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“変わった依頼の仕方”が決め手。

『疲れたあなたをほめる本』重版記念対談! 著者・わかるさん×担当編集・辻

「重版出来」という言葉はすでに出版業界以外の人も知る言葉となりました。

念のため、ご説明すると、
重版とは「一度出版した書籍を同じ版で再び印刷・出版すること(広辞苑)」です。

この重版というのが、なかなか難しいのです。どんどん売れてどんどん重版、なんて本はあるにはありますが、業界を見渡せば重版できずに初版止まりという本が大半です。編集、営業、宣伝が知恵を絞りながら、なんとか重版できるようにがんばっているわけです。

ありがたいことに、昨年刊行した疲れたあなたをほめる本は重版することができました。

この本は編集担当であるぼく(辻)が、児童書から一般書の編集部に異動してはじめて、著者のわかるさんと1から話し合って作ったもの。だからこそ、この重版はめちゃくちゃ嬉しかったのです。

そんな喜びを共有したく、著者のわかるさんと編集担当・辻との対談を実施! 本作りの裏側を語り合いました。

【『疲れたあなたをほめる本』】

人間関係のモヤモヤ、会社でのイライラ、自分のダメさ加減など、ネガティブな気持ちから解放される! TwitterやLINEスタンプで大人気のイラストレーター・わかるが贈る、疲れたあなたに寄り添う168の「ほめ」メッセージ。

 

【わかるさんプロフィール】

わかる イラストレーター。1991年生まれ。シンプルな線 でニコニコした顔のイラストが特徴。広告、書籍、 雑誌、Web 媒体のイラストレーションの制作を中 心に活動している。LINE スタンプも販売中。著書に『今日は早めに帰りたい』(KADOKAWA)がある。本書は初のメッセージブック。好きなほめ言葉は 「すごい」「えらい」「ちょうど良い」「センスがいい」「歯が白い」。Twitter: @wakarana_i


本のきっかけは「ほめるスタンプ」


 重版、本当におめでとうございます。

わかる ありがとうございます。

 ひとまず重版が目標でしたので、ちょっと安心しました。さて、今日は『疲れたあなたをほめる本』の製作秘話をお聞きしていきます。よろしくお願いいたします。

わかる よろしくお願いします。

 『疲れたあなたをほめる本』はわかるさんにとって2冊目の本です。1冊目『今日は早めに帰りたい』を出版してから4年以上経って、わかるさんの立場や周辺の状況も変わってきていると思います。2冊目を出版するにあたって気持ちの変化はありましたか?

(1冊目『今日は早めに帰りたい』(KADOKAWA))

わかる 今回は本当に1からの本づくりだったので不安はありました。まず書けるかな、大丈夫かなって。

 1冊目は作品集・ネタ集という感じでしたよね。

わかる そうですね。ツイッター上に今までツイートしてきたイラストがあったので、それがベースになっています。描き下ろしもありましたけど、そこまで多くはなかったですね。

 ぼくがわかるさんに本の依頼をするなら、「作品集」ではなくて何かテーマがあるといいなと思って、悩んでいました。そこでLINEの「ほめるスタンプ」を見つけて、これだ!と思ったんです。「ほめるスタンプ」はどういう経緯でできたのですか?

「ほめるスタンプ」

※スタンプのリンクはこちら https://store.line.me/stickershop/product/1401247/ja


わかる もともとLINEスタンプはいろいろ出していました。新しいスタンプを考えるときに、コミュニケーションとして使うものだから、お互いにイヤな気持ちにならないものを作りたいなと思いました。そこで思いついたのが、ほめたりとか、相手が嬉しくなったりするようなスタンプでした。

 「ほめるスタンプ」はシリーズがありますが、やっぱり好評だったんですか?

わかる そうです。私のスタンプの認知が、わーって広まったのは「ほめるスタンプ」ですね。でもいちばん使われているのは、後に出した「まいにちつかえるスタンプ」などの日常系のスタンプです。順番が逆だったら、「まいにちつかえるスタンプ」もこんなに使われてないのかなという気がします。

どう考えても、本を作るって大変

 まさにその「ほめるスタンプ」を見て、わかるさんに本を作りませんかってご連絡したのですが、依頼が来たときどうでしたか?

