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絵本作家が語る、作品のきっかけを生む「身の回りのもの」にあるドラマとは? 【いとうひろし新作『バンバンバンバンバンソウコウ』インタビュー】

こどもも大人も、みんな大好きバンソウコウ!
こどもの頃、ケガをした時にバンソウコウを貼ると、傷口は痛いけど、なんだかちょっぴり嬉しいような、大人の仲間入りをしたような、そんな気分になったことはありませんか?

絵本作家のいとうひろしさんは言います。「もの」には、いつでもドラマを作ってくれるものと、そうでないものがあると。誰もが「バンソウコウってさあ……」と、口を開きたくなるような存在。そんなドラマ性のあるバンソウコウをテーマにした絵本『バンバンバンバンバンソウコウ』が誕生しました。
新作絵本のことについて伺いつつ、創作の秘密が垣間見えるお話と、いとうさんのゆかいなお人柄と物事の捉え方を、インタビューの形で是非お楽しみください。(聞き手:編集部)

『 バンバンバンバンバンソウコウ 』作・いとうひろし/ポプラ社刊

いとう ひろし (伊東 寛
1957年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業。大学在学中より絵本の創作をスタートし、1987年『みんながおしゃべりはじめるぞ』(絵本館)でデビュー。主な作品に「ルラルさん」シリーズ、『くもくん』『くものニイド』『ケロリがケロリ』『おいかけっこのひみつ』(以上ポプラ社)、「おさるのまいにち」シリーズ、『だいじょうぶ だいじょうぶ』『くろりすくんとしまりすくん』(以上講談社)、『マンホールからこんにちは』『ごきげんなすてご』(以上徳間書店)、などがある。日本絵本賞読者賞、絵本にっぽん賞、路傍の石幼少年文学賞、講談社出版文化賞絵本賞など、受賞多数。

歌詞から生まれた歌いたくなる、ゆかいな絵本


――発売されたばかりの絵本『バンバンバンバンバンソウコウ』ですが、まずタイトルからして、何それ? 面白そう! と思わせるものがありますよね。リズミカルで、カラフルで、思わず歌いたくなってしまう内容です。
まずは、この作品が生まれるきっかけを教えてください。

いとうひろしさん(以下、いとう) 以前、とある雑誌で歌の歌詞をかいてほしい、というオファーを受けたんです。ラフなメモみたいに歌詞のようなものをいっぱいかいていて、その中でも、これだったらリズムも良いし面白いかな、と思って掲載した歌詞が絵本の元になっています。その詞には、中川ひろたかさんが曲をつけてくれて。
それが、ずいぶん前のことなので、ずっと忘れていたんだけどね。
ところがある日、細江幸世さん(編集部注:細江さんは、いとうひろしさんの妻であり編集者)が、この歌詞すごく面白いから絵本にしたら? って言ったんだよね。

――へえー! そこで久しぶりに、思い出されたんですね。

(いとう) 歌詞自体は自分でも気に入っていたんだけど、絵本にするつもりはなかった。それで、長くほったらかしてたんだけど、(笑) 何度も言われるのでラフを作ってみたら、これは絵本の形にしても面白いなと。

『バンバンバンバンバンソウコウ』(作詞:いとうひろし/作曲:中川ひろたか)
絵本が作られたことをきっかけに、歌も新しく録音し直されました。楽しい絵本の世界が、より楽しくなる仕上がりに!

身の回りのものを、「おもちゃ」のように捉えらたらどうなるか?


(いとう)
 今回、たぶん自分にとって「バンソウコウ」という題材が面白かったんだと思う。それと、ケガした時に貼るだけでなく、ある意味おもちゃのように扱ったのも良かった。最初に歌詞をかいたときは、そこまで考えていたわけではなかったんだけどね。
改めて思ったのは、自分はけっこう身の回りの色んなものを「おもちゃ」のように見ているんだなあ、と。「そんなもので遊んじゃいけません!」って言われるんだけど、つい楽しくてやっちゃう、という感覚。(笑)

――本来のバンソウコウの使い方を描いた、という内容の絵本では無いですよね。

(いとう) そうそう、本当はケガした時のために貼る実用的なものだよね、バンソウコウって。でも、この絵本の中では、ほとんどそういう使い方では無い。(笑)
実用的に作られたものを、そうじゃないものとして捉えたらどうなるのかな? っていうのは、自分の中のテーマとして常にあるかもしれない。

――こどもって、作られたおもちゃよりも、実用的なものを遊び道具にすることが多くないですか? うちもおもちゃをこどもに渡しても、結局遊んでるのは、災害用の充電式ライトだったり。(笑) こどもと近しい視点が、この本の面白さのような気がします。

ドラマを作ってくれる「もの」、バンソウコウ


――バンソウコウって、いとうさんにとってどんな存在ですか?

