🦊「かいけつゾロリ」🦊の原ゆたか流 物語のつくりかた
今年35周年を迎え、12月9日(金)には劇場映画「映画 かいけつゾロリ ラララ♪スターたんじょう」も公開される大ロングセラー「かいけつゾロリ」シリーズ。12月7日(水)発売の『かいけつゾロリきょうりゅうママをすくえ!』でなんと72冊にもなる大シリーズの作者、原ゆたかさんはどのように物語と絵をかかれているのでしょうか。制作秘話を伺いました。
児童書作家になったのは?
私は『ちいさなもり』(1975年/フレーベル館刊)という自作の絵本は作っていましたが、元々は作家ではなく、他の作家さんの書いたお話に絵を描く画家でした。
子どものころから絵を描くのが好きで、ずっと描き続けていましたし、映画も好きだったので、絵本や児童書ならば、お話を絵で演出することができると考えて児童書の画家を目指しました。
当時は、児童書の挿し絵というと、一般的には出版社から指定された場所に絵を描くスタイルでした。でも、私は限られたページ数で、自分でページ構成を組みなおして、読者の子どもたちにもっとお話を楽しんでもらえるように工夫するようになりました。
そのために、「この場面は絵で見せられるから文章は削ってもいいのでは?」「もっと絵で楽しいページにできるからここをふくらませて書けないか?」などと作家さんに提案をするのですが、その提案をおもしろがってくれる作家さんもいれば、怒られることも多々ありました。
そうしているうちに、「かいけつゾロリ」では、お話も書くことになったんです。
ところが、いざ真っ白な原稿用紙に向かってみると、なにも書けない。
一からお話を作りだす大変さを思い知りました。
もともと絵描きだった私がお話をつくるには?
それならば、なにか自分が好きだったものを自分なりにつくりかえたら、新しい物語になるのではないかと思いついたんです。
私は子どものころから、本、マンガ、落語、テレビ、映画、ゲームなど、いろいろな娯楽が好きでした。特に怪獣映画や、植木等さんの「無責任男」シリーズや渥美清さんの「男はつらいよ」シリーズには夢中になりました。
このため、お話の下敷きにできるようなものはたくさん持っていました。
当時見て驚かされた映画「インディ・ジョーンズ」のように、危険を回避してもすぐに危険なことが起こるようなお話を作ろうと試みたのが第1巻の『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』です。
最後まで目がはなせない展開にすれば、本が苦手な子どもたちでも最後まで読んでくれると思ったからです。
最初は、5冊くらいかければ十分かなと思っていましたが、子どもたちが読んでくれて、夢中で書いてきたら35年、72冊になっていました。
毎回ゼロベースからのスタート?
72巻も書いていると、書くことにはこまらないのでは? と、よく言われます。けれども、毎回次は書けないかもしれないと不安になります。
そのために、何冊もシナリオの書き方などの本を読んでは物語のつくり方を学びなおして書いているんです。
ハリウッド映画では最初の15分で<だれが・どこで・なにをする>という主人公の目的を見る人に明確に伝えて、観客の心をひきつけているということを学びました。
そこで、自分が好きだった映画やドラマを分刻みで分析することもあります。
すると、引きこまれるお話は、適度に山場を作り、飽きない工夫がちゃんとされています。
私は約113分の映画の作り方を113ページの本の作り方と置き換えて考えて、最初の15ページで主人公の目的を伝え、読者が主人公を応援したくなる展開を目指しました。
その上で、最後まで本を閉じたくなくなるようにいくつものハプニングをちりばめ、ページのさいごに「すると、」「ところが、」などを用いて次のページをめくってもらうような工夫もしていきました。
本は、いちど閉じられたら、つぎに開いてもらうのは難しいですから。立ち読みでも、最後まで読まずにいられない本づくりを目指したんです。
実際にどうやって物語を作っているのか?
➊まず、どんなお話にしようかと考えます。これは先ほどお話ししたように、マンガやテレビや映画やゲームなどからインスピレーションを受けて考えつくことが多いです。
お話を考えているときは、寝ているときでもお風呂でも考えていて、思いついた時にはすぐにメモできるように紙と鉛筆はいつでも手の届くところにおいてありますね。
➋お話の題材が決まったら、資料を集めます。本を読んだり、映画やドラマを見たりします。
➌考えたお話の起承転結を確認します。
➍次に、ハリウッド方式のチャートで流れを確認します。事件にまきこまれて、ハッピーエンドになる流れの中に、いくつもの山場を作り、途中であきないか、結末がバレバレになっていないかをチェックします。
➎全体の流れをミニラフにします。1枚の紙に全ページのミニラフを書いて、お話の流れを文章にします。全体の構成を練りつつ検討します。
➏カードに書いてファイリングします。ページの入れ替えがしやすくなるよう、細かい流れをカードに書いてファイルに収め、ストーリーの流れを検討します。
➐113ページのページ割を決めてレイアウト用紙の文章を書きます。これが正式サイズで最初のラフで、まずは文章を主体に考えます。
➑ラフを持ち歩いて再考します。
お風呂や外出先などで何度もラフを検討して書き直します。
➒その文章を妻で同じく児童書作家の京子さんが読んで、流れや文章が子どもたちにわかりやすく伝わるかチェックします。さらに、文字数に限りがあるので、なるべく短い文章にできないかを考えてもらいます。
➓直された文章をもとに、レイアウトをしなおします。こんどは、絵も描き加えて全体のページを作っていきます。
⓫完成したラフの絵にペンを入れていきます。
使用しているのは使い捨てのロットリングペン。インク補充のものは、ペン先がつぶれたりつまったりして使いにくいので、太さのちがうペンを何十本もストックしてあります。
⓬絵をスキャンしてパソコン上で線をきれいにします。京子さんが、線の太さをきれいに整えたり、時にはイシシ、ノシシの表情を豊かにするなどの修正をしてもらいます。
⓭その絵に、ふたりで色をぬっていきます。初期はセル画で描いていましたが、今はパソコン上で色をぬります。
また、女の子のファッションはにがてなので、京子さんに服のデザインなどを考えてもらいます。
隠し絵などを入れて絵が完成します。
基本的には1か月でお話をかき、1か月半くらいで絵を描きます。
⓮この後、編集者が文章や絵のまちがいがないか確認し、修正して印刷会社に入稿します。
⓯出てきた校正刷りなどを何度もチェックして、ようやく本ができあがります。
毎回このようにして、「かいけつゾロリ」を書いてきましたが、35年前に書いた第1巻の「かいけつゾロリのドラゴンたいじ」も、最新作の「かいけつゾロリきょうりゅうママをすくえ!」も、本が嫌いな子でも読める本を目指す気持ちはずっと変わりません。
これまでのお話を読み返すと、ゾロリはどんなに失敗してもめげずに次こそはと進んでいきます。
昔大好きだった植木等さんの「無責任男」シリーズや渥美清さんの「男はつらいよ」シリーズの寅さんに、私が元気をもらったように、ゾロリを読んでくれる子どもたちが、失敗しても次がある、あきらめずに次に行ってみようという気もちになってくれたらいいなと思っています。
今回ご紹介した本・映画はこちらです。
🦊原ゆたかさんが、子どものころから児童書作家になるまでのお話は、こちらの記事をお読みください。