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文字の書体もサイズも指定できなかったけど、なんとか本ができました

本づくりの裏側には、いつだってドラマがあります。
でも、かっこいいドラマばかりあるわけではありません。
編集者は「作家さんといい本を作りたい」という想いだけ抱いて、愚直に仕事をしています。それは実はあんまり派手ではなくて、もしかしたらちょっとかっこわるく見える部分もあるかもしれません。
でも、本づくりって、けっこうそんなものなのです。

このコーナーでは、そんなかっこわるい部分もお見せした編集後記をお届けしてまいります。
なお、かっこわるさは編集者によって異なりますので、温かい目でお読みください。

第四回は、企画編集部の近藤純さんによる『マンガで読む 学校に行きたくない君へ 不登校・いじめを経験した先輩たちが語る生き方のヒント』(棚園正一)の「かっこわるい編集後記」です。


<内容紹介>
人生に「正解」なんてない。宮本亞門、サヘル・ローズ、山田ルイ53世、田口トモロヲ、内田樹、町田そのこ、キンタロー。らは、不登校・いじめを経て、どう自分の生き方を見つけたのか。ロングセラー『学校に行きたくない君へ』の姉妹編。子どもの不登校を経験した親御さんのエピソードも収録。

「書体をアンチゴシックと指定いただいているんですけど、アンチゴシックも何種類かありまして」と印刷所の担当Mさんから電話がかかってきて、「え?そうなんですか?」と驚くわたし。
 
わたしがなにも知らないことを見越して、やさしいMさんは続けます。「ポプラ社さんでよく使ってるアンチゴシックの書体があるので、それで進めますね」「はい、よろしくお願いします!」といつものようにすべてお任せするわたし。
 
じつは、これより前にも、こんなやりとりが。
 
わたし「初校を戻す際に、すべてルビ(ふりがな)をつけたいと思ってまして」
Mさん「自動でできるんですけど、最初からもう一度文字を流さないといけなくなります」
 
もう一度文字を流すということは、印刷所さんの初校の作業がムダになるとういうこと……。ああ、申し訳ない。
 
Mさん「そうしたら、書体と級数(サイズ)を指定して戻してくださいね」
わたし「あ、はい、あの……マンガをあまり編集したことがなくて、以前に級数を指定したら、ふきだしからはみでてしまいまして……級数はお任せできないでしょうか」
Mさん「……わかりました。じゃあ、こちらでやりますね」
 
といつもやさしく頼りになるMさん(と印刷所で実際に文字を流し込んでくれる担当の方)に半ば強引に級数もお任せしてしまいました。
 
書体も級数も指定せず、じゃあ、おまえはなにしたんだ? と思われるかもしれません。いや、思いますよね。セリフやナレーションなど、それぞれで書体を変えるので、ほかの3種類ぐらいの書体は指定したのですが、じつはこれも、児童書でマンガをよく担当している先輩に教えてもらい、マネしただけ……。
 
言い訳しますと、いつもはエッセイやノンフィクションなどを編集することが多く、その場合は、デザイナーさんが本文の書体やサイズをはじめ、本文のレイアウトを作ってくれます。わたしは、なにもする必要がなく、ただそれを印刷所に渡すだけ。
 

吹き出し、四角の囲みのなか、絵の上にそのまま置いてるセリフなど、書体を変えています。コラムは、デザイナーさんに本文フォーマットを作ってもらったので、わたしはなにもする必要がありませんでした。

 
そして、ここに書いたこと以外にも、いろいろと印刷所さんに迷惑をかけながら、本ができあがりました(いろいろありすぎて、全部書ききれません……)。
 
『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』は、山田ルイ53世さん、田口トモロヲさん、内田樹さん、町田そのこさん、キンタロー。さんら、不登校・いじめを経験した16名の方たちの人生のターニングポイントがマンガになったものです。
 
じつは、18年に『学校に行きたくない君へ』、20年に『続 学校に行きたくない君へ』を刊行しています。今回は、より多くの子どもたちに読んでほしいと思い、四苦八苦しながらも、マンガという形にしました。
 
著者の棚園正一さんも、不登校を経験し、『学校へ行けない僕と9人の先生』などで自身の経験をマンガで描き、各地で講演もしています。そのなかで、不登校の原因・理由はさまざまで、こうしたらいいという、すべての人にあてはまる「正解」はない、ということに気づいたそうです。でも「正解」がないからこそ、先輩たちの経験や考え方が、ぞれぞれの「正解」を探す手がかり、ヒントになるのかなと思います。
 
コロナ禍でしたので、オンラインでの取材でしたが、みなさん真摯にまっすぐにご経験を語ってくださいました。不登校に「正解」がないように、人生にも「正解」はない。「正解」は人それぞれで、目の前のことをひとつずつやっていくことで見つかるのかな、そんなことをこの本を編集しながら感じました。
 
全国の小中学校における不登校の子どもの数は、8年連続で増加し、過去最多の19万6127人となっています(2020年度)。中学生の24人に1人、小学生の100人に1人です。2021年度の数字は、まだ出ていませんが、さらに増えるのではないかと予想されています。
 
子どもたちに読んでもらえるように、(印刷所さんに多大なる迷惑をかけながら)すべての漢字にふりがなをふりました。いま学校に行けないと悩み苦しんでいる子どもたちとそのご家族が本書を手に取ってくれたら、とてもうれしいです。


https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008397.html

 




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