(いとう) ものって、いつでもドラマを作ってくれるものと、そうではないものがあると思うんだよね。バンソウコウって、どんな時もドラマを作ってくれる。
まず、ケガをする、っていう事件があって、それを守ってくれる存在になる。
でもさ、お風呂入ったとき、邪魔になるじゃない。(笑) はがした後、皮ふがブヨブヨになるしさ。貼る場所によっては、毛がくっついちゃうし。かさぶたになったら、痛くてはがせない。こいつは、味方なのか? 敵なのか?って。(笑) 

――なるほど、一筋縄ではいかない存在。たしかに、だれかとバンソウコウの話をするだけで、自分の持ってるエピソードが自然と出てきますよね。
いつでもドラマを作ってくれる、というのが、作品を生みだすときの重要なポイントなんでしょうか?

(いとう) 後付け的になってしまうかもしれないけど、なんでこの作品を作ったの? と聞かれると、そこに結局ドラマを作り出すものがあって、それを自分が面白いと感じているからなのかもしれない。
最初は「バンバン バンバン バンソウコウ」という音の響きだけだあって、それがバンソウコウの持ってる要素からイメージがどんどん広がっていって、お話が形作られていく。たとえば、バンソウコウってテープやシールのような面白さがあるから、嫌なやつにペタッて貼ったらどうなるかな? って想像する。これってもう、敵を倒せるアイテムじゃない? って思ったり。(笑)

――ひとつ、聞いてみたいことがあるのですが。
今回、主人公のような存在として、表紙にもかかれている2人のバンソウコウの精がいますが、この人たちはいったいどんな人たちなんでしょうか?

全編に出てくる、2人のバンソウコウの精

(いとう) さっきも言ったんだけど、バンソウコウ、つまり彼らは味方なの? 敵なの? っていうところがあるよね。ケガした時に貼るから、助けてくれるような存在に思えるけど、一方では「かさぶたはがれるぜ~、いたいぜ~、ふふふ~」って思ってるかもしれない。(笑)

――なんだか、涼しげな表情で気持ちが読めないですよね。(笑)

(いとう) ちょっと自分に似ているところもあるかも。(笑) ここでこどもたちに渡しているのも、ちゃんとしたバンソウコウなのかどうか、怪しいよね。バンソウコウの持っている多面性を、この2人が体現してるのかも。善でも悪でもなくて。単なるお助けマンではないんだよね。

「困ったことがあっても、楽しめるよ」


――いとうさんの作ってきたこれまでの絵本と比べて、違うところ、または同じところを教えてください。

(いとう) 自分の作品では、割とストーリーというものが重要だったんだけど、今回の作品はいわゆる起承転結がはっきりしているものでは無いというのが、違うところだと思う。
絵本にしたらって言われなかったら、歌詞を絵本の形にはしなかった。言ってしまえば、この作品ってそんなに内容があるわけでは無くて(笑)。実は、ナンセンス的なものって、あまり自分が得意では無いという意識があったんだけど、でも、やってみたらシンプルに、面白い! って感じて。(笑)

――たしかに、普段作られている起承転結のはっきりしたお話とは、けっこう違いますね。

(いとう) 同じところというのは、「ルラルさん」シリーズでもそうなんだけど、「どんな状況でも遊べるよ」という考え方の部分かな。「困ったことがあっても、楽しめるよ」っていうところは、つながっていると思います。
「ころんだ ときは バンソウコウ」って絵本の中にあるけど、バンソウコウじゃどうにもならないケガもいっぱいあるよね。(笑) でも、あえてそう言い切っちゃう。「こんなケガしたらどうしよう」という不安に対する備えや心のゆとりが大事というか。
大変だな思っていることでも、どこかに逃げ道があると考えるとチャレンジができるし、自分の人生もそんな風にやってきたような気がします。(笑) 不安を恐れて何もできなくなるよりは、やったほうがいいよね。逃げ道ってあるよ、って言いたい。まったくないことなんて、滅多にないんだよね。

――絵本を読んでくれる子どもたちへのメッセージはありますか?

(いとう) ない、ない!(笑)
えーとね、こっそりバンソウコウを持ち出して色んなところに貼ってごらん、という感じかな。いたずらは楽しいよ。(笑)

――きっとおもちゃとして作られた子ども向けシールにはない、楽しさがありますね。
では最後に、今後の作品の予定は?

(いとう) 今年は、「ルラルさん」シリーズの記念すべき10作目があります。それと、落ち葉をコラージュして作った絵本「おちばがおどる」の続編的な作品も予定しています。

――楽しみにしています! 本日はどうもありがとうございました!

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