、どんどん先を読みたくなる展開。情景が目に浮かぶ描写に、胸が熱くなるセリフ。それにとにかくキャラクターがいい! 文章はなんだかちょっと「ト書き」っぽいけど、磨けばもっともっと良くなるはず。手ごたえを感じて、私はワクワクしました。
 
そうして、感じたことを全部お伝えし、頭から書き直していただくこと数回。
ご依頼から一年が過ぎ、完成が見えてきたころ、事件が起きました。
(詳細は、ゴリさんがYoutubeで語ってくださっているので、ぜひ……)

それまでの原稿は全部捨てて、ゼロから書いていただいたのが、この『海ヤカラ』です。(投げ出さずに取り組んでくださったゴリさんに感謝……!)

エンジンが温まっていたのか、一気に書き上げてくださいました。こめられた「思い」はそのまま、でも文章はもう「ト書き」っぽくありません。一作目はお蔵入りになってしまったけど、それはこの作品が生まれるためだったんだ! そう思えるほど、愛おしい物語でした。

主人公は、ウミンチュにあこがれる10歳の男の子、国吉ヤカラくん。
お金はドルが当たり前、車は右側通行、日本にはパスポートがないと行けなかった時代の沖縄が、少年の目線から生き生きと描き出されます。
 
物語のキーパーソンは、アメリカ人を父に持つ転校生のマギイです。誰とも打ちとけず、乱暴もののマギイでしたが、その心の内を知ったヤカラが、ある行動に出て……。

戦争の傷跡や、不条理な現実と向き合いながらも、子どもたちは友情を育み、たくましく成長していきます。

沖縄が歩んできた道と、そこに生きる人たちの姿は、まさに今、世界中で大変な状況にある人たちの姿とも重なります。日本人が「平和」を考えるうえで、沖縄が教えてくれることは、とても大きいと感じます。
この本が子どもたちにとって、そんなことを考えるきっかけになれば、とても嬉しいです。
 
最後に、あとがきのゴリさんの言葉を引用させてください。

「もう友だちさぁ!」と世界中がいえる日がくるといいですね。 
 照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)

 
(文・斉藤尚美)