わかる これまでも本作りませんか? と依頼がくることもありました。でも本を作るって大変じゃないですか、どう考えても。出来上がるまで、いろいろ直さなきゃいけないし。依頼をいただいて進めていた本もあったんですけど、なかなか形にするのは難しいなと感じてて。
ちょうどその頃は、私の子どもが小さいこともあって、自分で絵本を作ろうと思っていたんです。そこで辻さんに声をかけてもらって、また大人に向けて本を作るのもおもしろいかもしれないと思いました。
あと辻さんは覚えていないかもしれないけど、初めてお会いしたときに、今まで辻さんが関わってきた本を並べて「このラインナップの中に入れたいんですよね」って言ってて(笑)

 あー、言いましたね!(笑)

わかる 変わった依頼の仕方だなと思って(笑)

 このラインナップに入れたいというか、初めてお会いする方に、胸を張って「こんな本を担当しました!」って紹介できる本を作りたいという意味合いでした。名刺代わりのような。

わかる それがおもしろいなと思って(笑)
そこに私の本も入れたいなと思いました。そのとき紹介していただいた素敵なラインナップの中に、入れたいと思ってくれてるのは嬉しかったです。それがけっこう大きいですね。

 はじめて聞きました(笑)
下手すると誤解されてしまいそうな表現をしていたかもしれないので、わかるさんがよい方向で受け止めてくださってよかったです(笑)


最後は苦しかった…。168個のネタ作り

 本を作りましょうと言ってから、そこまで方向転換はなかったですよね。「ほめる」を軸にして、最終的にネタは168個になりました。けっこうな量です。どういう風にネタは考えましたか?

わかる 毎日、朝起きてから寝るまでのモヤモヤをメモして過ごしていました。あとはツイッターにここ5年くらい私が思っていることが載っているので、だいぶ見返しました。100個くらいまでは調子よく作れたけど、そこから残りの68個がけっこう大変でした(笑)

 たしかに最後はわりと苦しかったですね(笑)

わかる それもこの本の発売記念個展の日程を決めちゃっていて、おしりがあったから、もう早くしないと!って。

10月 蔵前TOKYOPIXEL
12月 心斎橋パルコ

 ちょっと話がそれますけど、ぼくはちょっと最初「ほめる」にこだわっていて、そのせいでネタが限定的になってしまってたと思います。ぼくが返すコメントも、なんて言うんですかね…「ほめる」に固執した、型にはまったような返事をしてしまっていたことが多かったんじゃないかと。それに気づいてから、わかるさんにも「この本の第一の売りは、わかるさんらしさです!」とお伝えして、なるべくわかるさんのよさを消さないようにしなきゃと思っていました。

わかる ありがとうございます。本当にのびのびとやらせてもらいました。でもそれも、ある意味苦しかったかもしれないです(笑)


自分に当てはまるようなネタが気に入っている

 好きなネタ、好きなページありますか?

わかる 113ページの「最悪な事態を考えちゃう」ですね。これは本当に日頃から思っています。


 わかるさんはネガティブ思考というか、マイナス思考気味なんですか?

わかる 最悪な事態はかなり考えますね。ほぼ毎日です(笑)
あとは138ページ「些細なことでも自分をほめる」も好きです。

これはカバーソデでも使いましたが、多分この本全体のまとめというか、いちばん軸になっているネタだと思います。
あとは、55ページ「心配し過ぎちゃう」とか、20ページ「やる気がない」ですかね。

 自分に当てはまるようなネタが多いですかね?

わかる そうですね。はじめのほうに思いついたネタだと思います。

 ぼくがめちゃくちゃいいなと思ったのは、120ページ「コンプレックスがつらい」。

個展に来てくれた方に、おすすめのネタとしてここを紹介していました。
コンプレックスがつらいのは確かにみんなそうで、イラストのくまは「今日もかわいいね」ってほめている。一応ここで完結しているけど、下のテキストがめかくちゃいいんです。

「~気にしない気にしない。」で、ここで終わってもいい。でも最後「なんて、無理だよね。」っていう一言を加えているのが、わかるさんのネタのやさしさだよなと。嘘じゃないというか、押しつけがましくないというか。

わかる でも「なんて無理だよね」があると、ページとしてはほめてないですよね(笑)

 そうそうそう(笑)

わかる ないほうがほめてる(笑)

 「ほめる本」といいつつ、ほめてないページもたくさんあるという(笑)
でもそれが本の広がりになっていて、よかった点かなとも思います。さっきも言ったように、「ほめる」にこだわって「ここほめてないから、ボツにしましょうよ」なんて言ってたら、おもしろくない本になっていた気がします。
あとは挙げるとキリがないですけど、173ページ「イヤな言い方はしない」。


ぼくは家では基本的に料理担当なんですけど、妻が料理するときに、「なんでそんなニンジンの切り方するの?」って言っちゃったことがあって(笑)

わかる めっちゃありますよね(笑)
私も夫に「それ火つけるの早いじゃん! 火通り過ぎちゃうよ」みたいに言っちゃうことがあります。

 前にそれでケンカになったことがあるので、これは笑いました。

こだわりはキャラクターの「かわいさ」

 わかるさんがこだわったポイントはありますか?

わかる うさぎとくまのかわいさは意識して書きました。こんなポーズして、横にいたらかわいいな。ここは私と同じポーズをしてたら嬉しいなって。

 特にこれうまく描けたなあというイラストはありますか?

わかる 81ページ「お風呂になかなか入れない」のくまですね。お風呂に入れない工程を説明する細かいイラストです。

 あれはかわいいですね。

わかる あとは148ページ「効率化する」の2コマ目のうさぎ。

 たしかにわかるさんのこのパターンのうさぎ、あんまりないですよね。

わかる ちょっとミッフィーっぽい感じにしてみました。
あとはうさぎの耳が長いのが特徴なので、156ページ「どんなときも睡眠はとる」で、寝るときの帽子をかぶってたり、176ページ「気分転換する」で、イヤホンを耳の高いところにつけていたりとか、そういう細かいところも気に入っています。あと149ページ「目標を決める」でも帽子かぶってますよね。


 帽子が耳の上にちょこんとのってますね。ちびまる子ちゃんの永沢君みたい。

並べ替えてみたら、ストーリーができた

 ぼくのこだわりポイントは、流れです。モヤモヤを感じている人をほめる本ではありますが、ストーリーというか、流れがあるといいなあと。並べ変えてみたら、意外とうまくいきましたよね。最後パズルみたいに組み替えて。

わかる うまくいきましたね。最初、一日の流れでメモしてたネタを、描きやすいものからバラバラにイラストを描いていったので、順番がぐちゃぐちゃになっていたんだと思います。それが多分、最初にメモしていた通りにきれいに並んだのかなと。

 最初の18ページから25ぺージまでは、仕事に行ってから自宅に変えるまでの流れになりました。


主人公は、会社に行きたくないけど出社して、やる気がないと言いつつしっかり仕事をこなして、プレゼンで緊張して、ミスして落ち込んで、帰宅したら元気になる。いちばんキャッチ―だったので、本の冒頭はこの流れで行こうと。
あと気に入っているのは68ページから78ぺージまでの主人公と上司との関係です。

わかる あーこれもバチンと合いましたね。

 これはよかったですね。最初は主人公側の目線で話が進んでいくので、上司とやりとりするネタが続くと、だんだん、この上司むかつくわあって思うんです。でも、この流れの終盤の3ページは上司側の目線で描かれていて、上司が実は悪い人ではないことがわかる。それを見て、そうだよな、上司もがんばってるんだよなあって(笑)

わかる この上司も絶対、会社に行きたくないですしね(笑)

 こんな風にいい流れにできたのは、最初に登場人物紹介のページを作ったからかもしれないです。これがあるから、いろんなキャラクターが登場して、ネタにキャラクターを分散させられたというか。主人公ばっかりのネタじゃなくなったというか。これが大きいのかもしれないなって今、思いました(笑)


「ほめ」を自己完結できる本

 あとがきに「ふつうのハードルが高い」ってお書きになっています。これが本を作りながらお考えになったこと、より意識したことと想像するのですが、これについて教えていただけますか?

わかる 私は仕事がら、ひとりで家にいます。コロナもあって友達にはまったく会わない。だから私が一日何をしてたかなんて誰も知らないんですよ。ほんとに誰も知らないんです。働いて育児もしてるけど、誰も何も知らない。そんな中で家族以外が、私のことほめてくれるわけもない。だから自分の中で消化していくのが大切だなと。なので、自分がした行為を自分でほめて、自己完結するための本みたいな。もちろん近くにいる人にほめてもらいつつなんですけど。

 なるほど。でもそれがいろんな人にもあてはまるんだと思います。
ほめられる機会って意外とないですよね。ぼくも前、ちょっと気持ちがずーんって沈んでしまってた時期があるんですけど、そのときは確かに誰からもほめられてないし、自分で自分のことがダメだと思っていました。どんどん沼にはまっていっちゃうというか。それがあったからこの企画を依頼したというわけではないんですが、本作りを進める中で、当時のことをいろいろ思い出しました。やっぱりほめるって大切だよなと。『疲れたあなたをほめる本』すごくいい本だと思います。

わかる 私が思うことは本にすべて注ぎました。絞り出して絞り出して(笑)
だから本を読んでいただけると嬉しいです。

 少しでも多くの人に読んでいただけるようにこれからもがんばります。今回はインタビューのお時間をいただきありがとうございました!


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